同じ華は二度咲かない | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 プロ野球は昨日のロッテ-オリックス戦(石垣)でついにオープン戦が始まり、いよいよ本格的に球春到来といった趣だ。今年球場を沸かせるのは一体誰なのか、新たに加わった新人たちはどれだけ活躍できるのか、そして自分の贔屓球団は果たして日本一の座に就くことができるのか。多くの野球ファンが、胸を躍らせながら過ごしていることだろうと思う。


 そんな時節柄に取り上げるには相当に時期尚早な話題かもしれないけど、先日ask.fmにて興味深い記事を紹介してもらったので、少し紹介してみたいと思う。件の記事というのは、アメリカのFOXスポーツのMLB担当ライターであるジョン・モロシ氏が執筆したもので、「我々はベースボールのスターにもU・S・Aと叫ぶべきだ」というタイトルが付けられている。記事の中でモロシ氏は、近年のMLBに外国出身のスターが多数生まれていることを踏まえて、まず「アメリカ人の大リーガーはもちろんMLB最多だが、果たして彼らはリーグでベストの選手なのか」という疑問を投げかけ、WBCがそれを解決しうる舞台であると綴っている。


 モロシ氏はその根拠として、WBCは過去3回の大会の中で、常に各国の最強プレーヤーが出場してきたわけではないものの、トップレベルと呼ぶには十分なクラスのスター選手たち(アメリカ代表でいえばデビッド・ライト、ジョー・マウアー、クレイグ・キンブレルなど)が登場してきた大会であると語る。しかし、アメリカ代表はその舞台で通算10勝10敗、ただの一度も大会の王座に就いたことがないと紹介し、「アメリカ代表が例外的な強さを持つ存在であるという風潮には疑問符がある。この評価を変える場が彼らには必要だ」として、2つの国際試合についてのアイデアを披露している。1つは11月に行う日本代表とアメリカ代表による対抗戦。もう1つはオールスター期間中のいわゆる「国際Aマッチ」だ。


ソース:http://msn.foxsports.com/mlb/story/jon-paul-morosi-american-exceptionalism-in-baseball-stars-olympics-sochi-spring-training-020714


 もちろん、この記事はアメリカ人がアメリカの立場で書いたものなので、俺たち日本人の視点とは少し違った部分があるかもしれない。しかし、特に2つ目のアイデアに関しては日本球界にとっても大いに参考になるし、検討する余地もあるんじゃないかという気がしてくる。モロシ氏がこのアイデアを提唱する理由は、「オールスター期間中はそれなりに長いリーグ戦の中断があるのに、メインイベントとして盛り上がれるのはたった1試合だけ」という物だけど、俺はNPBが実施している今のオールスター戦の在り方に疑問を抱いているからこそ、このアイデアをぜひ取り入れてもらいたいと思っているんだ。


 NPBのオールスター戦はご存知の通り、セ・リーグ選抜×パ・リーグ選抜という組み合わせで毎年、2試合ないしは3試合行われるのが通例となっている。MLBをはじめ諸外国のリーグが毎年1試合しか行わないのに対し、わざわざ複数回実施している原因はNPBの資金不足だ。NPBではMLBなどと異なり、ペナントレースにおけるテレビ放映権やグッズなどの収入をリーグが一元管理し、全体のうちいくらかをリーグの運営資金として徴収してから一括分配する、という仕組みが存在しない。基本的に機構の収入源がオールスターと日本シリーズしかなく、その不足を補うためには1つでも多く試合を開催せざるを得なくなっている。


 俺自身は、例えるなら全12球団がいわば、「日本プロ野球株式会社」の一員であるべきだという立場だから、その見地で言えばすぐにでもリーグ側が、レギュラーシーズンの試合からも収益を手にできる体制を作るべきだと思っているけれど、その改革がすぐには無理なのであれば、球宴の複数回実施はやむを得ないのかなと考えている。ただ、問題はその中身だ。同じセ×パという組み合わせで何度も試合をしている現状では、第1戦から第2戦、第3戦と続いていくたびにどんどん新鮮さが失われていってしまっている。交流戦も導入され、リーグの壁をまたいだ対戦が当たり前のように行われる今のNPBにおいては、一種のお祭りであるオールスター戦の意義は問われるべきところだろう。


 だからこそ、どうせ複数回試合をするのならここに手を付けるべきだと俺は思うんだ。それには、日本代表の活用という意味合いもある。昨年からブランドが全年代で統一され、新たな舵を切った日本代表だけど、次にトップチームがWBCを戦うまでにはまだ4年もの時間がある。その合間には強化試合であったり、まだ詳細が明らかになっていないプレミア12が行われたりすることになると思われるけど、現状ではこの手の試合の相手はキューバ・オーストラリア・台湾に限られてしまっており、結局代表ごっこの域を出ていない状況があると思う。


 国際化という大きな目標に向けて球界全体が動いている昨今、もし本気でそれを実現したいと思うならば、野球にも代表戦の文化をきちんと定着させる必要がある。そのためには、現状のままでは明らかに代表の試合数が足りないんだ。考えてみれば、サッカーがあれほど世界との戦いで盛り上がれるのは、最大の目標であるW杯本大会までの間に国際大会を戦う機会がたくさんあるからだ。W杯アジア予選やアジアカップ、キリンチャレンジカップといった舞台で日常的に海外の代表チームと戦うからこそ、競技の国際性がより強烈に意識できる環境ができていると思う。もちろん、国内リーグの年間試合数があまりに違う野球では、サッカーのやり方を100%参考にはできない。でも、少しでもフル代表の経験値を高める可能性があるなら、そこは思い切って切り込んでいくべきじゃないだろうか。


 俺のアイデアはこうだ。毎年のオールスター期間を「オールスター&インターナショナルウィーク」と銘打って、オールスター戦1試合と代表戦2試合を行うこととする。従来のオールスター第2戦と第3戦が、そのまま代表戦に置き換わるイメージだ。オールスターはこれまで通りセ×パの組み合わせで戦い、真剣さと遊び心とを兼ね備えたエンターテイメントとして行う。そして代表戦には中堅国と強豪国の2か国を招待し、こちらは全員NPB所属の日本代表で当然真剣勝負として戦う。招待する国としては例えば、第1戦には欧州王者イタリア、第2戦にはWBC2013ファイナリストのプエルトリコなんてのはどうだろうか。


 これなら毎試合対戦カードが変わるので、ファンの側からすれば祭りとしての新鮮さをずっと感じていられるし、NPBの選手が日本代表ユニフォームに身を包むのを見られる機会も増える(代表ユニフォームのデザインが好みかどうかは別として)。現場ではもちろん、NPBの選手たちがWBCに向けて国際試合での経験値を積む機会を増やせる。またビジネス的にも、NPBの収益源を減らすことなく代表チームの稼働する機会を増やすことができる。それこそWBC2013出場問題の引き金にもなった、代表独自のスポンサーだってたくさん獲得できるだろう。ブランドは露出機会が増えてこそ価値を生む物であって、世に出る機会がなければただの宝の持ち腐れだ。


 もちろん課題もある。一番の問題は各国ごとの日程のすり合わせだ。現状では、各国のオールスターゲームは国ごとに完全にばらばらに行われているので、各国フル代表が世界中を駆け回ることができるよう、ここをうまく統一できないと悲惨なことになる。例えば前述の対戦カードにしても、NPBのオールスター期間がMLBのレギュラーシーズンと重なってしまったら、プエルトリコ代表は大リーガーたちを招集できず興業的な価値が下がってしまう。WBC準決勝で敗れた日本代表選手たちによる、ヤディアー・モリーナ(カージナルス)へのリベンジもお預けだ(イタリアの場合、ヨーロッパカップの開催が6月でユーロは9月なので、うまいこと地域レベルの大会が日本の球宴期間とずれている分、まだ融通は利きそうだけど)。


 この点サッカー界が上手いのは、FIFAという絶対的な存在が頂点にいて、彼らが年間カレンダーのアウトラインをまず決めてしまうので、それに沿って各国の国内リーグの日程も決まっていくというところだ。国際Aマッチデーという、「各クラブが代表に選手を供出しなければならない日」も設定されており、これにクラブが抗うことは許されない掟になっている。だからこそ、国内リーグと国際大会をうまいこと両立できている。一時はMLBが国際組織であるIBAFをも事実上立場的に上回っていた野球界で、IBAFの後継組織であるWBSCがどれだけそこに近づけるか、残念ながら現時点では未知数だ。


 でも、現実的にオールスター戦の意義が問われている現状があり、なおかつ常設化した日本代表をもっと活用したいという思いが現実的にあるのなら、このテーマに関しては球界全体(もちろん日本だけにとどまらず、世界中の関係者を含めて)で話し合い検討する価値はあるんじゃないかと思う。何か課題を解決しようとして立ち上がっても、物事が結果的に常にいい方向に動くとはもちろん限らない。しかし誰かがいつか立ち上がらなければ、絶対に課題が解決することはないんだ。


 今の野球界に必要なのは、現状をもっとよくしたいという熱意とそれを具現化するための行動力だと思っている。今年はもう無理でも(その意味では、今の時期でも時期尚早ではないのかもしれない)、来年以降の改革に向けて色々なところで協議を進めてほしい。球界のリーダーだって新しくなったわけだしね。侍ジャパンを常設化したのは、13番目の球団である代表ブランドを使ってもっと稼ぐためだろう。であるなら、そのためにはもっと頭使うしかないよ。