完全受け売り演技論シリーズ第10弾

今日のふたつめです(*^^*ゞ ※他の記事と合わせると四つ目ですが(笑)


テーマは

-日々の学びと心の余裕-


俳優は「感性」を磨くことが重要。

それを磨くのは稽古場だけで無いと言う当たり前のことをこの演出家さんは語ってくれてます。


第三者と直接絡みながらの稽古も勿論必要ですが、映像や舞台と言った総合芸術作品としての一翼を担う、そんな立場の俳優の感性を養うには「見て学ぶ」と言う事も大切なトレーニング。


そして優れた演技をしたければまず「心に余裕を持て」


と言うことを語ってくれています。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

「今の若い人は自分の仕事が終わるとすぐ帰っちゃうんです。残って他の人がやってるのを見ようとしない。折角、見て勉強出来る機会だってのにね」 【榎本健一】

 エノケンの名で戦前から戦後にかけて一時代を築いた榎本がこう語ったのは今から40年程前の事だった。彼が言っていた「若い人」も現在では60代から70代にまで歳を重ねている。日本の俳優たちの現状を見るにつけ、榎本の言葉を思い出さずにはいられない。


 「見る」という事は俳優にとって生涯欠かしてはならない重要なトレーニングである。そして、今の多くの俳優に最も欠けているトレーニングでもある。


 いつも思う事だが多くの日本人俳優はびっくりするほど映画、舞台を見ない。特に映画を見ない者が多い。これは多くの養成所、劇団における教育の悪さを示しているものとも言える。
 養成所の教官の殆どは「日常に於ける他人の動作」について観察する事を俳優志望者に勧める。ところが、映画を見る事によって学ぶ事や、他人の演技を観察する事に対して徹底して指導する教官というのは非常に少ない。恐らく教官たちの頭の中には「映画を見ても演技のマネを覚えるだけだ」という考えがあるのかもしれない。
 また、驚くべき事だが日本のプロダクション関係者の中には「日本語で芝居をするのに洋画なんか見ても無意味だ」と言う者がいる。言語道断な者に至っては「賞をとった作品を中心に見るのが良い」といったことを言う。賞レースの実態すら知らずによく業界で仕事ができるものだと呆れさせられる。


 俳優は良質の映画を選んで徹底して見るべきだ。
 これは映画俳優だけでなく、舞台俳優にも共通して言える。
 映画は名演の貴重なサンプルであるだけでなく、ストーリー、脚本、演出、照明、音響、美術といった物によって総合的に作品が創られているメカニズムを知る上でも極めて重要なサンプルになる。また、幅広いジャンルがあるだけに多くの演技サンプルを得て、自分の引き出しを増やす事に大きな力を発揮する。勿論、これは他人の演技を見てそれをなぞるという意味ではない。膨大な名演群の中には自分に活かせる素晴らしいヒントが信じ難い程沢山眠っているのである。特に男優は女優を、女優は男優の演技に気をつけて見ると良い。同性の俳優の演技ばかり見て演技を学ぼうとするのは、視野を狭め、演技の可能性を自ら制限をするようなものだ。


 俳優にとって映画を見る効用は演技を学ぶ事だけでは無い。
 それ以上に重要なのは観客の感性を知ることが出来るという事だ。日本の俳優の多くは映画を純粋に見る楽しみを知らない者が多い。結果として、それは観客の感性と俳優の感性の大きな隔たりを生んで行く事になる。


 例えば、映画や舞台を殆ど見た事が無い人間が劇団に入ったとしよう。そこで「演技とは?舞台とは?」という事を当然のように学ぶ。自分の主観で映画、舞台を見る習慣が無かった人々というのは、この時点で価値観を演技教官によって形作られてしまう。その結果、自分の主観が死んでしまうのだ。こうなると、与えられた価値観によって即物的に映画や舞台を見るしか出来なくなってしまう。当然だが、価値観とは他人によって与えられる物では無い


 こうなってしまうと、自分の主観(作品に対する)というのは死ぬ事になる。映画、舞台を娯楽として楽しむことはもう出来なくなる。それは観客の感性が永遠に分からなくなるという事を意味している。


 怖い事だが、これは厳然たる事実だ。
 俳優に限らず、スタッフにもこうした状態になってしまう者はいる。現場だけでなく映画配給会社にもこうした人間というのは結構いる。こうした人々は「自分の会社の映画以外は見ても意味は無い」というような事を平気で言う。これで、観客に対して作品を売ろうとするわけなのだから気が狂ってるとしか思えない。


 映画・舞台の現場においてもこの見るという作業は重要だ。
 職人を気取る下手クソ俳優ほど、他人が演じている所を見ない。自分が出ないシーンを見て全体の流れを把握したり、他人の演技を見て学ぶという事を殆どしない。それ以上に、見る楽しみという物を知らないのだ。上手い俳優、上手くなる俳優ほど現場の全てをよく見ているものだ。もっとも「あまり酷くて見るに耐えない」というケースは省かれるが。


 舞台を演出するといつも思うのだが、場当たりの時に自分の出ないシーンをよく見ている俳優、明かりを決めていくのを楽しそうにずっと見ている俳優で、上手くならなかった者というのを見た事が無い。作品創り全体への飽くなき好奇心が、演技者としての視野の広さに繋がるという事だろう。これは映画での演技にも当然繋がる。


 「見る」という事は「学ぶ」という事の基本中の基本であり、また、終生忘れてはならない学び方なのである。そして、見る楽しみを知らない俳優の向上というのは極めて難しいと言って良い。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

 「映画に関わる人間というのはね、どのセクションの人もだよ。一日に一回お茶を楽しむくらいの余裕が無けりゃ駄目だよ」 【ハリウッド・メジャーの一社の元日本支社長】

 洋画配給がGHQの管理下にあった時代から、40年以上に渡って深く映画と関わって来たこの支社長が現役だった頃、最も印象深く語ったのがこの言葉だった。


 「忙殺」という言葉がある。
 「非常に忙しい」という意味で、「殺」の文字は「忙しさ」を強調するために付けられている、と辞書には説明されている。
 この言葉を俳優に当てはめてみると、文字通り「忙しさに殺される」ということになる。本当に殺されるわけでは無いが、俳優としてはほぼ確実に殺される。


 俳優に限らず、創造に関わる仕事をする人間にとって最も大切なことは「創造を生み出せるだけの心の余裕」を持つことだ。心に余裕無く常に頭をパンパンにした状態では、とてもでは無いが創造的作業は行えない。

 ところが、俳優というのは何かしら心の余裕を無くし易いものだ。売れていない時期は芝居と生活の為の仕事に追いまくられ、売れてからは仕事と世間の目に追いまくられる。そうでなくても、役が掴めないとまた強烈に追い込まれる。


 かつて、松田優作は台詞を覚えられない状態に陥り、テキストを破って食べるところまで追い込まれた。川谷拓三は役が掴めずテキストを持ったまま冷蔵庫の中に籠ってしまう程追い込まれた。私が演出した新劇出身の男優にも本番中は睡眠薬を飲まなければ眠ることが出来ないという者がいた。笑えない話である。


 有名無名を問わず生活のリズムが不安定になり易い事に加えて、他人を演じるという作業は行き過ぎると精神に不均衡を生じ易くなる。


 誰もが名優と認めるある男優は、痴呆症の老人を演じている最中は自宅で寝小便をしてしまうまで役になりきっていた。こうした話というのはとかく美談として語られ易いが、精神医学の面で考えればかなり危険な状態だと言って良い。俳優が家庭を持った時に不均衡が生じ易いのも、俳優特有の精神作業の反動が大きな一因となっている場合というのがよくある。


 皮肉なことだが、俳優としてのレベルの向上は「精神の過剰な消耗」と常に隣り合わせにあると言っても過言ではない。そうした意味ではボクサーがパンチドランカーの危険と隣り合わせにある事と似ている。


 特に日本人は忙しさを美徳とする価値観があるだけに、忙殺状態に陥り易い国民性を持つ。それは、予定を重ね、それを消化していくことに充実感を感じ易いという事だ。これは悪い事では無いが、忙殺によって「心の余裕」を失い易いという反面がある事を意味している。
 国民性と俳優という職種の特殊性を重ね合わせた時、日本人俳優たちが内包する「心の不均衡」の危険な可能性というのは決して小さなものとは言えない。現実として、この事が原因で俳優を辞める者の数は少なくは無い。


 「心の余裕」が無ければ、リラックスして演じることは出来ない。役も掴めない。想像力を働かすことも出来ない。結局は「無い無い尽くし」で更に自分を「危険な悪循環」の中に追い込んで行くことになってしまう。心の余裕が無い状態で稽古を重ねても良い結果というのは決して出ない。


  宝塚歌劇団では小屋入りの前日は全休日にする。私が舞台の演出をする場合も必ずそうする。ギリギリまで稽古を重ねるより、1日空けて自分を見つめ直した上で本番へと向かう方が俳優の精神衛生上良い効果が得られるからだ。


 「一日に一杯のお茶を飲む余裕」とは忙殺状況の中にあって殺されない為の「心の余裕」を持つことを勧めた言葉だ。「精神の過剰な消耗」と常に隣り合わせにあることを俳優は忘れてはならない。それに可能な限り対処し、自分を向上させ、俳優生活を長くしてくれるのが「心の余裕」なのである

-以上-



と言うわけで、これから買って置いた映画「ローマの休日」と「カサブランカ」を見て、んで持ってストレス解消&発声練習を兼ねたヒトカラへ行ってくる予定だなう(笑)


★俳優心構え過去ログ★



by:しゃと俳優沙人(しゃと)の日記

∞∞<セルフPR>∞∞

★沙人アクションパフォーマンス動画集★
★ミュージシャン沙人の歌声集★

★「俳優心構え」誌上ワークショップ目次★