こちらは猫好きが高じた美花が思いつくまま書いた、『猫って可愛いよね!』と言うだけのお話の後編です☆


タイトルは某先生の短編よりお借り致しました。大好きなお話です!

子猫を拾う話ですので『敦賀さんもキョコたんも、そんな無責任なことはしないわよ~!』と言う方は読んではいけませんよう。


そんな話もたまにはよし!と言う方は、どうぞ♪


***


そうして、それから。

「ただいま、最上さん」
「おかえりなさい、敦賀さん!お邪魔させて頂いてます」

自宅に帰ると毎日子猫が、そしてほぼ2日に一回の割合で、笑顔のキョーコも一緒に玄関で出迎えてくれる生活が蓮を待っていた。

しかも、部屋の奥からは食欲を刺激するいい匂いが漂ってくる。

エプロンを締めたキョーコは足元に子猫をまとわり付かせながら、蓮を見上げて。

「敦賀さん、ご飯とお風呂の準備も出来てますよ。どちらになさいます?」

まるで新妻みたいなことを言うから、蓮は嬉しいような困ってしまうような、複雑な気持ちを抱いてしまう。

「最上さん、そんないいのに。猫の面倒だけでいいんだよ、君にも仕事があるんだからゆっくりしてくれなくちゃ」
「いえいえ!これは私が勝手にしていることですからお気になさらないで下さい。この子の面倒も見れて、敦賀さんのお食事も管理出来るなんて…私にとってはまさに一石二鳥なんです!ふふ、今夜もしっかりご飯を食べて下さいね、敦賀さん!」

今夜はハンバーグですよと笑顔で言うキョーコは、酷く楽しげだ。

その笑顔につられて、蓮も笑みを浮かべる。

「勿論、美味しく頂かせて貰いますよ。じゃあ、ご飯を先にしようかな」
「はい、後はもうリビングに運ぶだけになっていますから、すぐご用意しますねっ」
「あ、手伝うよ?」

「いいえ、すぐですから!敦賀さんはリビングでお待ち下さい」

「そう?いつもありがとう、最上さん」

そんな会話の後、


「君も、今日もいい子にしていたかな?」

言ってキョーコの足元にいる子猫を抱き上げ喉の下を指先で擽ると、気持ちよさそうに瞳を閉じた子猫はごろごろと喉を鳴らせて見せた。

「私がこちらに来た時は自分用のベッドで大人しく寝てましたよ。猫って、こんなに長い時間寝るものなんですね?それにトイレも綺麗に使うし、場所も一度も間違えないし…小さいのに、随分と賢い子ですねえ」

キョーコも瞳を細めながら隣から手を伸ばして子猫の額を撫で、ふにゃりとした笑顔を残してキッチンに戻って行く。

腕の中で気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らす耳と瞳の大きいこの子猫は、キョーコの言う通りかなりもの覚えがよかった。

リビングの一角にケージを用意し、トイレの場所はバスルームに設置したのだが、初日に場所を教えたその日から、子猫は間違えることなくそこを使用するようになっていた。

彼の賢さは、しっかりとしたしつけを受けている上にあるように思える。
ピンと立った大きな耳とまん丸な瞳が作り出す品のいいその容姿も、血統のよさを伝えているような気がしてしまう。

「もしかすると君は、いい血筋のお坊ちゃまだったのかもしれないね?」

リビングに入ってソファーに子猫をそこに下ろして、蓮はそう話しかける。

だから探している飼い主がいるのではと、迷い猫と言うことで
社に頼んで拾ったあの場所に張り紙をして貰っているのだけれど、未だ名乗り出てくる飼い主はいない様子だった。

子猫は男の子だったのだ。

初日の日、抱き上げた子猫を覗き込んで「あ、この子、男の子ですね!」とキョーコがさらりと言った時は…何とも、いたたまれない思いを感じたものだった。

今や蓮の自宅にすっかり馴染み、リビングをテリトリーとしているらしい彼は慣れた様子でソファーに座り、そのまま徐に小さな爪を出す。

そしてソファーの背に爪を立てようとして…

「こらっ!そこで爪とぎしちゃいけません!」

飛んで来たキョーコの声に、慌てた様子で爪を引っ込めた。

振り返るとそこには、ミネラルウォーターとグラスをキッチンから持って来たキョーコがきりりと柳眉を逆立てていて。

「もう、爪とぎだけはどうしてもそこでやりたがるんだから…ソファーに爪を立てたらいけません、めっよ!」

身を小さくする子猫を前にして真剣な顔をして叱り付けるキョーコに、蓮は苦笑を零す。

「まあまあ、最上さん。他はちゃんといい子にしているんだから、これくらいは許してあげてもいいんじゃない?まだ、子猫だし」
「いいえ、いけません!これはこんな立派なお部屋に置いて頂けているこの子にとっての、最優先のしつけなんです。子猫だからこそ、今のうちに教え込まなくてはダメなんです」
「うーん、でもほら、家具なら買い換えればいい話だし…」
「…そんなことしていたら、一体いくら掛かると思ってるんですか…!敦賀さんも見てるだけじゃダメですよ、怒る時はちゃんと怒らなくちゃ!優しいだけじゃ、この子の為にもなりません」

子猫と同時に怒られてしまった蓮は、肩を竦めるしかない。
意外な教育ママぶり発揮するキョーコには、まったくと言うほど逆らえなかった。

「まったく…やけにこのソファーがお気に入りなんだから、コーンたら…」

そして、ぼやくようにキョーコが言ったその名前に、蓮は暫し動きを止める。
「ほら、爪とぎはここでするのよ」と、子猫を抱えて爪とぎ用の板の匂いを確かめさせているキョーコに、

「…えーと、最上さん…やっぱり、この子の名前は『コーン』になるのかな…?」

蓮は堪らず、そう声を掛けてしまう。

「あ、ダメですか?名前決めていいよって言って下さったから、思わず…」
「いや…それは勿論、いいんだけどね?」

不安げな顔をするキョーコに慌てて手を振ったけれど…

優しい記憶の中にある過去に呼ばれた自分の呼び名が、その本人によってまた、目の前で呼ばれる様子は、正直、やけにそわそわしてしまうものだった。

何とも言えない感覚に落ち着かない様子でいると、キョーコがふわりと表情を緩める。

「よかった!この子、コーンにすごーくそっくりなんです!碧い瞳だし、金色じゃないけど近い色合いの毛色だし、男の子ですし。それに何より、綺麗なお顔をしているのが一番そっくりなんですよ」

ね、コーン?と話しかけるキョーコを見上げて、子猫の彼も「にゃん」と返事をする。
彼の小さな頭の中ではすでに、自分の名前は『コーン』に決定しているようだ。

…この可愛い一人と一匹の組み合わせには、蓮はとても敵わないと思う。

「じゃあ、コーン。君もそろそろ、お腹が空いてきた頃かな?」

やれやれと笑った蓮が言ってその頭を掌で撫でると、『コーン』は身体中を撫でさせるように自分から掌へと大きく身を摺り寄せて来た。

掌に触れる、柔らかな感触が擽ったかった。

「ふふ、そうですね。私達もご飯にしましょうか、敦賀さん。ちゃんと洗面所で手を洗ってきて下さいね。ほらほらコーン、あなたもご飯ご飯」

そうして楽しそうな笑顔を見せ、身軽な様子でキッチンに戻って行くキョーコの後を、尻尾をピンと立てた『コーン』が意気揚々と付いていく。

その背中を見送って、蓮は考える。


彼女は気付いているのだろうか?

この生活はまるで、新婚家庭と変わりがないということを。
毎日に近い頻度で男の部屋にやって来て、嬉しそうに食事の準備をしてくれることが、相手への気持ちにどんな意味を持つかということを。


これは予行練習なのかと、想像をして幸せな笑みを浮かべた蓮は、この無自覚な可愛い彼女をどう攻め落とすかと考えながら…



キョーコの言いつけを守るべく、ソファーから立ち上がり洗面所へと足を向けたのだった。



*END*


何だか敦賀さんが、キョコたんと猫が大好きなだけのお話になっちゃいました…あ、キョコたん好きはいつものことか。

似た者同士のご主人様と飼い猫は、うっかり同じベッドで寝ちゃって「シーツとパジャマが猫の毛だらけですよ、敦賀さん、コーン!」とかキョコたんに怒られたらいいと思います。

ではでは、おまけに続きます!

2012.5.4 美花 本館公開時