中越沖地震をきっかけに書かれ新聞協会賞に輝いた、新潟日報の、原発の負の部分を浮き彫りにした壮大な長期連載企画 全7部の内、【<封印された活断層>第1回 再評価】です。

 原子力ムラを恐れずに、これだけ核心に迫る記事を書かれた新潟日報に敬意を表したいと思います。
時間の余裕がある時に少しずつお読みください。原発の負の部分が見えてきます。

  緊急連載 封印された活断層
【中越沖地震で被災した東京電力柏崎刈羽原発の周辺海域には、実はいくつもの「活断層」が眠っていた。

 東電は中越沖の震源 断層ともされる「F-B断層」について設置許可申請時の評価を覆し、最近の海域調査の暫定評価で活断層だったとした。

 さらに2003年、これを含め活断層 の疑いがある断層7本を把握しながら公表せず、報告を受けた国もそれを黙認していた。

 「地元だけがなぜ知らされていなかったのか」。地域住民からは怒りの 声が噴出している。耐震安全性の根幹にかかわる重大な情報を約4年半もの間、封印してきた東電と国。立地地域を軽視した無責任な対応はいつまで続くのか。】

第1回 再評価 

トップも寝耳に水、情報 現場レベル止まり
【「詳しく聞いておりませんので、経産省によく問い合わせてください」

 東電が柏崎刈羽原発沖の海底断層の一本が活断層だったと公表してから一夜明けた6日。町村信孝官房長官は午後の記者会見で、東電が03年当時、経済産業省原子力安全・保安院に活断層の可能性が高いと報告していた事実を官邸が把握していたかどうかを聞いた質問に、ぶっきらぼうに答えた。

 同年6月に東電が保安院に報告した同原発周辺海域の活断層再評価では、7本の断層を「活断層の可能性が高い」とし、従来の評価を一変。マグニチュード(M)6・5-7・5規模の地震を引き起こす恐れも指摘した。

 しかし、東電は「原発に大きな影響を及ぼす揺れは起こさない」として公表を避けた。再評価の中身を知っていたのは「本店の地質担当部門と同原発の一部だけ」(本店広報部)という。東電は同日の会見で、勝俣恒久社長はもちろん、当時の同原発所長だった武黒一郎副社長らが11月中旬まで知らなかったと明言した。

 一方、保安院では、どのレベルまで東電の報告の中身を把握していたのか。03年当時に保安院長を務めていた佐々木宜彦発電設備技術検査協会理事長は「私のところで議論した記憶がなく、現場で処理したのだと思う。(安全性が確認された事項が)大臣や官邸に上がることはあり得ない」とする。

 「安全上の問題はない」との判断が、東電と保安院内で情報を現場レベルにとどめ、非公表とする流れを生んだようにも見える。

 02年の原発トラブル隠し発覚後、全7基が停止した同原発。03年6月は夏の電力需要ピーク期を控え、東電が運転再開に向けて地元の理解を得るため全力を注いでいた時期だ。

 柏崎刈羽原発の透明性を確保する地域の会の新野良子会長は「地元だけが知らない構図はトラブル隠しのときから同じ。法的義務がないから公表しないというのは言い訳にもならない」と嘆く。

 04年20月の中越地震、今年7月の中越沖地震発生を受けても活断層の存在を伏せていた東電。中越沖の後、海域の再調査実施を伝える地元向け広報紙でも、掲載した地図はあえて03年以前の古いものを使っていた。こうした姿勢は住民にとっては背信行為に映る。

 自宅が全壊し柏崎市の仮設住宅で暮らす無職、塩ノ谷亘琇さん(75)は「活断層の存在を早く発表していれば、われわれも注意できた」と憤る。

 F-B断層が中越沖の震源断層につながる確率が高いことを指摘している東京大地震研究所の纐纈一起教授は、原発の安全審査の在り方に疑問を投げ掛け「10年に1回くらいは断層の再評価など国の審査を見直すシステムを構築すべきだ」と訴えている。

 <活断層> 一般に断層のうち、比較的新しい時代まで地層がずれるなどの動きを繰り返していた断層で、今後も活動する可能性の高いものを指す。

 地質年代で最も新しい「第四紀」と呼ばれる約160万-1万年前までにできた地層にある断層がこれに当たるとされる。

 原発の耐震基準を定めた旧耐震設計審査指針は、5万年前より後の時代に動いた断層を設計時の検討の対象としていたが、昨年改定された新指針では、さらにさかのぼり13万-12万年前より後に動いた可能性のある断層を考慮すべきとしている。】

「揺らぐ安全神話 柏崎刈羽原発」目次
第1部 止まった原子炉
第2部 過信の代償
緊急連載 封印された活断層
第3部 なぜ未開の砂丘地に
第4部 はがれたベール
第5部 絡み合う思惑―検証 東電30億円寄付
■ 第6部 断層からの異議
第7部 閉ざされた扉-原子力産業の実相