【Wahoo!スポーツ】「EUのへそ」の憂鬱 | 欧州野球狂の詩

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日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

【管理人注】

 この記事は、管理人自身の頭の中にあるものをそのまま文章にした、完全な創作です。急になんだか書きたくなったので、文章を書く練習も兼ねて、SLUGGERあたりで執筆している、スポーツライターになったつもりでやってみました。実在の人物や団体などとは、一切関係ありません。あらかじめご了承ください。以下のような設定や世界観を前提に、読んでいただければ幸いです。


・舞台は2041年のヨーロッパ

・オランダ・イタリア・サンマリノ・ドイツ・スペイン・イギリス・フランス・チェコ・スウェーデンの9か国32球団からなる、ヨーロッパトップリーグとしてのEUBL(European United Baseball League)が成立している

・EUBLの事実上の下部組織として、各国にそれぞれの国内リーグ(1部、2部、3部…)が併存している

・現在のNPBに代わるリーグとして、日本にJMLB(Japan Major League Baseball)が成立している


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 ヨーロッパトップリーグとしてのEUBLが誕生して以降、野球界の勢力図は大きく変わった。リーグ創設以前、それまでヨーロッパ各国で展開されていた野球の国内リーグは、既存の人気種目として覇権を獲得していた、フットボールやラグビー、あるいは自転車といった競技と比較すれば、巷における人気度は陰に隠れたものにすぎない存在であった。しかし、それらが1つの巨大な組織として統合され、経済的にも強化されるようになると、世界中の数多くの有力選手が、ヨーロッパ球界に身を置くようになった。現在のEUBLは、アメリカのMLB、日本のJMLBと並ぶ、国際野球界における世界第3王朝としての立場を、確固たるものにしたのだ。


 特に、スポーツビジネスとしての成功と富という面において、EUBLがヨーロッパ球界にもたらした物は決して小さくはない。ヨーロッパが、かつては「一強独裁」とも言えるほどの栄華を誇った、MLBの事実上の植民地ではなくなったというだけでも、その意義と影響力がどれだけ大きいかが分かろうというものだ。しかしながら、必ずしもヨーロッパの全ての国が、その恩恵を享受できたわけではないことも、また事実である。そうした「波に乗り遅れた」者たちは今、MLB絶対主義的な今世紀初頭には存在しなかった、新しい問題に頭を悩ませ始めている。ある意味、その苦しみを今一番肌で実感しているのは、ベルギー人たちかもしれない。


 ベルギー1部リーグ・フラームスベースボールリーガのコミッショナー、アンソニー・ヴァンデンブランデンは、ここ最近のリーグ全体の観客動員数について、大きな懸念を抱えている。「1部リーグ全体での観客動員数は、この10年間全体的に減少傾向にある。5年前と比べると、昨年の減少率は10%にもなる。1年ごとに2%ずつ減っているというわけだ。これは異常と言うほかないだろう?ベルギー代表の人気度自体は、それほど変化しているわけではないのに」


 彼が言う「異常事態」の理由は、実は思っている以上にシンプルで単純だ。それは、「国内リーグに有力な選手が乏しいから」。昨年のヨーロッパ選手権予選において、ベルギー代表に招集された28人のうち、ベルギー国外でプレーしている選手の数は、実に19人を数えた。そのほとんどは、25~32歳の年代に属する主力級。ベルギー国内組でプレーしている面々の中で、主力と呼ぶに足る存在だったのは、現在はイギリスのロンドン・メッツでプレーする、当時23歳のリリーバー、レオン・クライシュテルス1人だけだ。


 ベルギーリーグでプレーする選手のカテゴリーは、ベルギー人と外国人を問わず、大まかに言えば「ネームバリューはそれなりだが力の落ちたベテラン」「まだ才能が開花しきっていない若手」のどちらかに大別される。今年7月28日に行われるオールスターの投票結果を見ても、その傾向は明らか。ポジション別のファン投票得票数トップを年代で見ると、ベテラン組はダーク・ヴァンダム(元ベルギー代表エース)の37歳を筆頭に、マリオ・アンブロシーノ(アルゼンチンリーグ二冠王経験者)36歳、ショーン・ハンター(元アメリカ代表主砲)36歳など。若手組はアンドレ・ファンロンパイ18歳、スヴェン・ジルベール19歳(ともにベルギーU-21代表)などがいる。一番各チームの中心になって働かなければいけない年代において、有力選手がほとんどいないのだ。


 そうした年代の有力選手たちは、大半がベルギーで実力の片りんを1~2年間見せつけた後、より裕福な他国の球団に売り飛ばされてしまう。クライシュテルスにしても、ヨーロッパ選手権に招集された当時は、既にイギリス移籍が秒読み段階に入っていた(実際、大会が終了してから3日も経たないうちに、移籍発表のための記者会見に出席している)。ベルギー球界における「トップリーグの年齢層の二極化」は、こうした背景によって生じているのだ。


 実はベルギー球界は、一度EUBLへの参入を打診されている。2025年、EUBL誕生の前年に行われたCEB(欧州野球連盟)の総会の場において、全ての加盟国に対してリーグ参入の意思を確認するヒアリングが行われた際、もちろんベルギーもその場に呼ばれたのだ。当時のベルギー球界関係者が、CEBのアスラン・シュレディンガー(当時)との会談に臨んだ時点で、既に隣国のオランダやフランスは、参入する意思を表明したことが明らかになっていた。そのため、ベルギーも当然そこに加わるだろうと、誰もが予想していたのだ。


 しかし結論から言うと、ベルギー側は「ベルギー人選手が、トップレベルでプレーする機会が減る恐れがある」という理由で、それを望まなかった。歴史的に険悪な関係にある、オランダ語圏とフランス語圏で競技連盟が分かれており、国内での調整が難しいという特別な事情もあった。結果的には、彼らの目論み通り「トップレベルでプレーする場」は確かに確保されたのだが、それはヨーロッパトップの舞台と比べると、大きく水をあけられた環境と言わざるを得ないものだった。


 現在、ベルギーリーグで5連覇中である、ホボーケン・パイオニアーズのセルゲイ・ディミトロフ球団代表は、「今ベルギーでは、主力級の選手でも100万ドル(約8000万円)に満たない年俸でプレーしている。これに対して、EUBLの選手1人当たりの平均年俸は220万ドル(約1億8000万円)だ。これでは勝負にならない」と嘆く。ユーロ圏においては、1人当たりの年間GDPで上位に入るベルギーは、かなり裕福な部類には入るのだが、それでも世界中から資金が集まる世界3大リーグに対して、1か国で立ち向かうにはあまりにも基盤が弱すぎる。「上位への登竜門としての育成リーグ」という巷の評価は、そう言ってしまえば聞こえはいいが、その実態は関係者たちにとって、あまりにも過酷だ。


 「フラームスベースボールリーガが、我が国の野球ファンにとって重要な存在でなくなるのは、我々にとっては耐え難い屈辱だ」と、ヴァンデンブランデンは言う。「他競技のファンにそう思われるならまだいい。だが、野球ファンにとってもそういう存在でしかないというなら、この状況を放置しておくわけにはいかない。これは、ベルギー球界の未来にも直結する問題なんだ。解決の糸口を見いだせないのが、辛いところではあるけれどね」


 ヨーロッパ球界全体の繁栄とは裏腹に、どこか先が見えない迷路に迷い込んでしまっている感のあるベルギー球界。彼らが出口にたどり着くことができる日は、来るのだろうか。


(本文ここまで)


 いかがでしたでしょうか。今回は、ベルギーネタでやってみました。今回の記事に登場するフラームスベースボールリーガは、「ヨーロッパリーグ結果速報」の記事でも速報の対象としていますが、他国と比べると今一つ影が薄い、というのが率直な感想。この国は、かつてはヨーロッパにおける強豪だったという史実もあるんですが、この落差はいったいなんなんでしょうね。スコア速報の際に参考にしている「Score's way」(http://www.scoresway.com/?sport=baseball&page=home )というサイトでも、なぜかベルギーは対象外になってますし。


 あまりにも大きな存在が近くにあるために、自国リーグが苦しい状況に陥っているという国は、実は現実世界の野球界にも存在します。現在では、若干状況が変わっているらしいのですが、プエルトリコリーグなんかはまさにその典型例でしょう。台湾の中華職棒も、ある意味それに近い部分があるかもしれませんね(厳密にいうと、プエルトリコも台湾も、政治的には国家ではないんですが)。こういう話は根が深いだけに、なかなか解決策が見つけられないのが正直なところ。今回も結局記事中では提示できてないですし、難しいですね…。