こちらは本館7万HIT記念のSWEETシリーズです。

SWEETシリーズってなに?と言う方へ。

このお話はお付き合い後の敦賀さんとキョコたんですが、キョコたんが大事すぎて全く手が出せない敦賀さんが主役のお話です。

そしてここのキョコたんは案外行動派です^^

ではでは、相変わらずの彼らですが、どうぞ♪


***


「あ、敦賀さん!見て下さい、夕日が凄く綺麗…!」

そう言って瞳を輝かせたキョーコが、蓮の手を引いて波打ち際を歩く。

相変わらず一つのことに没頭しがちな彼女は、歩きながらも目線は空に上げたままで…

その様子を背後から見つめた蓮は、

「ほら最上さん、ちゃんと前見て。そんなふうだと、今に砂に足を取られるよ」

苦笑交じりに言うと、キョーコの手を引きその身体を抱き寄せた。

ここは夕暮れ時の砂浜。
誰もいない静かな波打ち際には、2人の足跡だけが点々と残っていた。

そんな中、キョーコの腰に腕を回した蓮は、その身体を背後から優しく抱き締める。

「そんなに慌てなくても、夕日はすぐには逃げないよ?」

腕の中のキョーコを見下ろすと、夕日でオレンジ色に染め上げられた笑顔が返されて。

「だって、凄く綺麗な夕日なんですもの。敦賀さんにも見て欲しかったんです」
「ちゃんと見えてるって。ほら、ワンピースの裾が波で濡れてる。少し落ち着いて」
「え?あ、やだ、ホント!気付きませんでした」

キョーコは今、踝までのひらひらとした花柄のワンピースに丈の短いパーカーを羽織っている。

そんなキョーコは濡れた裾を気にして、慌てたように細い指先でワンピースをたくし上げた。

その動きで、これまでワンピースで隠れていたビーズ付きのサンダルを履いた白い足が晒され…
そして同時に、身を屈めたお陰でV字に開いた胸元の谷間が強調されて。

その白さが、柔らかそうな丸みが、そして可愛い笑顔が、蓮の目線をしっかりと惹き付ける。

キョーコの全てが、相変わらず蓮の心を簡単に鷲掴みにしているのだ。

そんなキョーコは蓮の内心の動揺も気付かぬまま、腕の中でふにゃりと笑う。

「ふふ、私今、すごーくはしゃいでいるんです…だって、こんなふうに敦賀さんに会えるなんて、本当に予想外だったんですもの」

腰に回した蓮の腕に指を沿わせて、嬉しそうに言う。
その様子を見つめた蓮は、その可愛らしさに思わず目元をそっと緩める。

そう、この逢瀬は偶然が重なった末に生まれた時間だった。

キョーコの地方でのドラマ撮影の現場と、蓮の海外でのCM撮り後の帰国で利用する空港が同じ土地だったのだ。

けれど、本当だったらキョーコのドラマ撮影は昨日のうちに終了していて、蓮とニアミスすることなく東京に帰っていたはずだったのだけど…予期せぬ天候の悪化でキョーコの撮影スケジュールが明日までずれて、こうして幸運にも2人きりで会うことが出来ていたのだ。

明日の午後から東京で仕事の蓮は、それまでには必ず戻る約束で、社にここに残れるよう手配をして貰っていた。

キョーコの泊まるホテルは海に面した景勝地に建てられている、海を望めることが売りの宿泊場所だった。
蓮も勿論、そのホテルに潜り込ませて貰っている。恋人同士が同じ土地にいて、離れて泊まる必要はまったくないと思う。

早朝に起きるとすぐに発たなければならない慌しい宿泊だけど、それでも蓮は、キョーコの傍にいたかったのだ。

そうして2人は、ホテルの前にある浜辺に降りて来ていた。

「こうしてお会い出来て…私、本当に嬉しいんです」

そんな蓮に、キョーコが更に笑顔を向ける。
くりんとした大きな瞳に幸せそうに見上げられて、蓮は表情を緩める。

「俺も、会えて嬉しいよ…こんなふうに、出かけた先で2人きりでゆっくり出来る時間も久々だったし」

背後からその髪にくちづけると、キョーコが瞳を細める。

「ふふ、本当ですねえ。ちょっと、旅行みたいで楽しいです」
「そうだね。考えたら、2人で海に来るのは初めてかもしれないね」
「あ、そうですね!敦賀さんと海って、確かに初めてかも」

何気ない会話を交わしながら、今度は自分が彼女の手を引いて蓮はキョーコとゆっくり海岸を歩く。

打ち寄せる波は夕日に染まって、その波頭をオレンジ色に煌かせている。
その波と暫く戯れた後、蓮とキョーコは並んで砂浜に腰を下ろした。

そうして2人、徐々に沈んでいく夕日を眺める。

「ああ、そう言えば。少し前に一人で夕日を見たことがあったな。君に見せたいなって思っていたら、君から夕日の画像メールが届いたんだよ」
「え、あの時、敦賀さんも夕日を見ていたんですか?」
「うん、あまりのタイミングのよさに随分驚いたよ」
「それは、本当に驚きますねえ」

すると、いつものように蓮の肩に頬を寄せ腰に腕を回して来たキョーコが、不意に苦笑を零した。

「何、どうしたの?最上さん」

不思議に思ってその顔を覗き込むと、楽しげな目線が返される。

「いえ、驚いたって聞いて、さっきのスタッフさん達の顔を思い出して…敦賀さんを見るなりぽかんとした顔になったのを思い出したら、なんだか可笑しくなってきちゃったんです。敦賀さんがいらっしゃることは先に皆さんに連絡はしていたんですけど…やっぱり、『敦賀蓮』がいきなり目の前に現れたら、分かっていても驚きますよね」
「ああ、さっきの」

キョーコに可笑しそうにそう言われて、蓮は先程のことを思い返す。

空港に着いてキョーコと連絡を取り合い、まだこの地に彼女がいることを知った蓮は、乗り継ぎの便で東京に一足先に帰る社と別れると、そのまま撮影現場に顔を出していたのだ。

世間に交際をしっかり公表出来ている立場として、恋人の仕事の現場に居合わせたのなら挨拶をするのは当然のことだ。

驚きつつも歓迎してくれた現場陣と、嬉しそうな笑顔で待ち構えてくれたキョーコの背後に、複雑な表情を見せる共演俳優を見つけられたのも大きな収穫だった。湧いてくる馬の骨は、少しでもおかしな思い違いをしないうちに、早々に潰しておくに越したことはない。

少しだけ悪い笑みを唇に浮かべた蓮は、すぐに、それを上回るような嬉しそうな笑顔を見せる。

「俺を迎えてくれた君の笑顔も、凄く可愛いかったな。瞳がキラキラしてて頬が真っ赤で…勿論、今も同じくらいに可愛いけどね」

こめかみに唇を寄せると、キョーコがふわんと頬を染め上げる。

それは、少しずつ夕闇が降り始めた海岸でも分かるくらいの鮮やかなものだった。

「敦賀さんたら、すぐにそういうことを言うんですから…恥ずかしいです」
「本当のことを言ってるんだから、それは仕方ないことだと思うけど?」
「もう、そういうのも恥ずかしいですったら」

赤い顔でそんなことを言いつつも…
嬉しそうな様子を隠さないキョーコが、蓮にはどうしようもなく可愛らしくて。

「ちょっとでも早く、こうして君に会えてよかった…ただいま、最上さん」
「ふふ…私も、です。おかえりなさい、敦賀さん」

目線を絡めて、2人で柔らかく微笑み合って。

白い頬を上気させたまま瞳を閉じたキョーコと、蓮はそっと唇を重ね合わせた。


≪後編に続きます≫


携帯だと読めないよーと言われてしまうのを回避するため、分割UP。

続きはお昼の12時公開です。

ではまた♪