伊園旬「ブレイクスルー・トライアル」 | うさぎ年牡牛座さとのブログ

伊園旬「ブレイクスルー・トライアル」


第5回『このミステリーがすごい!』大賞に輝き、「金庫破りサスペンスの情報化社会版」という触れ込みにつられて読んでしまった。


あらすじは

門脇と丹羽は、1億円の賞金のため、大イベント〈ブレークスルー・トライアル〉への参加を決めた。ミッションは、最新セキュリティ・システムの突破。二人の人生を賭けた挑戦は成功するのか。 侵入ゲームという斬新なアイディアと、軽快な活劇演出が高い評価を受けた作品。


いやー、これはガッカリだ。暗号、パスワード、指紋認証など、最先端の情報セキュリティシステムを搭載した運営側と、それを打ち破って賞金ゲットを狙うITヲタクとの息詰まる頭脳合戦、というものを想像していたが、かなりイメージが違う。看板の偽りありじゃ。


まず、戦いが始まるまでが長過ぎる。主人公2人のここに辿り着くまでのエピソードが延々と語られ、「一体、いつになったらミッション始まるの?」といった感じ。門脇が学生時代やってた数々の侵入シミュレーションは確かに後になって意味を持つけど、あそこまで詳細に書く必要ない。出生の秘密も取ってつけたようなサイド・ストーリーで、動機付けを無理やり盛り込みたかったのだろうが、「そこに目標があるからやる」というシンプルなハッカー感覚で押し通しても読者は納得したでしょ。


戦いが始まっても会長の掌コピーを作り、静脈認証システムを突破するところだけがいかにも「セキュリティvsITヲタク」の面目躍如でワクワク感あったが、それ以外はひどい。特に強盗団の兵器を使ったエントランス爆破など論外。これじゃITセキュリティもへったくれもない。単なるテロリストじゃん。挙句の果てに銃撃戦とか何だよ。どんどん本題から外れていく。


登場人物の使い方も良くわからない。ITの魔術師のような後方支援部隊・中井という男が登場し、ライバルである主人公チームと強盗団チームの掛け持ちで仕事をするという掟破り暴挙に出るが、バッティングによるハプニングも何もなし。それどころが、あれだけの機材を揃えながら、登場シーンが侵入時の連絡受けるとこと、建物崩壊の時「外から見てどっちが崩れている?」と問い合わせに答えただけ。無用の長物だ。


結末もがっかり。確執あった2人が「やっぱりお前しかいない」と、コンビ復活で再び新しい企画にチャレンジするとか、当たり前過ぎ。感動もしない。全体的に薄っぺらい。この作家、次作が勝負だな。