芸能界ベースのパラレルものです。
キョコたんのみが特殊設定の若干ミステリー風です。

そして身体の関係から始まってしまう、一目惚れ同士の蓮キョです。
そんなのいや~と言う方はお戻り下さい。

読む方を選ぶお話かも知れません。

特殊設定どんとこい!と言う方のみ、どうぞ。


***



台本上の架空の世界と、現実の世界が、入り混じってしまったかのような戸惑いを抱く。

コーヒーを一口飲んだ蓮は、長く息を漏らしてからキョーコを見つめる。

「それで…不破コーポレーションの社長の家で、社長夫妻に会ったんだね」
「はい…ご両親にはかなり気に入って頂けたんです。でも、そこの息子に会ったら…」

キョーコの表情が曇る。

肩を落としてしまった彼女の姿に『買い取り主に捨てられた』と言っていたキョーコの言葉を思い出し、蓮は本人が言い辛いだろうことを代わりに口にした。

「気に入らないって、言われたんだ?」

だけど、その言葉は随分湾曲的だったようだ。

「…『あんたが俺の婚約者?はあ~、帰ってくんねえかな、そりゃ期待なんてしてなかったけどその胸の小ささって、どういうこと?俺、巨乳じゃなきゃ無理なんだけど』って、言われたんです…」

唇を噛んだキョーコが、恥ずかしそうに小さな声でそう言ったのだ。

思わず蓮は、隣のキョーコの細い身体をまじまじと見てしまい、慌てて視線を逸らす。

ほっそりとした彼女は、確かに『巨乳』という言葉には当てはまらないかも知れない。
その一点に拘る不破の御曹司には、キョーコの魅力は分からないだろう。

視線を泳がせた蓮は、こほんと咳払いを1つしてから、口を開く。

「それは…相手と合わなかっただけで、君が、気にするようなことじゃない」

しかし、キョーコはそんな蓮の言葉に力なく首を横に振った。

「でも…私は、その相手に合わされる為に生まれて来た商品なんです。合わなかったら、存在している意味がありません…」
「存在している意味がないって…そんな、違うよ。君は、今君としてここにいるんだから、誰かに合わせる必要なんてないんだ。自分を商品だなんて言うんじゃない」

驚いた蓮は堪らずそんな、当然のことを口にしてしまう。

そして、キョーコの語る今までの話が、もしかすると本当のことなのではないかと思い始めてしまう。
意志の強そうな瞳を持つキョーコが、今は保護者のいない子供のような不安げな顔をしていた。

『物心が付く頃から『良家の御曹司の所へ嫁ぎ子供を生む』為に育てられていると教え込まれて来た』

そう、キョーコは語っていた。

自分に対する存在理由の希薄さ。

逆に、初対面のはずの不破の御曹司に対して窺わせる強い拘り。

『洗脳』という言葉が頭を過ぎって、蓮は眉をひそめてしまう。

キョーコの様子は、正にその通りなのではと思えてならない。
それが、話の信憑性を更に裏付けているように思えてしまうのだ。

蓮の深刻な表情を伺い見たキョーコは、戸惑うように視線を揺らめかせる。

「…自分でも、おかしいとは思うんです…」

不破の御曹司に部屋から追い出されたキョーコは、拒否された恐怖から、羽織ってきたスプリングコートを着ることも忘れて、手にしていた小さなバックだけを持ってそのまま不破の家を飛び出してしまった。

行く場所があって飛び出したわけではなかった。

けれど、商品価値を失った自分が施設に戻れるはずがない。
顧客相手の求める通りの『花嫁』に育ったはずの自分が、その顧客に受け入れられなかった。

そんな『花嫁』を、施設はどのように扱うのだろう?
施設の職員に見つかったら、自分はどうなってしまうのだろう…

そんな考えに囚われたまま、街中をふらふらと彷徨っていて、不意に思ったのだという。

「私、何でこんなに一つのことしか考えられないんだろうって…」

『花嫁』としての存在を否定されたら、キョーコの中にはもう他の道は残されていなかった。

今までは、周りの職員が当然のように『花嫁』になれない人間には価値がないと語っていたから、それが当たり前のことなのだと思っていた。

年頃になれば女の子は結婚をする。
世の中の女の子も、きっと自分とそう変わらないのだろう。

そう、思っていた。

だけど、街を歩けば自分と同じような年齢の女の子が、誰に囚われることなく楽しそうに友達と歩いたり買い物をしたりしていた。

思えば、キョーコは今まで一人で施設の外に出たことがなかった。

友達と呼べる存在もいない。

何故、自分は一人、こんな状況にいるのだろう?

「どうして他の子と自分の環境はこんなにも違うんだろうって思えてきて…理由が分からなくて、分からないことが凄く怖くて」

けれど、自分は商品なのだ。
顧客の望みに応えられなければ、何の価値もない。

それだけは否定できないキョーコの心は、混乱と葛藤で、嵐のように感情が吹き荒れた。

そうしてそのまま、何時間も歩き続けたのだという。

気付けば時刻は深夜になっており、そこで仕事帰りの蓮に声を掛けられたのだ。

話を聞いて、蓮は頭を抱える。
よくもおかしな連中に絡まれることなく、蓮と出会えたものだ。

キョーコの可愛らしい容貌は、街中で人の目を多く引き付けたことだろう。

そんな少女が呆然と街を歩いていたのだ、よくない考えを持った人間が悪意を持って近付けば、彼女一人位簡単に連れ去ることが出来ただろう。

日々の新聞を賑わす事件を思い浮かべて、眩暈がした。


≪4に続きます≫


うちの敦賀さんは、この頃から意外と常識人です(笑)


生真面目と言うか説教くさいと言うか頭が固いと言うか…

どうも、そう言う印象が、私の中で原作の敦賀さんに対してあるようです。


ではでは、そんな敦賀さんに明日もお付き合い下さいませ♪