こちらは若旦那敦賀さん×町娘キョコの江戸ものパラレル話です。
なんちゃって時代物ですので、苦手な方はご注意を。
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「若旦那…あの、本当に本当に、本気なんですか?」
「本気って、何のこと?」
首を傾げて見せると、お京は拗ねたような顔をして唇を尖らせる。
「も、もう、誤魔化さないで下さい、若旦那!私のお嫁入りのことです…!女将さん達はああ言いましたけど、私ではやっぱりどう考えても若旦那には不釣合いです。なのに、あんな風に簡単に決めてしまって…考え直すなら今です、今なら敦賀屋の旦那様達にも、何とか言い訳が立ちます」
奥座敷を気にしながらそう言うお京へ、蓮一郎はやれやれと溜息を漏らす。
「お京ちゃん…どうして嫁入りをそんなに嫌がるの?それほど私は君に嫌われているのかな…私としては、これでも仲良くして貰えていたと思っていたのだけど」
からかい半分、本音半分で問うと、それを聞いたお京の顔が真っ赤になる。
「嫌ってなんて、いませんたら!そうじゃなくて、若旦那はご自分のことが全然分かってらっしゃらないんです!私聞いているんですよ、若旦那のところには江戸中のお嬢さんのいる大店から縁談のお話が来ているって!江戸中の若い娘さんは皆、若旦那に夢中なんです。若旦那に一目お会いしたいと、見つめられたらどんなに幸せだろうと、皆願っているんですよ!?」
そう、一気に声を張るお京を見つめて、蓮一郎は微笑んで。
「…嫌いじゃないなら、好き?」
「え?」
「私のことを、お京ちゃんは好いてくれている?江戸中の若い娘さんの中には、勿論お京ちゃんも入るよね。他の娘さんはどうでもいいんだよ。君は私に、会いたい、見つめられたいって、夢中になってくれている…?」
しっかりと目線を絡め、まじまじとその瞳を覗き込むと…
握っていた手が一気に引き戻され、物凄い勢いで部屋の端にまで後退されてしまった。
「わわわ、若旦那の意地悪…!!そんなのずるい、こ、こんなの…破廉恥です…っ!」
真っ赤な顔が困ったように歪んで、いきなり今にも泣き出しそうな表情をされてしまい、慌てた蓮一郎はお京の傍へと急いでにじり寄る。
「ごめん!泣かせるつもりじゃないいんだよ、ただ、君の気持ちが聞きたくて…ごめんよ」
宥めるように髪を撫でると、困惑気味の潤んだ瞳が見上げて来る。
「わ、若旦那は…どうして私なんですか…?どうしてそんなに優しくしてくれるんです、危ないところからはいつも助け出してくれるし、いつも気にかけてくれるし…私が行くところがないって分かったら、今度はお嫁に貰おうなんて…そんなの、おかしいです。一体、どうしてなんですか…?」
「どうしてって」
お京の目尻に零れた涙を指先で拭って、蓮一郎は困ったように笑みを零す。
「それは勿論、お京ちゃんが好きだからだよ。江戸に帰って来てから、君をずっと見ていたんだ。面倒見が良くて世話好きなところも、元気だけど恥ずかしがり屋なところも、ずっとずっと、可愛いと思っていたんだよ」
そしてそう、本心を真っ直ぐ告げたのだけど…
「…嘘です、私なんかを若旦那が、なんて…そんなこと、信じません」
お京にぷいとそっぽを向かれて、堪らず眉根を寄せてしまう。
「お京ちゃん。嘘じゃないし、君に『私なんか』なんて自分を卑下して欲しくはないよ。私は、本当にお京ちゃんが好きだ。それだけはちゃんと信じて欲しい」
再会して僅かな時間しかなかったが、蓮一郎の中で、お京への気持ちが日に日に大きくなって行くのが自分でも手に取るように分かっていた。
顔を合わせれば嬉しくなり、言葉を交わせば、その会話を少しでも長くさせようと話題を探しては質問を繰り返してしまう。
お京が楽しそうに微笑むと、それだけで、自分まで気持ちが浮き立つようになっていたのだ。
それなのに。
「でも…だって、」
困ったように眉尻を下げたお京は、そのまま肩を落として俯いて。
「やっぱり、急すぎるお話です…信じようにも、信じる理由がありません…」
小さくそう呟かれて…
確かにと、蓮一郎は思う。
お京が蓮一郎の言葉をすぐには信じられなくても、今の状況ではそれは仕方のない話だった。
確かに…今回の話は、全てが急過ぎたのだ。
≪二十に続きます≫
お京ちゃん、猛抗議編。
若旦那のたらし技も純情乙女には逆効果のようで…
もっともっと誠実に、誠心誠意、説得にあたって下さい。頑張って!
土日は更新をお休みします。続きは月曜で。
ではでは、また♪