こちらは若旦那敦賀さん×町娘キョコの江戸ものパラレル話です。

なんちゃって時代物ですので、苦手な方はご注意を。



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お京と二度目に再会したのは、初めて会ったあの川原だった。

不破の周辺を調べていて、蓮一郎は自分の目でお京を確かめたくて、不破まで足を向けたのだ。

その川原は敦賀屋と不破の間の位置にあり、歩む途中、懐かしさも手伝ってその川原にまで降りてみた。

視線の高さが変わって記憶の風景とは少し違って見えたが、水の音と柳の葉が風に揺れる音、忙しく行き交う橋の上の喧騒から隔離された穏やかな空間に変わりはなかった。

よく見れば川原の様子は橋の上から丸見えなのだが、あの頃の二人にはこの場所が、誰にも分からない秘密の隠れ家のように思えていた。

懐かしさに浸っていると、足元の石の間に何かが落ちているのが目に入った。

拾い上げてみて、目を瞠る。

それは、やや色の褪せたお守りだった。

そのお守りには見覚えがあった。
記憶の中と寸分変わらぬ同じ場所に、同じ綻びがある。

これは…

お守りの中に入れられたものに指を添わせた、その時。

「すみません!そのお守り、私が落としたものなんです!!」

頭上の橋から女の子の声が振ってきて、驚いて振り仰いだ時にはそこにはもう姿はなく、目線を転じると川原に降りる石段から若い娘が飛んできた。

それは、飛ぶと表現するのが相応しい程の、物凄い勢いだった。

「気が付いたら無くなってて、あるとしたらここだと思って…!拾って頂いて、本当にありがとうございました…!」

勢いよく頭を下げられ、蓮一郎は掌のお守りと目の前の娘を思わず見比べてしまう。

「これ…君の?」
「はい!大事な、預かりものなんです。よかった、割れてない…!」

吐息と共にそう言った彼女がお守りから取り出したものは、十年ぶりに見る、あの色を変える石で。

目の前に風のように現れたのが、お京だったのだ。

一目見て蓮一郎がお京と分かるほど、彼女は幼い頃の面影を色濃く残しつつ成長していた。

予想外の再会だったが、それが切っ掛けで、蓮一郎とお京は親しく言葉を交わす間柄となった。

再会したお京は、驚くほど純真なまま若い娘へと成長していたのだ。

少しのことにも真っ赤になるお京を見ていると、余計料亭などの酔客を相手にする場所にいることが心配になってしまう。

手馴れた年嵩の女中のようにお京が酔っ払いの色めいたからかいをあしらえるわけがなく…


今夜と同じように手伝いとして店に出てきていた彼女が、窮地に立たされ困り切っているところに運よく出くわし、その場から助け出したことも一度や二度ではなかった。

…だから思わず、酔った振りをしてまで自分の傍にいるよう仕向けてしまうのだ。

そんな嘘にも気付かず、あっさり信じて本気で心配するお京を思うと、微笑ましく思うと同時に、気持ちが重くなる。

…もし、悪心を持った他所の男が同じ手を使ったらどうなるのか…

想像して頭が痛くなってきた蓮一郎は、やれやれと溜息を零す。

「若旦那、どうですか?あちらの座敷のお膳を見てきたら、殆ど箸がつけてありませんでしたよ。何も食べないでお酒飲んじゃ、ダメです。ご気分は如何です?」
「うーん…手の焼ける妹が出来た気分、かな…」
「え?妹って…何のことですか?」

戻って来るなりあれこれと世話を焼き始めたお京が、思わず口にしたそんな言葉にきょとんとした顔をする。


その顔を見つめながら、蓮一郎は苦笑を漏らした。


≪六に続きます≫


妹とか言い出しましたよ、若旦那ったら…

なかなか素直にならないのが、敦賀さんのよくない点ですね?


それでは、また♪