芸能界ベースのパラレルものです。
キョコたんのみが特殊設定の若干ミステリー風です。

そして身体の関係から始まってしまう、一目惚れ同士の蓮キョです。
そんなのいや~と言う方はお戻り下さい。

読む方を選ぶお話かも知れません。

特殊設定どんとこい!と言う方のみ、どうぞ。


***


「ここが、敦賀さんの会社の社長さんのお宅ですか…?」

目を見開いたキョーコがぱちぱちと瞬きをしながら隣に座る蓮を見上げてきた。
そんな彼女の様子に、蓮は苦笑を禁じ得ない。

「都内にあるとは思えないだろう?」
「はい…日本だって言うのも、信じがたいです」

日が傾いてきた頃、蓮と社はキョーコを連れてプロダクションの社長の宝田の邸宅にやって来ていた。

日本有数の資産家で大手プロダクションの社長である彼の邸宅は広大な敷地に建ち、屋敷はまるで宮殿のような外観をしていた。
部屋数は多数、メイドに案内されて通されたその内の一棟はトルコ風の内装を施され、見上げる程の高い天井、広い窓、そこから続く回廊を有していた。

キョーコの言葉ではないが、部屋だけを見ると、本当にここが日本とはとても思えない。

「キョーコちゃん、社長はこの家と同じ位に規格外だから…驚かないようにね」

ソファーに座って社長が来るのを待つ間に、社がキョーコにそっと注意を促した。

「規格外…ですか?」

キョーコが首を傾げるのに蓮は肩を竦める。

「何て説明したらいいか…とにかく普通の人とは違うから。吃驚すると思うけど、悪い人じゃないよ」

よく分からないと言う顔をしているキョーコを挟んで蓮と社が乾いた笑みを交わしていると、程なくして、その当人が部屋に現れた。

「蓮、社、待たせたな!」

その声に立ち上がった蓮と社に習ったようにキョーコも挨拶をと立ち上がって…そこで、軽く固まってしまった。

部屋にやって来たのは50代と思われる、背の高い黒髪、口髭の男性で。

彼が、蓮が所属している大手芸能事務所・LMEの社長の宝田なのだ。

「社長…最近のマイブームはイギリス王室ですか?」

蓮が溜息混じりに言ったように、今日の宝田の姿は黒い色の軍服に宝石の散りばめられた王冠と言うもので、肩に毛皮があしらわれたマントを羽織り、手には錫を持っていた。

背後には、同じく軍服を着た宝田の側近である褐色の肌の男性が控えている。
必要以上の言葉を口にしない彼がこの仮装をどう思っているかは知らないが、毎回毎回宝田の思い付きに付き合わなくてはならない彼に、蓮は密かに同情の念を禁じえなかった。

隣では、そんな2人を前に驚いたように瞬きを繰り返すキョーコへ、社がほらねと言うように目線で合図を送っている。

「まあなっ!しかしお前ら、随分妙な話に首を突っ込んでるんだってな?彼女が、話の最上君か」

宝田は蓮達を座るように促すと、どっかりと目の前の応接セットに座って、キョーコに目線を向けた。

「はい、お忙しい所をすみません。彼女が、最上さんです」
「も、最上キョーコと申します、宜しくお願い致します…!」

蓮に促されて、気持ちを立て直した様子のキョーコは宝田に向かって深々とお辞儀をした。

宝田がじっくりとキョーコの顔を眺めて来る。

「ふむ…綺麗なお嬢さんだな。社から話は聞いているよ」

宝田の瞳が労わるかのように細められた。
キョーコは、宝田の目線を受け、戸惑った表情で蓮の顔を見つめて来る。

宝田の様子からキョーコを受け入れてくれる色を読んだ蓮は、そんな彼女を安心させるようにふわりと微笑んで、

「緊張しなくても大丈夫だよ。思ったことを、そのまま話して大丈夫だから」

その背中を柔らかくぽんと叩いた。

プロダクションの社長としては限りなく怪しいが、蓮にとって宝田は社と並んで信頼できる、心強い存在なのだ。

蓮の表情を読んで、キョーコも安堵したかのように目元を綻ばせた。

2人のそんな様子を眺めてから、宝田は従者の青年に合図をして書類の束を受け取る。

「社から連絡を受けて、俺なりに手を回してみた。まずは不破コーポレーションだが」

書類を机の上に広げて、その一枚を手に取る。

「不破家は近々一人息子の婚約披露パーティーを系列のホテルで行う予定をしていたんだが、それが急遽延期になっている。昨夜の事だ」
「…嘘…どうしましょう…!」

それを聞いたキョーコが驚いたように声を上げ、思わずと言うように口元を押さえた。

「私が逃げ出したから…ご両親にご迷惑が…」
「元々まともな話じゃないんだから、キョーコちゃんが気にすることじゃないよ」

そんなキョーコを社が慰め、蓮は宝田へ身を乗り出す。

「そして、密かに人を使って女の子を探している…?」
「ああ、その通りだ。不破家が探しているのは、明るい栗色の髪をショートにした白いワンピース姿の17歳の少女で、エルメスの小振りのバッグを持っている…彼女だな」

宝田の目線がキョーコを上から下まで眺めて、軽く頷く。

キョーコは今朝と同じワンピースを纏い、例のピンクのバッグを手にしていた。
宝田のあげるその特徴は、まさにキョーコを指し示すものだったのだ。

「私…戻らないと…いけない、です、か」

顔色を青褪めさせたキョーコは誰にともなく、そう囁く。

細い身体が小さく震え出し、大きな瞳が忙しなく動いて、視線の位置をゆらゆらと変え出して。

心の葛藤が透けて見えるその動きに、蓮はキョーコの手を引き止めるように強く押さえた。

「まさか。君が嫌なら断る権利が君にはある。誰が探していようが、絶対に渡したりはしないよ」
「でも、顧客が私を探してるってことは、もう顧客から施設に大金が動いています…」
「そんなことは、不破と施設の問題だ。君には関係ない」

蓮の手に、キョーコの指がすがるように絡む。

「わ、分からないんです…顧客に求められているなら、商品としてそれに応えなきゃいけない。でも、そんな感覚を当然だって思っている自分がおかしいことも、十分に分かってるんです。どちらも事実だから…どちらを選んだらいいのか分からなくて、怖いんです…」

震えるキョーコの肩を、蓮は堪らず抱き寄せた。

「落ち着いて。ゆっくり息を吐くんだ。大丈夫、俺達が付いてるんだから、何も怖がることはないんだよ」
「はい…はい…っ」

蓮の言葉の通り、息を吸って吐いてを繰り返すそんなキョーコの様子を同情気味に見て、社は社長へと向き直る。

「社長。キョーコちゃんの言う施設ですけど、本当にこんな洗脳じみたことをする施設があるんですか?蓮の家で検索を掛けたら、同名の児童擁護施設があったんですがそこがその施設なんでしょうか」
「施設と言えば」

蓮は社の言葉にキョーコのバッグの中身を思い出し、彼女の許可を得てからそのバッグを社長へと差し出した。

「ごめん、最上さん。実は今朝、悪いとは思ったんだけどバックの中身を見せて貰ったんだ。社長、彼女の保険証の本籍がネットで見た児童養護施設と同じなんです。社さんの質問は、当たっているんですか?」

バックを受け取った宝田は、その中から出したキョーコの保険証を眺めて、ホチキスで留められた書類を蓮と社の前に滑らせた。


≪9に続きます≫


困った時の社長頼み入りました。

この面倒ごとに太刀打ちできるのは、社長以外いませんね。

ではでは、また明日♪