【Wahoo!スポーツ】欧州に吹かせ、アラビアの風 | 欧州野球狂の詩

欧州野球狂の詩

日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

【管理人注】

 この記事は、管理人自身の頭の中にあるものをそのまま文章にした、完全な創作です。急になんだか書きたくなったので、文章を書く練習も兼ねて、SLUGGERあたりで執筆している、スポーツライターになったつもりでやってみました。実在の人物や団体などとは、一切関係ありません。あらかじめご了承ください。以下のような設定や世界観を前提に、読んでいただければ幸いです。


・主人公はドイツ代表の4番・セカンドを任される、アラブ系ドイツ人のスラッガー(29歳で右投右打、レーゲンスブルグ・レギオネーレに所属)。8シーズン連続で3割30本100打点以上、うち40本塁打を3度達成

・舞台は2045年のヨーロッパと中東

・ヨーロッパにはオランダ・イタリア・サンマリノ・ドイツ・スペイン・チェコ・イギリス・フランス・スウェーデンの9か国32球団、中東にはイラン、イラク、サウジアラビア、UAE、レバノンの5か国16球団からなる、連合プロ野球リーグが誕生している

・多くの国に代表チームが設けられ、各国の国民から支持されている


(本文ここから)

 野球というスポーツを取り巻く環境は、この2~30年で180度変わった。「野球がグローバルなスポーツである」ということを信じなかったり、そう信じる人々を嘲ったりする者たちは、今やこの地球上では、ほんの小さな立場を占めるにすぎない、化石のような存在にすらなってしまっている。彼らにとっての野球の国際化とは、かつてこの星の支配者だった恐竜たちを、伝説の1ページに葬り去ってしまった、隕石の衝突のようなものなのかもしれない。


 今のこの時代、野球をナショナリズムを抜きにして語ることは、もはや不可能に近い。かつて、北米の1リーグのファイナルによって決定されているにすぎなかった、「野球世界一」の称号は、4年に1度争われるWBCの勝者にのみ、名乗ることが許されるようになった。人々は地元のプロ野球チームはもちろん、それぞれの国のトップ選手が顔を揃える代表チームにも-ちょうど、遥か昔から変わらず、サッカーがそうあり続けているように-世界と戦う姿を自分と重ね合わせながら、大きな声援を送る。そこには、自らの国や民族に対する誇りやプライドが、体現されていると言っても決して過言ではない。


 しかし、ナショナリズムはひとたび方向性を間違えると、えてして暴走するものだ。悲しいかな、世界的に評価され受け入れられていく過程で、野球界はかつて直面することがほとんどなかった、民族問題とも向き合わなければならなくなった。そして、その根深い問題を考えるうえで、ミヒャエル・マリク・シュミットの人となりについて語ることは、ある意味で最も適切な方法なのかもしれない。


 ミヒャエルは2016年7月7日に、ともにサウジアラビアからの移民である両親のもとに、地元レーゲンスブルグで生まれた。もっとも、彼自身は生みの親の顔を知らない。母親は自らの命と引き換えに、ミヒャエルをこの世に送り出し、仕事を途中で切り上げて病院に向かっていた父親も、その途中で交通事故に巻き込まれて命を落としたからだ。そのため、彼は生まれて数日後に、子供のいなかったアドルフとアンジェリーナのシュミット夫妻-現在の彼の両親-に引き取られることになる。しかし、彼らのもとで育ったミヒャエルが体験したのは、自らの名と顔立ちとの齟齬からくる、周囲からの偏見や差別だった。


 「自分を育ててくれた両親のことは、今でも本当に愛しているよ。ただ、子供の頃は周りから苛められるのが嫌で、自分の名前を名乗ることに抵抗があったのも事実だ。この顔のせいで、随分と嫌な目にあったからね。俺をいじめていた連中にしてみれば、ミヒャエル・シュミットなんていう、典型的なゲルマン系の名前を、アラブ人の顔をした奴が名乗っていたことが、生理的に受け入れられなかったんだろう。正直、アラブ系の名前を付けてもらった方が、まだマシだとすら思ったね」(ミヒャエル)


 ミヒャエルが野球と出会ったのも、そんないわれのない偏見に苦しんでいた、幼少の頃だった。彼を罵倒していた者たちが、攻撃の際に使っていた「Die Arab(アラブ人)」という蔑称は、現在でこそその実力を畏れる者たちによる、彼自身の代名詞に昇華されたものの、ミヒャエル自身は今でも、当時抱えていた気持ちを持ち続けているという。


 「今では、昔ほど見た目のことで、陰口を叩かれるようなことはなくなったが、『例えドイツ人であっても、ゲルマン人ではない』というコンプレックスは、今でも心の中に持ち続けているよ。俺が今やっている野球だって、その感情から解放されるために続けているようなものさ。俺がホームランを打ったり、守備でファインプレーを見せたりすれば、観客たちは皆スタンディングオベーションで、俺のプレーを称えてくれる。その時だけは、そうした劣等感とは無縁でいられるんだ。でも、アラブ系ドイツ人として生まれた以上、この感情は一生背負っていかなきゃいけないと思っている。だからこそ、簡単に現役をやめるわけにはいかないんだよ」(ミヒャエル)


 もちろん、今でも「ゲルマン教」の熱狂的な信者たちは、彼がドイツ代表のユニフォームに袖を通すことに、依然として眉をひそめている。しかし少なくとも、ミヒャエルのことを悪く言うような人間は、彼の周りにはもはや1人もいない。イタリアが生んだ世界最高の遊撃手の1人で、まだU-18代表にいた頃から親友かつライバルとして、ミヒャエルと接してきたルカ・ヴァレンティノ(ロサンゼルス・ドジャース)は、「自分にとって決して欠かせない存在」と言う同い年の彼のことを、次のような言葉で評している。


 「誰だって同じことを言うと思うけど、ミヒャエルは紛れもなくナイスガイだね。長い間、化け物みたいな成績を残してきたし、醸し出しているオーラや威圧感は半端じゃないけど(笑)。常に真面目で、実直で、野球に対しても非常に真摯だ。8年連続で3割30本100打点以上を記録して、今じゃ年に2000万ドル稼ぐような大打者になっているというのに、彼はいつだって手を抜いたりしない。誰よりも早く球場にやってきて、誰よりも遅く球場を後にするというじゃないか。若手にとっては、まさにお手本になる存在だと思うよ。確かにゲルマンの血は引いていないけど、それはドイツという国じゃ別に珍しくもないだろ?」


 ミヒャエルの両親の祖国であるサウジアラビアにも、彼の信奉者たちは大勢いる。2044年のオールスターウィーク中、ドイツ代表はサウジアラビア・リヤドへの遠征を行い、サウジアラビア代表との国際親善試合を戦った。ドイツが9-1と大勝を収めたこの試合、その勝利の原動力となったのは、5打数3安打3打点の活躍を見せたミヒャエルだった。興味深かったのは、敵チームの選手であるにもかかわらず、サウジアラビアのファンからも、彼に対して大きな声援が送られたということだ。


 「マリク(中東の野球ファンは、ミヒャエルのことをこう呼ぶ)のことを、敵だと思っているサウジアラビア人などいないよ」と、サウジアラビア野球連盟(SABF)会長のモハメド・アル・ハリティは笑う。「確かに、彼はドイツで生まれ育ったドイツ人だが、血は我々と同じアラブ人のものだ。今は中東にもプロリーグができて、選手のレベルも相当上がっているが、それでも日本やアメリカ、ヨーロッパとはまだ開きがある。彼の活躍は、我々アラブ人も野球の世界で成功できる、ということを教えてくれているようなものなんだ。だから中東の野球ファンにとって、彼は英雄なんだよ」


 ドイツとサウジアラビアという、2つの国を生まれながらにして背負うミヒャエルにとって、ナショナリズムは切っても切り離せない宿命といえる。残念ながら、彼の出自に後ろ指を指すような声は、限りなく小さくなることはあっても、完全に掻き消えることはないのかもしれない。しかし一方で、ドイツとサウジアラビアのいずれにも、それよりもはるかに多くのファンが存在していることも、また忘れてはいけない。その意味で、彼がこの「野球国際化時代」の体現者の1人であるということに、異論をはさめる者はいないだろう。


 ところで、ミヒャエルが将来的に、サウジアラビア代表に鞍替えしてプレーする、という可能性はあるのだろうか。WBCの規定に沿えば、両親ともサウジアラビア人の彼には、その資格があるのだが。「さぁ、どうだろうな(笑)。残念ながら、今の俺自身はアラビア語が話せないからね。それに、今はドイツ代表で必要とされている立場でもあるし。ただ、自分の両親の祖国で、代表選手としてプレーできる経験は、何物にも代えがたいものだと思う。いつか、そういうチャンスが来れば面白いと思うね」(ミヒャエル)


(ここまで本文)


 いかがでしたでしょうか。いかにも雑誌のコラムとかでありそうな口調を真似してみたんですが、うまくそれっぽく書けてますかね。もちろん、現在の野球界ではこんなことは起こりえないのですが、将来的に盛んになってきたら、このミヒャエルみたいな選手も出てくるのかなぁという気はします。もともと、イスラム系移民がドイツに多いのは事実ですしね。


 ただ、これは以前の記事のコメント欄でも書いたことですが、自分の血は自分で選ぶことも、変えることもできません。結局は、変えられないものは変えられないと受け入れて、今あるそいつ自身のままで頑張るしかないんですよね。たとえどんなルーツを持っている選手であれ、頂点を掴むために真剣に頑張っているアスリートたちのことを、これからも応援していきたいと思います。