タイトルは某先生の短編よりお借り致しました。大好きなお話です!
子猫を拾う話ですので『敦賀さんもキョコたんも、そんな無責任なことはしないわよ~!』と言う方は読んではいけませんよう。
そんな話もたまにはよし!と言う方は、どうぞ♪
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「コーン、敦賀さんがお出掛けよ。ほらほら、こっちに来てちゃんとお見送りして」
キョーコがそう声を掛けると、リビングでふわふわボールを必死になって追いかけていたコーンが慌てたような顔で玄関先に飛んで来た。
お出掛け前の衣服に猫の毛を付けては大変と、キョーコはやって来たコーンを抱え上げてから蓮を仰ぎ見る。
「いってらっしゃい、敦賀さん。コーンの面倒はしっかりと見させて頂きますからね」
そうして意気込みも新たにそう言うと、
「うん、日曜の朝方には帰って来られる予定だから。その間は宜しくね、最上さん」
華やかな美貌に笑みを浮かべた蓮が、旅行用の鞄を抱えてそう言った。
蓮は金曜の夜である今夜から数えて約3日間、CMの撮影で海外に出ることになっていた。
その為、学校が休みで週末は日曜にドラマ撮影が入っているのみのキョーコが、泊り込みでコーンの世話をすることになったのだ。
蓮に撮影の話を教えられた時、
『俺が帰って来るまで部屋に泊まって行って?ここにあるものは、自由に使ってくれてかまわないから』
当然のようにそう言われ、
『泊り込みだなんて、そんな滅相もない!私は通いでこちらに窺いますから!』
1人、恐縮したキョーコだったのだけど…
『どうせ君のことだから、コーンの様子を見にマメにここに出入りしてくれるつもりなんだろう?そのせいで、夜遅くに帰られたらと思うと心配で仕事に集中出来なくなるよ。俺を安心させると思って泊まって行って。どうせ誰もいないんだし、そうすればコーンも喜ぶしね』
心配そうな表情を浮かべて言われてしまうと、反論なんてとてもじゃないけど出来なかった。
蓮に心配をかけるのは物凄く申し訳ないし、それにコーンの名前を出されると、心が簡単に揺らいでしまう。
この広い部屋にコーンが一匹でいる様子を想像しただけで、その寂しそうな姿に切ない気持ちが募るのだ。
そうしてキョーコは、その言葉に誘われるような形で、お泊り道具を抱え蓮の自宅にやって来ていた。
今は夕方の6時。
蓮はこれから、夜のフライトで海外に出る予定だ。
「敦賀さん、強行日程ですけど体調には十分に注意して下さいね?ちゃんとした睡眠とお食事が健康な身体を支えるんですから、旅先では2つを意識的にしっかりと摂って下さい」
玄関先で一番の心配点を上げると、苦笑が返される。
「ええと、気をつけます」
「もう、気をつけるだけじゃダメですよ?約束ですからね?」
確約を取り付けようと身を乗り出すと、蓮が更に苦笑して。
「そう言う君こそ、俺がいない間に夜の深夜徘徊をしたらダメだよ。それこそ注意して」
最近毎度の注意を受けて、キョーコはぐっと詰まってしまう。
「し、深夜徘徊って…そんなこと、私しませんよ?」
「してるから言ってるんだよ、この子を拾った夜だってそうだっただろう?君は、自分が女の子だって言う意識が低いんだから」
「う…そ、そう言うつもりはないんですけど…気をつけます…」
「絶対だよ?約束だからね?」
そしてやれやれと言うように笑った蓮は、大きな掌を伸ばしてキョーコの腕に抱えられたコーンの頭を優しく撫でる。
「君も、最上さんの言うことをよく聞くんだよ。大好きな最上さんがいてくれるんだから、寂しくはないだろう?」
言葉の意味を理解しているのかは分からないけれど、「にゃん」と返事を返したコーンはその掌にすりすりと頭を摺り寄せる。
コーンがこちらにお世話になるようになってから、2ヶ月と少し。
ふわふわもこもこで完全な子猫だったコーンも、この日々ですくすくと大きくなり、しなやかな身体を持つようになってきていた。
大きな碧い瞳にピンと立てられた耳、そして艶やかな毛並みと長い尻尾を持った姿は、世話をしている身の贔屓目を抜きにして見ても、とても綺麗な猫に成長してきているとキョーコは思う。
けれどこの、触って貰いたがりなところは変わりがなかった。
むしろ、甘えん坊な性格が順調に成長してきているように思える。
人が大好きで、行く先々に付いて回っては大きな瞳で抱っこを強請るのだから、コーンはかなりの甘え上手だ。
そんなコーンを見つめ、そっと瞳を細めた蓮は。
「ちゃんといい子にしてるんだよ、コーン」
そう言って、笑顔のまま身を屈めると…
驚くほど自然な仕草で、キョーコの腕の中にいるコーンの額にそっとくちづけを落とした。
その滑らかで何気ない動きに、そして普段よりもずっとずっと近いその距離に。
吃驚したキョーコが瞳を瞬かせていると、不意に、顔を上げた蓮と目線が絡む。
覗き込んでしまった黒い瞳の奥には、驚いたような色と、次いで浮かんだ何かもの言いたげな感情が潜んでいて…
唐突にどきりと胸が高鳴るのを感じたキョーコは、何も言えないままにその瞳を見つめ返してしまう。
…そうして、僅かな後…
「…じゃあ…行って来るね、最上さん。お土産、買って来るから」
先に目線を切り離したのは蓮の方で。
身を起こした彼が優しく笑うのに、キョーコは慌てて、
「そんな、お土産なんていいですから!気をつけて行って来て下さいね、お仕事頑張って下さい!」
そう挨拶をすると蓮がふわりと微笑む。
「うん、いってきます」
「はいっ、いってらっしゃいませ!」
手を振る蓮に、笑みを返して見送って。
玄関の大きなドアがばたんと閉まるのと同時に…
キョーコはへなへなと、玄関先の床に座り込んでしまった。
≪2に続きます≫
キョコたん編は長めなので、本館では前中後編だったものを分割UPしていきます。
にゃんこ萌えから一転、恋愛要素が多くなった?かも?
こちらもお付き合い、よろしくお願い致します♪
ではでは!