芸能界ベースのパラレルものです。
キョコたんのみが特殊設定の若干ミステリー風です。

そして身体の関係から始まってしまう、一目惚れ同士の蓮キョです。
そんなのいや~と言う方はお戻り下さい。

読む方を選ぶお話かも知れません。

特殊設定どんとこい!と言う方のみ、どうぞ。


***


先ほどのキョーコの笑顔を思い出して、蓮はつられるように微笑んだ。
笑顔を見て、思わず目を見張ったことを覚えている。

初めて、キョーコの笑顔を見たからだ。

出会ってから今まで彼女はずっと悲しい顔ばかりだった。
微笑むと、その可憐な顔が花のように綻んで、見ている者の心を浮き立たせた。

泣いている顔より笑顔のほうがずっといいと、思ってしまう。

「…社長に報告したほうがいいな、この件は」

そんなことを思いながら蓮がキョーコの気配のするキッチンへ目を向けていると、社が思い決めたような声を出した。

「マネージャーの立場からすると、お前には、こんなわけの分からない厄介事に関わって貰いたくはないんだけど」
「でも、あの子、帰る所がないって泣くんですよ?あんな様子の彼女を放り出すなんて、出来ません」
「うん…その気持ちは分かる…あの子、かなり、危なっかしいし。そんな子を見なかった振りしろなんて言うほど俺も鬼じゃない。しかしなあ・・・」
「社さん、」
「お前って、ああいう可愛いタイプが好みだったんだなっ!キョーコちゃんて凄く可愛いしなぁ。お前が守ってあげたくなる気持ち、よおく分かる」

てっきりキョーコのことから手を引けと説得されるかと身構えていた蓮は、急にこの場にそぐわないにやにやとした笑みを社が向けてきたのに肩透かしを喰らい、がくりと肩を落とす。

「社さん…まださっきのこと疑ってるんですか…?違うって言ったじゃないですか、あれは泣いてる彼女を慰めたかっただけで、疾しい気持ちがあったわけじゃ…」
「またまた。近寄ってくる女の子に対して鉄壁の守りを見せるお前が、あからさまに怪しい状態のキョーコちゃんをあっさり拾ってきてる時点で、そんなのとっくにお見通しだって。一目惚れってやつか?」
「だから、あのですね…」
「そう言えば、お前と女の子の好みについてなんて話したことなんてなかったよなぁ。女優やらアイドルやらに追い掛け回されても全く見向きもしないから、今までその手の話、振る機会もなかったけど」

なるほど、蓮の好みは清楚な子かと社は一人で納得したように頷いて、

「よし、もう少ししたら社長にアポを取ってみよう。うちの社長のことだ、相談をすれば今の彼女の状況も何とかしてくれるだろう。人脈は広いし、俺達一般人じゃ手に負えないことも、あの人なら、な」

腕時計で時間を確認しながらそう言った。

「…確かに…」

蓮と社は二人して自分達の所属するプロダクションの社長を思い浮かべて、思わず遠い目をしてしまう。

社長の宝田ならば、この状況もあっさり何とかしてしまうかもしれない。
そう思えてしまうほど、計り知れない何かが宝田にはあるのだ。 

「でも…本当にいいんですか、社さん。こんな話に関わってしまって…今更ですけど」

自分の斜め前に座る社を見つめると、彼は顔を顰める。

「本当に今更だな。手を引くつもり、全くないくせに」
「すみません」
「まあ、事務所としては何のメリットもないことだけど…見て見ぬ振りは、万が一に事が公になった場合、それこそ『敦賀蓮』のイメージ上にも拙いだろ。キョーコちゃんは被害者なんだし、こっちに妙な疑いがかからないように動けば、やる事は人助けなんだし。判断は社長に任せるけど、あの人だってキョーコちゃんを見れば親身になってくれるだろ。なんせ、やっと現れた蓮の想い人だしな!」
「…どうしても、そういう方向に話を持って行きたいんですね、社さん…」

考えてみれば社も蓮も、既に25時間近く起きたままなのだ。一日以上、寝ていない。
そんなふらふらな所にキョーコの深刻な話を聞かされれば、精神的にも限界が近くて、楽しそうな話に飛びつきたくもなるだろう。

疲れの色が見え始めたそんな所へ、お盆を持ったキョーコが軽い足音と共にリビングに現れた。

「お待たせしました、お口に合うといいんですが」

そんなことを言いながら、次々と皿をテーブルの上に並べていく。

ふわりといい匂いが部屋の中に広まって、一気にその場の雰囲気が変わったように思える。

その様子を見た蓮は、驚いて思わずキョーコの顔を見てしまう。

「この短時間によくこれだけ作れたね…しかも、うちのキッチンで」

社の言葉ではないが、確かに蓮の部屋には食材になるものがほとんどない。

なのに、テーブルの上にはジャムを添えたパンケーキとパスタの入ったトマトのスープ、コーヒーがそれぞれの前に人数分並べられている。

しかも、店のディスプレイのような美しい仕上がりなのだ。
この部屋のキッチンにあったものが、どうやったらこういう形になるのだろう。

同じ思いの社がキョーコを見る。

「キョーコちゃん、凄いね…魔法でも使ったの…」
「え?そんな、簡単なものですよ、小麦粉とトマトジュースがあったので。スープの中にパスタを入れたんですけど、量的に少ないかなって思ってパンケーキも焼いてみました」

食べてみて下さいと笑顔で勧められ、つられた蓮は社と共にフォークとナイフを手に取った。

「あ、美味しい」
「本当ですか?よかった!スープ、物足りなくないですか?他に具がなくて、味付けだけしかしてないから」
「そんなことないよ。凄いな、どっちも美味しいよ」
「よかった…でも、敦賀さんのお家、後は本当に水とお酒しかありませんでした…ダメですよ、ちゃんとお食事しないと。さっき社さんが仰ってたみたいに、お身体を悪くします」
「あー…そうだね…心掛けます…」
「本当ですか?」

心配そうにキョーコに見つめられてたじろぐ蓮を、正面にいる社が驚愕の表情で見つめていた。

「…れ、蓮が、自分から食事してる…美味しいって…あ、有り得ない…凄いよ、キョーコちゃん!君は救世主だ、素晴らしい…!」
「そ、そんな、大袈裟です」

キョーコが慌てたように両手を振るのに、社は瞳を輝かせて力説を始める。

「大袈裟じゃないよ、蓮にまともに食事を摂らせるのに、俺が日々どれだけ苦労してるか!こんなでかい身体してるのに、下手したらダイエット中の女の子より食べないんだよ!?平気で何日も水だけで過ごしたりするし!お前はボクサーかっての!」

切々と語った社は、次いで蓮へ指を付き付けて。

「蓮、お前キョーコちゃんにお願いして今すぐお嫁さんになって貰え。これで俺の心配もなくなるよ…!」

事務所も安泰だ、と拳を握る社の言葉に、蓮に動揺が走る。

「なっ…何言ってるんですか、社さん…」

キョーコを見ると、驚いたように瞳を見開いていたが、蓮の視線に気付いたのかこちらを振り向き、目線が合った途端白い頬がぱあっと染まっていった。
それを目の当たりにしてしまい、蓮の動揺はより激しくなってしまう。

「社さん…!」
「お前の自主性に任せてると、俳優生命がどんどん先細りしていきそうだからな。キョーコちゃんに管理して貰えば、問題ないじゃないか」

自分の問題発言も余所に、社はキョーコへにこにこと笑って見せる。

「いやいや本当に美味しいよ、キョーコちゃん!凄いなー、料理がこんな風に出来るって、いいね」
「そ、そう言って頂けると嬉しいです…美味しいって食べて貰えるのって、こんなに嬉しいものなんですね…」

言って、キョーコは恥ずかしそうにしながらも、社ににっこりと微笑んだ。

…その恥ずかしそうな様子は、果たしてどこに掛かるのだろうか。

にこにこと笑い合う二人を眺めながら。

何故か非常に面白くなくて、蓮は一人どんどん無表情になって行くのだった。



≪7に続きます≫

社さんはいろいろオールマイティな人で助かります(笑)


有能で面倒見がよくて女子的でありつつお兄ちゃんでかっこいい!

万が一にもライバルになられたら太刀打ちできないね、敦賀さん…!
うちではいろんな意味で可哀想過ぎて、絶対にありえない展開ですが^^

続きはまた明日です。それでは♪