こちらは猫好きが高じた美花が思いつくまま書いた、『猫って可愛いよね!』と言うだけのお話です☆
タイトルは某先生の短編よりお借り致しました。大好きなお話です!
子猫を拾う話ですので『敦賀さんもキョコたんも、そんな無責任なことはしないわよ~!』と言う方は読んではいけませんよう。
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「あら…コーン、どこにいるの?コーン?」
そうして、夜を迎えて。
翌朝に控えた蓮の帰宅を前にコーンと2人だけの夕飯を済ませたキョーコは、朝食の下拵えをキッチンで行なっていた。
帰国後すぐなら和食がいいかな?と、お米をセットしたり肉じゃがを作ったりしているうちに、気が付いたらコーンの気配が傍にいなくなっていた。
キッチンにいるキョーコの足元に盛んにじゃれ付いていて、きゅうりの浅漬けを冷蔵庫に入れる時には興味深げに中を覗いていたのが先程のことだったのに、見回したけれどもキッチンには今、その姿がまったく見えない。
一日の大半を過ごすリビングを見ても、いつも一緒に入って来たがる浴室を見ても、薄茶の姿は見あたらない。
部屋数の多いこの家で、小さな身体が隠れる場所はたくさんあった。
まさか迷子かと、キョーコは一瞬慌てていたけれど…
蓮の寝室が僅かに開いていることに気付いて室内を覗き込み、そこに小さな存在を見つけて苦笑を零す。
寝室の真ん中に据えられた大きなベッドの上で、コーンがちょこんと丸くなっていたのだ。
その姿を見つめて、さては敦賀さん、頻繁に寝室に連れ込んでるわね?とキョーコは察知する。
こうやってお宅にお邪魔した時、蓮のシーツとパジャマにコーンの毛が付いていたことがこの2ヶ月の間で何回かあったのだ。
その真相を見た気がするキョーコは、苦笑を深める。
その気持ちは分からなくもない。
実際キョーコも、昨夜『コーンと一緒にベッドで眠る』と言う魅力的な誘惑に駆られてしまい、悩みに悩んだ末、人様の家のベッドなのだからと思い留まり、寂しそうな目で見上げて来るコーンを後ろ髪を引かれる思いでケージの中に入れたのだ。
けれどもしかすると、この様子では、ケージ自体を余り使っていないのかも知れない。
昨夜ケージの中を暫くうろうろしていたコーンは、しぶしぶと言うような顔で専用のベッドに潜り込んでいたのだから。
「あなたを甘えん坊にさせてるのは、ご主人様の仕業だったのね?」
そう囁いたキョーコは、ベッドサイドに膝を付いて頬杖を付き、掛け布団に顔を埋めるようにして眠っているコーンの頭をそっと撫でた。
すると、その途端。
天日に干した掛け布団から日向の匂いと、そしてその中に微かに香る、蓮がいつも纏う甘いフレグランスの香りが鼻先を擽って…
不意のことにどきりとしたキョーコは、慌ててベッドから身を起こしてしまう。
「や、やだ…私ったら、なんてことを…!男の人のベッドに無断で近付くなんて、そんな…は、破廉恥なことをするなんて…!!」
他人の寝室に勝手に入り込んで長居をするなんて、常識で考えても決してしていいことではない。
しかもそれは『敦賀蓮』の寝室で…
物凄く恥ずかしいことをしている自分に気付いたキョーコは、急いでこの場から離れなければとあたふたしだしてしまう。
…けど、だけど…
蓮の優しい香りは、甘い誘惑を持ってキョーコを誘い込む。
以前に一度だけ宥めるように抱き締められた時の不思議な安堵感を、今から思えば信じられない程の幸福さを、その香りはキョーコに思い起こさせた。
その誘惑には勝てなくて…
少しだけと言い訳をしてそろそろとベッドに頬を寄せると、日向の匂いと共に、彼の甘い香りが強くなった。
まるで傍に蓮がいるような錯覚を覚えて…
苦しい気持ちになったキョーコは、堪らずじわりと涙を滲ませてしまう。
どうして自分には、学習能力と言うものがないのだろうか?
恋なんて、愛なんて、自分には縁のないものと分かっていた。
これで一度痛い目を見たのだ、だからこそ、もう二度と人を好きになんてならないと強く心に決めていたのに…
その決め事をあっさり忘れて、またこうして叶うはずもない恋心を抱えて、その感情に散々振り回されている。
呆れてものが言えないとはこのことだと、キョーコは思う。
心に抱えたこの恋が叶うことは、どう考えても有り得ない。
彼の心がキョーコに向かうことは、それこそ、絶対に有り得なかった。
…それなのに…
想う気持ちを諦めきれず、ささやかな喜びを忘れられないまま、今も蓮に向かう恋心を引き摺っている自分が情けなかった。
「…早く、『キョーコさん』と上手く行ってくれたらいいのにね…」
そうすれば、往生際の悪い私だってやっと諦めが付くと言うのに。
零すように囁くと、薄目を開けたコーンが返事代わりのように尻尾を一・二度振った。
長い尻尾がベッドに伏したキョーコの頬を擽って、その柔らかな感触に思わず苦笑が漏れる。
そしてコーンはそんなおざなりな返事を残すと、そのまま、ベッドの中央でまた深い眠りに落ちて行く。
「もう、適当なんだから…私より眠いほうが優先なのね?あなたは本当によく寝る子ねえ」
寝顔を覗き込み髭の根元を突くと、むにゃうにゃと寝言を言うのが可愛らしい。
更に突くと、指から逃げるように布団に顔を押し付け、前足で顔を覆って隠してしまう。
その愛らしい仕草に唇を綻ばせ、なだらかな曲線を描くコーンの温かな身体を撫でているうちに…
キョーコもだんだんと、とろりとした眠りの淵に足を踏み入れ出してしまう。
今日は一日、部屋数の多いこの家で根を詰めて立ち働き過ぎた気がする。
身体中に感じる心地いい疲労に誘われて、そっと瞳を閉じた。
広い寝室に聞こえるコーンの小さな寝息が、蓮の甘い香りが、共にキョーコをまどろみの中に誘い込む。
…今だけだ。
眠りに落ちながら、キョーコは思う。
こんな真似をするのも、不相応な想いにしがみ付くのも、今だけだ。
この居場所は…
今に、キョーコの手の届かないものになるのだから。
≪6に続きます≫
キョコたんが泣いてますよ、敦賀さん…!
さっさと行動に出ないからこんなことになるんです、もう。
しかし敦賀さんは、どこに撮影に出てるんでしょうねえ…(考えてないのでご想像にお任せ致します)
続きはまた明日です。
ではでは♪