こちらは若旦那敦賀さん×町娘キョコの江戸ものパラレル話です。

なんちゃって時代物ですので、苦手な方はご注意を。

そして昨日に引き続き、バイオレンスなお話が続きます。

そう言うのはちょっと…と言う方、閲覧にご注意下さいませね。




***



「お京ちゃん!!」
「…わ、若旦那…っ」

いきなりの暴挙に目を瞠り、急いで駆け寄った蓮一郎がお京の華奢な身体を抱き起こすと、蒼褪めた顔が目に入る。

頬は赤く腫れ、倒れた時に障子の桟にぶつけたのか、額が切れ血が滲んでいた。
強張った表情の中で唇が小さく戦慄き、細い指先が蓮一郎の羽織の袂をぎゅっと握り締めて来る。

その余りのことに表情を険しくさせた蓮一郎がお京を抱えたまま正面の松太郎を睨み付けると、それを見止めた目線の先の相手が唇の端を上げてせせら笑う。

「あんた、どこの何者だ?人の家で偉そうな顔しやがって。そいつは俺の許婚だ、返して貰おうか」

喋る度に酒の匂いが周囲に広まる。

動きもふらふらとしていて、随分な量を飲んでいることが一目で分かった。

「ふざけるな…許婚だろうと、女の子を殴るような男に彼女は渡せない」

蓮一郎を追って来た女将の足音が廊下に響く。

「お京ちゃん…!」
「…女将さん…」

駆け寄る女将にお京を預け、蓮一郎は二人を背に庇うようにして立ち上がる。

すると、松太郎の面に嘲るような表情が浮かんだ。

「何だ…?あんたまさか、お京に気でもあるんじゃねえだろうな。こんな地味でつまんねえ女にそんなわけねえよな!俺だって親が押し付けて来なきゃ、誰がこんな女相手にするか…おい、お京」

酒で濁った目で蓮一郎の背後を見つめ、唇を歪める。

「お前、俺の許婚じゃなきゃここにゃいられねえんだぞ?なんせ、他に行くところなんてねえもんな!しょうがねえから面倒見てやろうってんだ、ありがたく思え!」
「…松太郎、あんたなんてことを…!!」

叫んだ女将が手を上げるより先に、蓮一郎が動いた。

握り込んだ拳で、松太郎の顔を殴り飛ばしたのだ。

吹き飛んだ身体が障子にぶつかり、そのまま障子が倒れて、桟が折れる。

奥座敷の騒ぎに気付いたのか、店の者だろうか、数人が乱れるようにして廊下を走る足音が聞こえて来た。

そんな中、倒れ込んだ松太郎が、冷ややかに見下ろす蓮一郎を睨み付ける。

「てっ、てめえ!」
「汚い言葉で彼女を侮辱しないで貰おう。お前のような男の言葉に彼女が傷つくのも我慢ならない。静かにして貰おうか」
「…ッ…ふざけんな…!」

飛び起きるようにして起き上がり、殴りかかって来た松太郎の手を掴んで捻り上げると、蓮一郎はその鳩尾に拳を入れて黙らせた。

松太郎はあっけなく崩れ落ちる。

酒で足元も危うい男では、蓮一郎の相手にもならなかった。

「…わ、若旦那…」

大店の評判の跡取り息子が見せた荒事の余りの手際の良さに、女将もお京も呆然とした顔をしていた。

男一人を昏倒させたと言うのに、蓮一郎の様子は息が上がることもなく冷静で。

蓮一郎はそんな二人を振り返り、お京の痛ましい様子に愁眉を寄せ、

「息子さんに対して暴力を振るいまして申し訳ありません。座敷の修繕費は敦賀屋へ請求を回して下さい。けれど、まず先に医者を。彼女の怪我の方が心配です」

駆け付け、その背後に立った不破の主人へと蓮一郎はそう告げた。


お京を抱えるように抱き締めていた女将は、座敷の状況を、そして気を失った息子を眺めて…


そのまま、ふらふらと畳の上へと崩れ落ちた。



≪十五に続きます≫

松太郎の暴力は酔った勢いと言うことで…


彼にも彼なりの理由があるんですよう。

問題児な彼ですが、悪役なだけのままにはしたくないなあと思います。

まあ、ダメな子には変わりはないですけどね。

その理由はまた来週。土日は更新をお休みさせて頂きます~


ではでは、また。