裏切り者に夢を売る資格なし | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

 実際のところ、その事実に感づいていた人間は少なからずいたかもしれない。だからと言って、隠ぺいが行われたという事実が許されるわけではない。NPBが昨日認めた、統一球の仕様変更に関する件についてだ。この知らせが列島を駆け巡るや否や、ネット界隈のプロ野球ファンたちはたちまち大騒ぎになった。今まで頑なに「やってない」と言い続けてきたことをついに「自白」したわけだから、それも当然だろう。


 NPB側の言い分は大筋でいうとこうだ-2011年から使用していた統一球は、NPBが定める反発係数の下限である0.4134(上限は0.4374)に近づけた数値で製造されていた。ところが、実際にNPBから公認され公式戦などで使用されていたボールの中には、その値をさらに下回る「飛ばなすぎる」ボールも含まれていた。シーズン中に行われるボールの検査では、複数の球場から選んだボールの平均値が0.408という数字をたたき出すことすらあった。この状態を是正するため、2013年シーズンから反発係数の是正を行った。事実を公表しなかったのは、「発表することによる無用な混乱を防ぐため(下田邦夫事務局長)」である-。


 よく考えてみれば、過去2シーズンのプロ野球では貧打の試合があまりにも目立ちすぎていた。毎年のように年間1000本を超えていたシーズン総本塁打数は、11年は939本(1試合当たり1.09本)、12年に至っては881本(同1.02本)と激減(2010年までが1試合当たり1.86本の1605本ということを考慮すれば、異常な数値と言っていい)。3割打者が激減する一方で、防御率ランキングの上位は軒並み1点台の投手で占められるようになった。


 あまりの投高打低ぶりだったこの2シーズンと比べれば、今季は341試合を消化して512本塁打、1試合当たり1.50本と改善されている。昨年はシーズン通算で24本塁打だったDeNA・ブランコ(去年までは中日所属)が、今年は既に23本塁打を記録しているのが象徴的だ。リーグ全体で見ても、今年は昨シーズンまでと比べてはるかに打撃戦が増えている。「DeNA12x-10巨人(5/10、@横浜スタジアム)」や「オリックス9-8DeNA(6/8、@横浜スタジアム)」などといったスコアは、どちらも投手陣に課題があるDeNA絡みで、しかも打者有利で有名なハマスタで開催されたゲームであることを差し引いても、昨年まではそうそう拝めなかったものだろう(無論、どちらもその馬鹿試合っぷりには賛否両論あるかもしれないが)。


 いずれにせよ、見た目にもより試合が分かりやすくなった事を考えれば、ボールの仕様が変更されたこと自体はポジティブなことであり、その決断自体には何の問題もない。むしろ俺が許せないと思うのは(俺がというより、これは日本全国のファン誰もが共通して感じていることかもしれないが)、何故その仕様変更を行った事実をNPBが素直に公表せず、逆に選手や現場に対して隠蔽したのかということだ。変えたなら変えたで最初からそう言えばいいものを、今更この時期に発表するなんてどういうつもりなのか。無用な混乱を防ぎたかったと言いながら、かえってパニックを増大させただけじゃないか。


 たとえどのような形のものであれ、ボールやバットといった用具の規格変更は、そのまま試合の内容にも直結する問題だ。ボールが飛びやすくなったり飛びにくくなったりすれば、その都度投手の打者に対する攻め方だって変わるし、フォームにだって当然影響が出る。ましてそれがプロという舞台におけるものであれば、日本プロ野球選手会の嶋会長(楽天)が指摘したように、選手の労働条件にも大きな影響が生まれることになるわけだ。前年度の成績によって、出来高契約を結んでいる選手だってたくさんいるんだからね。


 用具の規格が変わることによって、実際のプレーの上で戦略上様々な変化が生まれるのは、何も野球に限らずあらゆるスポーツにおいて共通だ。だからこそ仕様変更を行った際は、その競技の統括団体は速やかにファンや現場に対して、その旨を公表する義務がある。今回の仕様変更はNPB曰く、違反状態にあった反発係数を是正するための正規の変更であったとのこと。しかし、従来のボールを統一球に変更したのだって、同じ正規の変更であったことは事実だろう。前者はひた隠しにし、後者はきちんと公表したというのは、明らかに態度として矛盾しているしダブルスタンダードと言わざるを得ない。


 今回NPBが公表をしてこなかった理由としては、いくつかの推論が既に報じられている。シーズン開始前に変更したことを明らかにすれば、手元にある違反球が在庫として残ってしまう。過去2年間のシーズンの記録に疑義をはさむ者も出てくるかもしれない。統一球を肝いりで導入した、加藤良三コミッショナーのプライドもずたずたになるだろう。確かにそれらは現実味のある根拠とは言えるだろう。しかし、その中にファンや現場の方をきちんと向いたものはあるのか?少なくとも俺にはそうは思えない。そんな現場やファンをないがしろにするような考え方しかできないような組織に、プロスポーツという産業を担う資格なんてあるんだろうか?


 プロスポーツとは興業であり、エンターテイメント産業の1つだ。その使命は見に来た人々に非日常の空間を提供し、一時の夢を見せること。そして大事なのは、その存在は人々の生活を豊かにする潤滑油にはなっても、例えば日用品や食品などの業界とは違って「それ抜きには社会が機能しない」というくらいの必要不可欠のものではないということ。そしてその商品は売り手である背広組自身ではなく、現場にいる選手たちをはじめとする人々が生み出す無形の価値であるということだ。だからこそ、プロスポーツ産業の運営を担う者たちは、常にファンや現場に対して真摯な姿勢であり続けなければならないし、彼らとの信頼関係を壊さないような努力をし続けなければならない義務があるんだ。


 それを考えれば、NPBの隠ぺい体質は断じて許されるようなものじゃないし、今回のケースも断罪されてしかるべきものといえる。例えば、あるホテルが宿泊客に対して隠し事をしていたらどうなるだろう。その隠し事というのが、例えばカップルへの婚約祝いなどのサプライズを目的とするものであれば、それはそういう演出なのだからむしろシークレットにして然るべきだろう。しかし、それが例えば宿泊料金に関する手違いなど、よりシリアスなものだとしたら?そのミスが発覚した時、すぐにお客さんにお詫びすれば「なんだよお前、しっかりしろよ」というお叱りで済んだかもしれないものが、手違いをひた隠しにし続けたがために「こんなホテル、2度と使わないからな」に変わることだってあるんだよ。


 ホテルやプロ野球に限らず、客商売において非常に重要なのはいわゆる常連さんの存在だ。顔なじみとしていつも熱心に利用してくれて、応援もしてくれる人たちの存在は、商売している側からすれば本当に大切なものだし大事にしなければいけないものなんだよ。そしてそういう熱心なサポーターほど、いったん裏切られたと感じると敵対的な関係になってしまう。お客さんの方からしてみれば、それだけの思い入れを持って信頼していたわけだからね。だからこそ、客商売なのに客をないがしろにするなんて態度は、本来ならばありえないし言語道断なんだよ。


 でも、トップが元官僚の天下りのNPBにとっては、そんなごく当たり前の常識も常識じゃなかったらしい。まだ社会人2年目で学ばなければいけないことも多い立場であり、ビジネスの神髄に触れたとはお世辞にも言えない俺ですら、上で述べてきたようなことは当然理屈として知っている。商売人にとってのイロハのイなんだから当たり前だろう。たとえどんなに歴史と伝統があり、これまでは日本一のプロスポーツ統括団体としてずっとやってきたとは言っても、そんなビジネスの基本中の基本すら知らないような連中に、俺はこれ以上日本プロ野球を担ってもらいたくはない。


 12球団全てでボールを統一するという発想自体は、競技の公平性を考えればいいことだし続けるべきだとは思う。でも、その統一を行った結果内規違反の粗悪品がリーグ戦で使用され、しかもその是正が隠蔽されていたというのではあまりにも酷すぎる。しかもこの統一球、NPB意外にもキューバや台湾のリーグ、さらにはIBAF主催の国際大会においても使われていたというから、開いた口がふさがらない。日本国内はおろか、海外にまで迷惑をかけたのははっきり言って恥としか言いようがないし、国際野球ファンとしても黙ってはいられないよ。ジャパンブランドに大きな傷をつけたという意味でも、罪は大きい。


 考えてみれば、NPBは昔から都合の悪いことはファンに対してひた隠しにする傾向があった。2004年の近鉄とオリックスの合併騒動だって、ストライキにまで発展したのは密室で協議が進められ、現場やファンをないがしろにし続けた態度が怒りを買ったからじゃないか。9年前にあれだけの大事件があったのに、なぜその事例から学ばない?学べないのか?学びたくないのか?学ぶ度胸もないのか?今回の一件でのファンや現場の怒りは、某投手がマウンド上で爆発炎上した事例とは全く次元が違うよ。あの球史に残る大汚点を経験しておきながら、何1つ組織として成長していないとは情けないにもほどがある。


 真面目な話、こんなことばかりいつまでもやっているのなら、NPBには今すぐその看板を下ろしてもらいたい。NPBの現役員たちに対しては、総退陣を求める声が多数上がっているけれど、この組織の隠蔽体質を考えたらそれでは生ぬるいと思う。今のNPBを存続させるくらいなら、いっそメキシカンリーグのようにMLB傘下にでも入った方がよっぽどマシじゃないのか。一度ガラガラポンして、本気で0からやり直すくらいじゃないと、きっとまた俺たちは裏切られるよ。もちろん口で言うほど簡単じゃないし、暴論であることは認めよう。でも、そんな極論を吐かなければいけないくらい、NPBが組織として腐っているのも確かだと思うんだ。この一件で野球を嫌いになることはないけれど、もう俺はNPBにはいい加減愛想が尽きたよ。