こちらは若旦那敦賀さん×町娘キョコの江戸ものパラレル話です。

なんちゃって時代物ですので、苦手な方はご注意を。


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「もうどこにも行くことはないから、ずっと傍にいられるよ。うちには女の子がいないから、父さんも母さんもすごく喜ぶ。この言葉…覚えているだろう?」

昔言った言葉をそのまま繰り返すと、お京は蓮一郎を見つめたままそろそろと頷いて見せた。

「覚えています…だって、そういって下さったことが凄く嬉しくて幸せで…あの思い出が、これまでの私の、心の支えだったんですから…」

そう言って、「信じられない」と呟き両手で口元を押さえたお京は…

不意にそこで眉尻を下げ、表情をさっと曇らせた。

「…だから、なんですか…?だから、急にお嫁になんて言い出されたんですか。だったら、そんな昔の約束を気にされていたのなら、私は」

落ち込んだように肩を落とすのに、苦笑を零した蓮はその肩に手を寄せる。

「まさか。それは違うよ、お京ちゃん。あの約束はただの切欠だったんだ。あの頃だって勿論本気だったけど…子供の頃の約束だけで嫁取りをしようと思うほど、私は真正直な男ではないよ。上方から戻って来て…もう一度君と出会って、改めてそこで私は君を好きになったんだよ。あの時の女の子が君だったからこそ、一緒になりたいと思うようになったんだ」

伏せた眼差しを下から覗くと、照れたような、困ったような表情が返されて。

「若旦那は…お口がお上手ですね?そういうことを、他の娘さんにも仰ってるのではないのですか…?」
「…どうして君は、そう私に対してだけ疑い深いのかな…こんなことを何度も言えるほど、私は器用な男でもないよ」

憮然な顔を作ると、それを見たお京が小さく笑みを零した。
その頬にじわじわと喜色が浮かぶのを見つめて、蓮一郎も唇を綻ばせる。

お京の頑なな態度に、嬉しい変化を見つけた蓮一郎は。

「お京ちゃん、私のところにお嫁に来てくれるね?昔からの約束もあるのだから、いきなりと言うわけでもないのだし」

願うように囁いて、手を取り指先を握り込むと…

その仕草に瞳を緩めたお京は、僅かな間の後…そっと頷いてくれた。

「…昔からのお約束ですから、ね…」

…けれど、そんなふうに言う頬は桜色に染まり、花びらのような唇には堪えられない笑みが浮かんでいて…

隠し切れないその嬉しそうな様子に、蓮一郎の心はどうしようもなく浮き立ってきてしまう。


≪二十二 最終話 に続きます≫


いよいよ次回最終話です。


最後までのお付き合い、宜しくお願い致します♪


ではでは。