こちらは猫好きが高じた美花が思いつくまま書いた、『猫って可愛いよね!』と言うだけのお話です☆


タイトルは某先生の短編よりお借り致しました。大好きなお話です!

子猫を拾う話ですので『敦賀さんもキョコたんも、そんな無責任なことはしないわよ~!』と言う方は読んではいけませんよう。


そんな話もたまにはよし!と言う方は、どうぞ♪


***


…どれくらい、そうしていただろうか。

甘い香りが強くなって、身体が揺れるような感覚を味わって。

「ん…な、何…?」

目じりを擦り、閉じていたがる重い瞼を意志の力で押し上げると…

その瞳に、いきなり黒い瞳が飛び込んで来た。

「あ、最上さん、起きちゃった?ごめん、そのまま寝ていていいよ」

そう言って、間近の距離で切れ長の瞳が笑みの形を作る。

…くっきりとした二重の広い幅、長くて濃い睫毛の一本一本までがしっかりと見て取れて…

意識のはっきりしていないキョーコは、暫しの間、ぼんやりとしたままその瞳をまじまじと覗き込んで。

「…!?…ッ…!!…!!?」

次いで全てを理解して、喉の奥で声にならない悲鳴を上げてしまう。

目の前には、ここにいるはずのない蓮がいて、キョーコを抱き上げその顔を覗き込んでいたのだ。

「ッ、つ、」
「あ、静かに、最上さん。コーンが起きるから」

キョーコが最大級の悲鳴を上げそうになったところを、ベッドにその身体を下ろした蓮が唇に指を押し当て黙らせた。

自分の唇に触れるその指先の感触に、心臓が更に跳ね上がる。
慌てたキョーコが急いで顔を逸らすと、そんな目線の先にはすやすやと眠るコーンの姿があった。

大混乱の嵐に巻き込まれたキョーコは目の回るような感覚を覚えながら、ベッドの端に腰を下ろした蓮を見つめ返してしまう。

「つっ、つつつつ、敦賀さん…!ど、どうしてこちらに…!?もう朝ですか!?違いますよね…!?」

ちょっと転寝をしていただけなのだ、蓮の帰宅する予定の時間はまだまだ先のはず。

狐に摘まれたような感覚を味わったキョーコは、コーンを気にしつつ唇を押さえ声を潜め、目の前の美貌に問い掛けると、優しい笑顔が返って来た。

「ん、まだ夜中だよ。仕事の進行が早まって、一便早く帰って来たんだ。出る前に携帯に連絡を入れたんだけど君は出ないし、帰って来たら電気は点いたままなのに姿は見えなくて…何かあったかって、少し驚いたよ」
「え…ああ、け、携帯!私、リビングのテーブルの上に置いたまま…!それに電気も点けたままで、こちらに来てました…!!」

言われて、今までのことに不経済な!と青くなってから…

今の状況にも思い至る。

勝手に寝室に入り込んで、あまつさえそのベッドに突っ伏して眠ってしまっていた、そんな今の自分の状況に気付いて…

キョーコは一気に血の引く思いを味わった。

「ご、ごめんなさい…!!あの、ち、違うんです、こんな真似をするつもりは、決してなくて…!あの、ですから、その…!」
「うん、分かってる。コーンがここに入り込んでいたんだろう?それを君は探しに来て…参ったな、寝室にこの子を連れ込んでること、君にばれてしまったね」

なのに蓮は、逆に悪戯の見つかった子供みたいな顔をして見せて…

そんな表情に不意にきゅうっと胸が締め付けられるような感覚を覚えたキョーコは、今の状況を改めて考え、1人大きく焦ってしまう。

これは、どういうことだろうか。
蓮のベッドに下ろされて、その上から彼を見つめているだなんて。

こんな状況、絶対にあってはならないことだ。

そう感じたキョーコは、急いでベッドから降りようとしたのだけど…

それよりも、蓮の次の動きのほうが僅かに早かった。

「最上さん、どうかした?目が赤いよ。何か、あった?」

額に掛かった前髪を指先で払われ、瞳をもう一度覗き込まれて…
心配そうなその表情に、キョーコは眠ってしまう前に少し涙ぐんでしまっていた自分を思い出す。

それに慌てて、

「だっ、大丈夫です、ただ、ちょっとだけ擦っちゃっただけですから…何でもないんです」

指先で目元を隠すけど、その指先に手を添えられて更に蓮に覗き込まれる。

「本当に?何かあったんだったら、ちゃんと俺に教えて。君のことは全部知っておきたいんだから」

真っ直ぐ見つめられてそう言われて、キョーコは困ってしまう。

蓮のその言葉に、心配げな眼差しに、身の程を知ろうと思ったばかりの心が嬉しげに弾み出してしまうのだから、困ったものだ。

だから、眉尻を下げたキョーコは。

「敦賀さん…そういうことを、誰にでも言ったらいけないんですよ。そういうことは一番の方に言わなくちゃ…私の代わりに、今度ここに来る方に言って下さい」

寝起きだからだろうか、思っていた本音がするりと言葉になって唇から零れて…

思わず、しまったわと思う。

蓮はキョーコが『キョーコさん』の存在を知っていることを知らないのだ。
胸の奥に抱えた秘密の感情を他人が知っていることは、気持ちのいい話では絶対にない。

胸に燻った、これまで懸命に押さえ込んでいた気持ちが、瞬間、あてつけるようにして言葉になってしまったのだ。

だからキョーコは、動揺を浮かべた眼差しで何も言えないまま蓮を見返したのだけど…

当の蓮は、不思議そうな表情で瞳を瞬かせた。

「一番の人?君の代わりにここに来る人?それって誰のこと?ここに来る人は、君以外には誰もいないよ」

そして、その瞳に次いで怪訝な表情を浮かばせて。

「…どういうこと、最上さん…?君の代わりって…そうしたら、君はここにもう来ないつもり…?」

問われて、キョーコは堪らず瞳を伏せる。

「あの…来ないというか…そのうち、来れなくなるかなって。だって、敦賀さんにちゃんとした大事な方が出来たら、私はお邪魔になってしまうじゃないですか。コーンを引き取って頂いているのだから、お手伝いは勿論しますけど…敦賀さんにご迷惑をお掛けしたくはありません、だからその時はちゃんと仰って下さい。その方が猫が苦手だったら、コーンは私が、どうにかして引き取って」
「最上さん、待って。ちょっと待って」

気持ちが高ぶって、想像力が先走って。

言葉が次々とあふれ出したキョーコを、蓮は慌てたように手を上げ押し止めた。

≪7に続きます≫


次回2の最終話です。


さーて敦賀さん、彼はここでどう動くか。

手を拱いている場合じゃないですよ、ここはびしっと男らしく頑張って…!!


…しかしうちのブログのお話は、毎回敦賀さんを応援する展開になりますねえ…あせる


ではではまた明日。最後までお付き合い、よろしくお願い致します。