スガ・ダイローさんはあの山下洋輔さんも認めるアングラ・ジャズ界随一のピアノ闘士。そのアナーキーな“闘士”ぶりは複数のジャズ・クラブやイベントにおいて鍵盤を弾き壊された(?)という破壊力が実証しています。そして今回のリングは西荻窪の聖地“アケタの店”,迎え撃つはこれまたフリー・ジャズ百戦錬磨の名士,小山彰太さんとくればカタギなジャズ・ライブにはない不穏な空気が開始前から満ち溢れています。個人的にはこの“空気感”こそがジャズの醍醐味だね…と勝手に高揚していると,ほどなく演奏がスタート。
曲は全て即興で1stと2ndでともに1曲ずつ,冒頭数分間にわたる高音域の響きを活かした静謐なソロは,あのキースもよもやと思わせる美しさ。その後の怒濤の展開が彼のアドレナリンが一気に放出された状態だとすれば,この数分間のソロは殴り合いの喧嘩がまさに始まろうという直前に体中の血の気がすぅーっと引いてゆく瞬間…そんな感じです。この疾風迅雷とその合間にふと現れる鏡花水月といった静と動のあまりにも対極的な構図,ここに彼のピアノに対する美学が凝縮しているのです。
演奏終了後に話したダイローさんは意外に?話し好きな方で,いつも着用している袖が手拭いのような変わった長袖Tシャツの秘密や愛娘のオムツ交換の話までしてくれ,“なんだ,俺とおんなじパパなんじゃん”と急に沸いてくる親近感とともにフリー・ジャズ闘士という私の中の偶像崇拝がゆっくりと終焉していったのでありました。でも演奏はほんと神がかりであります…。(編集部・佐藤)