イラン野球講演会を開催しました | 欧州野球狂の詩

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日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 国際野球支援団体ベースボールブリッジでは、昨日15時から東京・六本木のイラン料理店「アラジン」にて、イランユース代表監督の色川冬馬さん(24)をゲストにお迎えしてトークイベントを開催しました。


 今回のイベントの目的は、イランにおける野球の現状はもちろんリアルな目で見た「イランという国」についても知ってもらうこと。当日はベースボールブリッジのイラン担当である配川啓史郎が総合司会を務め、色川さんへの「公開インタビュー」のような形でイラン野球にまつわる様々な話題について語っていただきました。


 イベントはまず、どのようなきっかけでイラン代表監督の募集に応募することになったかについての話からスタート。元々大リーガーになることを目指し、アメリカ・プエルトリコ・メキシコで選手としてプレーしてきた色川さんでしたが、故障のために残念ながら現役引退を余儀なくされることに。そこで今後どのようにキャリアを形成するか考えを巡らせていたところ、たまたま友人の方から代表監督の募集の話を聞き、応募することを決意したそうです。


 話はそこから、イラン渡航後に回った各都市での取り組みや、現地で驚かされた生活習慣の違いなどについての話題に展開。現地で開催した野球教室や選手たちとの交流、日本とは180度異なるイランの文化(イスラム教に関係した事物も含め)に当初は戸惑いながらも、滞在する日数を重ねるうちにそこに適応していったことなど、現地に実際に渡航した人ならではのリアルなエピソードが数多く披露されました。特に、イランでプレーしている選手たちから質問攻めに遭い、「野球がテレビで見られない国」における野球への愛情や熱の強さには驚かされたそうです。


 特に印象的なフレーズとして挙げられるのは、「日本人が持つイランに対するイメージは、その多くが非常にアメリカナイズされたものだと感じた」というもの。例えば、中東のイスラム教国というだけで治安が良くないと思われがちなものの、実際には銃社会であるアメリカにいた時よりもずっと安心して暮らせたこと、またイラン人にはおもてなしの文化があり知人に対しては非常に優しいなど、「メンタリティ的には日本人にも非常に近いところがある」と感じられたことなど、従来の「イラン観」とは異なる国の在り方が紹介されました。


 ここ最近の極東アジア諸国ほど露骨に険悪ではないとはいえ、政治的にはやはり複雑な関係にあると言わざるを得ない日本とイラン。それだけに、我々一般の日本人が持っているかの国に対するイメージも、必ずしもその全てがポジティブなものであるわけではないように思われます。しかし、必ずしもそうしたイメージが正しいとは限らないということを提示できたのは、非常に重要かつ大きな意義があることだったのではないでしょうか。


 一方で、現地における野球の在り方については少なからず課題も挙げられました。特に重要なポイントとして挙げられたのは、野球用具の流通が国内で一切なく、ごく限られた手段でしか新しい用具を入手することができないこと。国内のトップリーグがアマチュア組織であり、パブリシティが一切ないことから普及が難しいこと。イラン野球そのものの歴史の浅さと、日本以上に縦社会であるという風土とがあいまって、個々の利害関係が例えば代表チームの選手選考に大きく影響してしまうことです。


 こうした課題の解決策としては、用具の流通に関しては既に日本国内で用具を収集し現地へと送付していること(その送付にはイラン野球連盟も金銭的な面も含め協力していること)が紹介されました。残る2つの問題も含め、解決には少なからず時間はかかる見込みではあるものの、少しずつ克服していくつもりであるとのこと。当然イラン野球連盟の側ともその考えでは一致しているそうです。


 今後の目標としては、東京五輪が開催される2020年までを1つの目標として様々な普及活動に取り組んでいくつもりとのこと。現在はユース代表の監督としてU-18の世代を主に担当していますが、6年後は自ら育てた選手たちとともにフル代表の監督に移行し、国際舞台で戦うことを念頭に置いています。その舞台で少しずつ結果を出し、イランの国際球界における立場を少しでも高めていきたいとの考え。今年度はU-18代表でどこかの国と国際親善試合を行いたいと考えているそうです。


 その他、「イラン以前」の色川さんのキャリアについても話は及び、プエルトリコでの生涯の師との出会いやアメリカでの選手生活、今年7月に予定されている地元仙台の少年野球チームを率いてのプエルトリコ遠征についてなど、様々な話題が取り上げられました。約2時間の予定で行われたイベントでは、質疑応答をフリーにしたこともあってトークの合間にも積極的に質問が飛び交い、あっという間に時間が過ぎていったような印象でした。


 今回こうしたイベントを開催できたことは、イランとそこにおける野球文化、両方の「リアルな現在」を伝えられたという意味で非常に大きな意義があったと思います。会場まで足を運んでいただいたゲストの方々の中には、20代から30代までの若い世代(その中には、過去に開催したイベントにも来場していただいた方々も少なからずいらっしゃいました)はもちろん、それよりも上の世代のご夫婦や日本語にも堪能なイラン人女性の方など、様々な人々が混在していました。いかんせん、関心を持つ世代が若い世代に偏りがちな面がある国際野球の世界を、こうした幅広い人々に対してPRできたのは嬉しいことですし、とても希望にあふれることだったのではないでしょうか。


 このような短いながらも素晴らしい時間を過ごせたことを、メンバー一同心から嬉しく思っております。今後こうしたイベントを引き続き開催するか否かは現時点では白紙のままですが、将来的にまた皆さんとお会いできる機会があればその際は是非足をお運びいただければ幸いです。最後にはなりますが、今回のイベントを開催会場として当日もサポートしてくださった「アラジン」従業員の皆様、メインゲストとして登場いただいた色川さん及び広報スタッフの落合さま、そしてご来場いただいた全ての皆様に対して、団体を代表して心から感謝申し上げます。ありがとうございました!!


国際野球支援団体ベースボールブリッジ代表

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田中亮多 a.k.a. SYSTEM-R