芸能界ベースのパラレルものです。
キョコたんのみが特殊設定の若干ミステリー風です。

そして身体の関係から始まってしまう、一目惚れ同士の蓮キョです。
そんなのいや~と言う方はお戻り下さい。

読む方を選ぶお話かも知れません。

特殊設定どんとこい!と言う方のみ、どうぞ。


***


「蓮…そんな荒唐無稽な話、俺に信じろって言うのか…?」

蓮がキョーコの事情を一から話し終えると、一人掛けのソファーに腰を下ろした社が複雑な表情を見せた。

…その気持ちはよく分かる。蓮だって、同じ気持ちなのだ。

「俺だって頭から信じてるわけじゃないんですけど…でも、企業の名前や家族関係が実在のものだし、話自体は有り得ないような内容だけど、ディティールが妙に現実的というか…」

ネットで不破コ-ポレーションを検索した所、不破コ-ポレーションの自社サイトのホームページに不破社長の経歴が掲載されていた。そこには家族構成も載っていて、社長夫妻の間に「不破松太郎」という一人息子がいることが分かった。

年齢はキョーコと一つ違いの18歳。
この息子が、キョーコへ暴言を吐いたと言う御曹司なのだろうか。

自宅の住所もキョーコを拾った場所からそう遠くない所にある。女の子の足でも、十分に移動が出来る距離だった。

キョーコの言う施設も存在していた。

彼女に聞いた施設の名前も同じく検索すると、辿り着いたホームページでは養護児童施設と紹介されていたのだ。ホームページの紹介を見る限りでは普通の施設となんら変わりない。

それが表の顔なのか、たまたま名前が同じだった施設なのかは、蓮には判断が付かなかった。

キョーコが言うには、施設に子供の依頼をするには顧客の紹介が必要なのだと言う。

顧客の希望する通りの子供を作って育て上げる。

そうして、引き渡す際にはかなりの額が動くのだと言う。
『商品』側のキョーコは、施設の深い所までは聞かされていないそうだが…

「万が一本当の話だとしても、俺達の手に負えるものじゃないだろ。例えば、警察に連絡するとか」
「…警察が、こんな話を信じると思いますか…?」
「う~ん、そうだよなあ…」

声を潜めてそんなことを言う社に、蓮は溜息で答えた。
キョーコを連れて警察へ行ったところで、からかっていると思われるのがオチだ。

しかも、全てがキョーコ一人の口から出た情報なのだ。
この話は全て、彼女の空想の産物なのかも知れない。

しかし…自分を『商品』だと真剣な表情で口にするキョーコを前にしては、そんな子供が今もまだ施設で育てられているかと思うと、その施設をそのままには出来なかった。

警察を動かすには、何か決定的な証拠が必要だろう。

「あの子、キョーコちゃん?嘘ついてるようでもないし、話しててもしっかりしてて、まともそうだし…頭のおかしな子には見えないよな…しかも、お前を知らないなんて…本当にどこかに隔離されて育ったとしか、思えないな…」
「…でしょう?」

男2人でキッチンの方向に目をやり、同時に溜息を漏らした。

キョーコはリビングにはいない。
現在、キッチンで料理を作っている最中なのだ。

社が部屋に現れた直後。

彼の自分に対する誤解をキョーコにも援護されながら何とか解いて、蓮はようやくキョーコに社を紹介した。

「最上さん、彼は社さん。俺のマネージャーをしてくれてる人で、君の今の状況を彼にも話して、色々と相談しようと思ってるんだ。信頼できる人だよ」

言うと、彼女は蓮と社を見比べて不思議そうな顔を見せた。

「敦賀さんの、『マネージャーさん』?」

問われて、ああと思いつく。

蓮は家に戻る車の中で自分の名前は名乗っていたが、職業は伝えていなかった。
周知の事実の為、あえて自分から口にする習慣が余りなかったのだ。

「俺の仕事は俳優なんだよ。ドラマとか映画で登場人物の役を演じるのが職業。社さんはその仕事を取ってきたりスケジュールを管理したりして、俺をマネジメントしてくれてるんだ」
「敦賀さんは、俳優さんだったんですね…ごめんなさい、私、テレビを見ない環境だったので、分かりませんでした…」

自分にもその名前にも反応を見せなかったキョーコに、なんとなくそうなのではと予想していた蓮は無反応だったが、社はそれを聞いて驚いた顔をした。

自分がマネジメントする『敦賀蓮』を知らない10代の女の子がいることに、衝撃を受けたようだ。

「蓮を知らない!?アルマンディのショップの前の大きい看板、見たことない??」
「…あまり、外出することが許されてなかったので…」
「ウイスキーのCMも、デジカメのCMも…ドラマの刑事役も…そうか、知らないんだ…」
「ご、ごめんなさい」

身体を小さくして謝るキョーコに、社は肩を落として項垂れた。

「俺、もっと頑張って蓮のこと売り込まなくちゃな…」などど呟いている。
今でさえ仕事がパンパンな状況なのだ、その敏腕ぶりは十分発揮されていると思うのだが。

蓮本人はそれとは逆に、彼女の前では『敦賀蓮』を演じる必要がなかったので、この状況が何だか妙に居心地がよかった。

自分を見ても騒がず、冷静に対応してくれる女の子の存在は新鮮だったのだ。

そんな会話を交わしていた時、不意に社のお腹が鳴った。

「社さん、もしかして夕方以来何も食べてないんですか?」
「…お前と同じスケジュールで動いてるからな…ようやく家に帰ったと思ったら担当俳優から謎の電話で呼び出されるし、何か食べてる余裕なんて、俺にはなかったんだよ…」
「す、すみません…」

恨めしい目線を向けられて、蓮は素直に頭を下げた。

時計の針は既に5時近くを指し示していた。

もう夜と言うより早朝の時刻だ。外も既に薄明るくなって来ている。
自分はなんともないが、通常の感覚を持った人ならば限界を迎える頃だろう。

「…そう言えば、君も何も食べてないんじゃないか?最上さん」
「あっ、はい…そう言えば…」

キョーコを見下ろすと思い出したように頷く。

聞いた話だと、彼女の食事は不破夫妻と摂った昼食が最後のものだと言う。
自分を基準に物事を考えていた蓮は、その迂闊さを呪った。

何かケータリングでも取ろうかと思った所、キョーコが遠慮がちに声を上げる。

「…あの、よろしかったら、私が何か作りましょうか…?お台所をお借りできたら、あるもので」
「あー、でも、蓮の家にある食べれる物って想像付かないんだけど。水とワイン位だろ、あるとしたら。食材にはならないんじゃないかな、キョーコちゃん」

部屋の主の自分より先に、社に見透かすようにそう答えられて蓮は少々むきになる。

「もう少しありますよ、確か…貰い物のパスタセットが、あったような…」
「…お前、なんだそのようやく思い出したような顔は…そんなの貰ったって、自分じゃ絶対に食べようなんて思いつきもしないんだろ…その偏った食生活、本当になんとかならないのか。そんなんじゃ、今は若いからいいけどそのうち身体に影響が出るぞ」

思わぬ所で苦言を言われ蓮は目線を逸らしてしまう。
そんな場を、まぎらわせるかのようにキョーコが立ち上がった。

「何とかなるかと思います、朝方だからあんまり重いものは入らないと思いますし。お台所、見てみてもいいですか?」
「あ、ああ、じゃあ案内するから。でも、悪いね、君はお客さんなのに…」
「助けて頂いたんですから、遠慮なさらないで下さい。それに私、お料理得意なんです」

そう言うと、キョーコはにっこりと微笑んだ。

そうして、キョーコをキッチンへ連れて行き、今に至るのだ。


≪6に続きます≫


謎の深まるキョコたんの出自ですね。


長編と短編では文体を意識的に変えています。


長編は情報がさくさく入るよう勢い重視、短編は雰囲気重視。

そんな訳で今回は勢いが重視なのですが、何と言うか、余韻と言うものがまったくないですね…


緩急のつけ方を、勉強したいものですorz


それでは続きはまた来週です。ではでは♪