こちらは若旦那敦賀さん×町娘キョコの江戸ものパラレル話です。

なんちゃって時代物ですので、苦手な方はご注意を。


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医者がやって来てお京が手当てを受けている間に、蓮一郎は籠を待っている両親へ事の次第を説明する為に、先の座敷へと戻って来ていた。

「唐突で申し訳ありませんが」と切り出して、

「お京ちゃんに、今夜から敦賀屋で暮らして貰うことになりました。それから時機を見て、うちに嫁いで来て貰おうと考えています。このことは不破さんとも話を済ませいることですので…急な話ですが、そのつもりで宜しくお願い致します」

そう告げると、座敷で控えていた社が驚いた表情を見せ、周左衛門とお樹里が怪訝な表情を蓮一郎に向けて来た。

「つい先程までのんきなことを話していたかと思えば、随分いきなりな話じゃないか。一体、この少しの間で何があったんだね?詳しく説明をして貰おう。状況が分からないままでは、私も動きようがないからね」
「どうしたの、蓮一郎。まさか、お京さんに何かあったのではないでしょうね?」
「…実は、先程と状況が変わったんです。少々、事情がありまして」

2人に問われて、愁眉を寄せたが蓮一郎が、その事情であるこれまでの出来事をかいつまんで話すと…
その説明を黙って聞いていたお樹里が、聞き終わるなりすいと立ち上がった。

「そんなことがあったのならば、事を急いだ方がいいでしょう。あなた、不破のご主人と女将さんへ私達からもご挨拶を致しましょう。蓮一郎、お前は早くお京さんを敦賀屋にお連れなさい。そんな男のいる場所に、お京さんを少しだって置いておくわけにはいきませんよ」

その美貌に満面の笑みを浮かべたお樹里は、柔らかな声でそう指示を出す。
それは、静かに怒りを溜めている時に見せる、母のいつもの様子だった。

その意には大賛成な蓮一郎は、二人に頭を下げる。

「彼女の手当てが済んだら、そのように。不破のお2人は今彼女の傍にいるので、案内致しましょう」

両親を伴い居間へと戻ると、丁度医者がお京の額へ小さな軟膏を貼り終えたところだった。
傍にいた不破の主人と女将が、背後の周左衛門とお樹里へと目線を向ける。

「敦賀屋さん」
「話はうちの蓮一郎より聞いております。今後の詳しい話をさせて頂こうと思いまして、お邪魔致しました」

2組の夫婦が奥座敷へ向かうのを見送りながら、蓮一郎は座したお京の傍に膝を付く。

お京の頬は、濡らした蓮一郎の手拭いで抑えられたままだった。
不安そうな目で見上げてくるお京に微笑んで、蓮一郎はその手拭いを受け取り置かれた盥で冷やすと、もう一度その頬へと押し当てた。

「痛む…?」

触れる際に僅かに眉を顰めたお京が心配で、覗き込んで問い掛けると彼女はそっと首を横に振る。

「少しだけです…ありがとうございます、若旦那」

そして自分で手拭いを押さえようとして…その手に蓮一郎の手が触れるのを見て、慌てたように手をずらした。

お京のその小さな反応にも、蓮一郎の心はふわりと柔らかくなる。

「額の傷は?まさか、跡が残るようなことはないでしょうね?」

一番の心配事を傍で治療道具を箱へと仕舞う医者に問うと、笑みが返された。

「血は多く出ていましたが、それは頭の傷だからで傷自体は小さいですよ。10日もすれば、綺麗に完治することでしょう」
「では、この後すぐに動いても、問題はないでしょうか。少しの移動なのですが」
「ほんの少しなら。但し、あまり無茶なことは控えて下さい」

医者へとお京と2人で礼を言い、彼が居間から下がって行ってから…

蓮一郎は、お京のその手を包み込む。

「大事なものを部屋に置いていたりする?持てるものなら、今持って出よう。他のものは後からうちの者に運ばせるから。今夜から、お京ちゃんには敦賀屋に来て貰おうと思う。あの男の傍には、一刻だって置いてはおけないからね」

これからのことを伝えると、

「いえ、部屋にはそれほどのものはありませんけど…」

首を横に振り、そして握った手を戸惑ったように見てから、お京は困った顔で蓮一郎を見上げて来た。

≪十九に続きます≫


笑顔で激怒がママ譲りなのはこちらでもでした。


次回はお京ちゃん猛抗議(?)の回。

若旦那、上手く丸め込…いえいえ、ええと、しっかり自覚を促して下さい!


それでは♪