二転三転。。第71期A級順位戦/6回戦「羽生三冠-高橋九段」を振り返ろう。。
14手目△8六飛。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 歩2
△羽生三冠: 歩2
今週の木曜日(6日)に行われました
第71期A級順位戦/6回戦「羽生善治三冠-高橋道雄九段」は
互いに飛車先の歩を切り、「横歩取り」を目指す進行に。。
上図から次の15手目に
先手・高橋九段が2四に構える飛車で、お隣3筋の歩を取れば
お馴染みの定跡手順で「横歩取り」となりますが、しかし
この何でも無いような局面で高橋九段は手を止め、しばしの考慮。
15手目▲2八飛。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 歩2
△羽生三冠: 歩2
時間にして6分
慎重に構想の再確認をしてから指された、高橋九段の次の手は
あえて「横歩」を取らずに飛車を元居た2八の地点に引き戻す
通称「横歩を取らない横歩取り」でした。
プロの将棋では
もやは「矢倉」や「角換わり」を凌ぐ勢いで採用されている
相居飛車のメイン戦型と言っても過言ではない「横歩取り」。
若手を中心に日夜、様々な作戦、構想、新手が
日によって結論が変わると言われるほど活発に研究されている
今最もホットな戦型ですが、この「横歩を取らない」型は何を隠そう
高橋九段が数年に渡り研究を重ね実戦で採用している拘りの形。。
その成果を
残留争いの真っ只中でむかえた大一番・羽生三冠戦で試します。
16手目△7六飛。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 歩2
△羽生三冠: 歩3
「横歩を取らないのでしたら、私がとりましょう」
高橋九段の熱き心を知ってか、知らずか
かわりに後手・羽生三冠があっさりと「横歩」を取り
本局の戦型は「後手横歩取り」となりました。。
この手をみて
次に高橋九段は飛車先を角で受けますが(17手目▲7七角)
羽生三冠は飛車を浮かしたままで、駒組みを進行させました。。
31手目▲1五歩。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 歩2
△羽生三冠: 歩2
羽生三冠は玉を立ててから(22手目△5二飛)
飛車を7四の地点へと下げ(24手目)、「中住まい」に構えます。
玉を中央に立て、金・銀をその左右に開く「中住まい」は
「横歩取り」先手の常套手段。
今回は後手・羽生三冠が「横歩」を取ったということで
後手が「中住まい」の陣形となりました。
対する高橋九段は「中原囲い」に形を決めます。
「中原囲い」もまた、通常の「横歩取り」では後手番がよく採用する
囲いであり、本局は盤面をひっくり返したような模様が描かれました。
駒組みが一段落すると
高橋九段は1筋の歩を突き越し、端から仕掛けの準備に
取りかかります。。
上図から
△8四飛~▲1七桂~△7四歩と進行して、次の下図35手目に
高橋九段が角交換を敢行。。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 角、歩2
△羽生三冠: 歩2
羽生三冠の応手は3三桂。
桂馬の跳ね上がりをみて、高橋九段はすかさず右の桂馬の
二度目の跳躍(37手目▲2五桂)、一気の開戦を迫りました。。
42手目△9四歩。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 角、歩
△羽生三冠: 角、歩2
しかし、羽生三冠は専守防衛を決め込み
ジッと手を渡し、高橋九段からの仕掛けを呼び込みます。
完全に陣形の出来上がっている高橋九段は
次の43手目に覚悟を決めて桂馬が飛び込み(▲3三桂)
いざ、開戦へ。。。
48手目▲1八歩。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 角、桂、歩2
△羽生三冠: 角、桂、歩
桂交換後、高橋九段が飛車を浮かせると
羽生三冠は9筋からの端攻めを敢行。。
50手目△8九角。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 角、桂、歩3
△羽生三冠: 桂、歩
香車を吊り上げて作ったスペースに
羽生三冠は角を打ち込み、瞬く間に崩しの形を作り上げます。。
高橋九段が狙われた香車を逃がすと(51手目▲9六香)
52手目△8五桂打から▲同桂~△同桂~▲9七桂~△同桂成と
双方の桂馬が乱れ飛ぶ攻防戦が繰り広げられました。。
59手目▲7九桂。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 角、桂、歩3
△羽生三冠: 桂、歩
さらに羽生三冠は執拗に桂馬を活用。
今度は7五の地点に桂馬を配置し(58手目)
玉頭となる6七の地点を狙いますが、高橋九段も桂馬を投入し
必死の防御を続けます。。
67手目▲5五角。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 角、桂、歩2
△羽生三冠: 銀、桂、歩3
必死の抵抗を続ける高橋九段ですが
羽生三冠の執拗な攻撃の前に、ジワジワと左辺が崩壊し
ついに羽生飛車が通しに。。
ここで高橋九段は
9筋で捕獲されかかっている金を守りながら、羽生飛車も睨む
攻防の角を投入。
羽生三冠は構うことなく、飛車を走らせ(8九飛成)
勝負の終盤戦へ。。。
73手目▲5六桂。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 角、桂、歩2
△羽生三冠: 桂2、歩3
羽生攻撃軍から玉を逃がしながら
ここまで辛抱を続けてきた高橋九段が、上図73手目より
怒りの反撃開始。。まずは本局で大活躍の桂馬を投入。。
75手目▲4四桂。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 角、歩2
△羽生三冠: 桂2、歩3
立て続けにもう一枚の桂馬も投入!
桂馬の重ね打ちで、怒涛大反撃開始となりました。。
83手目▲3四角成。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 銀、歩4
△羽生三冠: 桂3、歩3
二枚の桂馬の迫力前に
さすがの羽生三冠も受けに回り陣形を乱します。
その間隙を縫って、高橋九段は今度は二枚の角を活用。
羽生三冠ペースと見られていた形勢はここにきて
高橋九段へと傾き始めます。。
97手目▲5五桂。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 歩4
△羽生三冠: 角、桂2、歩
高橋九段は羽生玉を左右から挟み撃ち
上図97手目▲5五桂で、以下
▲4三桂成~△6一玉~▲5一馬~△同 玉~
▲4二銀成~△6二玉~▲5二成銀までの「詰めろ」
羽生玉を追い詰めます。
羽生三冠は次の98手目△2七角で「詰めろ」を消し
ギリギリのところで踏ん張ります。。
104手目△3五桂。
上図での持ち駒
▲高橋九段: 桂、歩4
△羽生三冠: 桂、歩2
しかし、形勢の針はどんどん高橋九段側へと傾き
上図104手目の局面が勝利確定への決定的ポイントに。
次に▲4三桂成とすれば
△同馬~▲同馬~△同玉~▲2三飛成で先手勝ちとの結論が
終局後の感想戦ではでたそうですが
羽生三冠、渾身の粘りの前に目が曇ったのでしょうか
高橋九段の次の手は105手目▲5六銀。。。
この瞬間、勝勢から一転
この手が敗着となり先手の勝ちがなくなりました。
【 投了図・120手目△1八角 】
投了図での持ち駒
▲高橋九段: 金、桂、歩5
△羽生三冠: 桂、歩2
投了図以下
△1八角~▲同香~△2八歩~▲3九玉~△4七桂打~
▲同銀~△同桂不成まで。
羽生三冠が九死に一生をえて、順位戦全勝をキープ。
名人挑戦にむけ、貴重な白星をものにしました。