棋神の底力。。第61期王座戦5番勝負/第2局「最終盤戦を振り返ろう」
165手目▲4九香。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 金、歩3
△中村六段: 飛2、角、金、桂、歩
時刻は午後11時目前となって迎えた
上図165手目の局面。。
中村玉は必死に生き延び、ついに羽生陣営にトライ。
羽生王座は「穴熊」の囲いを崩し、何としてでも捕まえようと
必死に追いかけ、策を搾り出しているこの局面で
羽生王座の手は、震えていたとのことです。
107手目▲1七歩。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 銀、歩
△中村六段: 角、香2、歩2
「相矢倉」の出だしから
中村六段が「△5三銀右急戦」を狙うも、羽生王座は拒否。
超持久戦の展開となり
主導権を握る羽生王座は「矢倉」から「穴熊」へとシフト。
対する中村六段は「雁木」に構えるも、先手が攻めてこないとみるや
自陣に駒を集結させ専守防衛。徹底抗戦の姿勢を鮮明に。。
駒組みが飽和状態を迎える中
午後8時過ぎにようやく開戦となると、羽生王座は一気に攻勢を強め
玉の堅さを武器に、直線的に踏み込みます。
しかし、賢者・中村六段は自陣で受け続けても埒は明かないと
機をみて、玉を上部に脱出させ入玉に全てをかけます。
1筋から自陣脱出に成功した中村六段。
羽生王座は桂馬で迎撃の土台を築き(103手目▲2九桂)
裏手裏剣で後手の金を吊り上げ(105手目▲1三歩~△同金)
中村玉の退路を閉鎖してから、歩を玉の前方にあてがいました。
108手目△1九歩成。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 銀、歩
△中村六段: 角、香2、歩2
羽生王座の持ち駒は銀と歩のみとはいえ
あっという間に中村玉の稼動域も狭められ、圧力が強まる中
中村六段は動じることなく、落ち着いて1筋の歩を成り
2筋で拠点となっている先手の桂馬の捕獲に出ます。。
上図から以下、▲1六銀~△2六馬~▲2四歩~と進行し
下図112手目△1五歩。。
112手目△1五歩。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 歩
△中村六段: 角、香2、歩
終始、慎重にと言えば聞こえも良いですが
序盤からのあまりに消極的なリズムが、この土壇場に来ても
顔をのぞかせ、テンポを変えることのできない羽生王座は
攻撃にスピード感が出ません。。
逆に、入玉という目標がはっきりとし目の冴える中村六段は
羽生王座が桂馬に支えられた歩の上にのせた銀に、歩を突き立て
より早く、直接的な攻めを呼び込みます。
しかし、羽生王座はこの歩には触れずに
グッと2筋の歩を突き出しました(113手目▲2三歩成)
以下、△同金~▲2七歩~△3三金~▲2六歩~
羽生王座は勢いよ成り込んだ龍を切り、角と交換。
手持ちの戦力が乏しい中で、駒を入れ替えつつ形勢に目を光らせます。
127手目▲1一飛。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 歩2
△中村六段: 飛、角2、銀、香2、歩3
さらにもう一度
角と飛車を交換してから、羽生王座は今度は下から
飛車を打ち込み、王手。。
130手目△2九「と」金。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 銀、歩2
△中村六段: 飛、角2、銀、桂、香2、歩2
「羽生穴熊」にはまだかなり遠いものの
戦力は充実してきた中村六段の歩で王手を阻止
(128手目△1三歩)
銀を先手に渡したものの
握った手番で2筋の桂馬を捕獲し、ついに前方が開けました。
138手目△2六玉。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 金、歩2
△中村六段: 飛、角2、桂、香、歩3
羽生王座は中村玉の前方から銀で、後方からは龍で
挟み撃ちを仕掛けますが、中村六段は必死に包囲網をくぐり抜け
ジリジリと玉を前進。。
141手目▲2二歩。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 金、歩
△中村六段: 飛、角2、桂、香、歩2
しかし、少なくとも玉は万全な羽生王座と違い
中村六段は生玉を動かしながらの逃走劇ということで
より一層神経を使う展開が続きます。。
上図で
羽生王座は2筋の後手の香車にフタをして
次に2四の金取りを狙いますが、ここで事件が。。
142手目△2三香。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 金、歩
△中村六段: 飛、角2、桂、歩
終局後の感想戦で
「「すぐ△3六玉ならダメでした」と羽生王座がコメントした局面で
中村六段の指した142手目は△2三香。。
佐藤康光九段>
そうかぁ。
これは受けになっていないですね。▲2三成桂△同金▲1四竜で。
△同金は▲3五銀△3六玉▲2六金で詰みです。
ニコニコ生放送にて本局の大盤解説をつとめた
佐藤九段が指摘した通り、この手は金を守る受けとはならず。
本譜では
上図から▲同成桂~△3六玉~▲2四龍~の進行となり
後手は銀との交換で金と香車を先手に渡しました。
「手が切れるのではないか」、あるいは「切れたのではないか?」
とこの辺りではずっと囁かれていた羽生王座が、少しずつ
息を吹き返します。。。
152手目△2六角。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 金2、香、歩2
△中村六段: 飛、角、桂、歩
しかし、簡単には捕まらない
中村玉は羽生陣営への進入に成功。。
羽生王座は
1一の地点に投入した飛車が龍となり、盤上を下がりながら
中村玉を追いかけますが、上図から次にその龍で角を遅い
またもや大駒の交換が成立(153手目▲同龍~△同銀)。。
ここまで全く戦いに参加していない「穴熊」とは対照的に
羽生陣営の右側は、いつ果てるともしれない修羅場と化します。。
155手目▲6三角。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 金2、香、歩2
△中村六段: 飛2、角、桂、歩
しかし、飛車・角交換成立直後に
羽生王座は抜け目なく遠見の角で王手。。。
165手目▲4九香。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 金、歩3
△中村六段: 飛2、角、金、桂、歩
その角を自陣に呼び寄せ馬とすると
大駒の利きが生き、難解極まる形勢が揺らぎ始めました。。
179手目▲2九香。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 歩5
△中村六段: 飛2、角、金、桂
羽生陣に念願のトライを決めたものの
右からは馬が睨み、左からはついに「穴熊」を形勢していた
金と銀が中村玉捕獲に乗り出し、安住の地とはならず。。
と、いうことで
中村玉は円を描きながら、再び自陣へとバックを開始。。
駒の集まる羽生陣営とは対照的に、中村陣営はもぬけの殻。
「と」金の地雷を除去すれば、まだまだ生き延びれるかも。。
195手目▲2八銀。
上図での持ち駒
▲羽生王座: 金、歩4
△中村六段: 飛2、角
しかし、とっくに1分将棋に突入している両者は
羽生陣営の右側で総力戦に突入。。
ここに来て、羽生王座の冷たい迫力が盤上に漂い始める中
中村六段は玉に銀の見張りをつけて、徹底抗戦。。
何が何でも前方の圧力を食い止めようと
必死に踏ん張りますが。。
【 投了図・203手目▲2七銀 】
投了図での持ち駒
▲羽生王座: 角、金、歩4
△中村六段: 飛2、角、歩
形勢を損ねても、慌てず騒がず
最後の最後まで丁寧に手をつなぎ、わずかな隙を見逃さず
再び掴んだ形勢を損なうことなく死闘に終止符を打った
羽生王座の真価を見た、鬼のような勝ち将棋。。。
この結果、
今シリーズの対戦成績は1勝1敗のイーブンに。。
しかし素晴らしかった両者の勝利への執念。
第3局以降の戦いが、ますます楽しみになりました。