*SIDE キョーコ*

「随分大きくなったわねえ、あんたのお腹!何だか、今にもはち切れちゃいそう」
「もー、モー子さんたら怖いこと言わないで。お腹の中で赤ちゃんが順調に育ってる証拠なんだから、いいことなのよ」

風が冷たくなり、冬の匂いがし始めた11月の半ば。

ここはヒズリ家の広いテラス。
ぴっちりと閉められた窓からは暖かな日の光が降り注ぎ、午前中から夕方にかけてのこの時間、ひなたぼっこに最適の場所になっていた。
そんな温室みたいな温かなこの場所が、最近の私の、一番のお気に入りの場所になっていたの。

過保護なご主人様2人が大騒ぎをして用意してくれたふわふわのお布団の上で、たくさんのクッションに埋もれる形で私は今、横になっていた。

すっかり大きくなってきた私のお腹は、確かにちょっと風船みたいで、突いたら今にもぱちんと弾けてしまいそう。

最近ではお腹が重くて、前みたいに思うようには動けなくなってきているの。
ここ2・3日は、起きているよりも、横になっている時間のほうが多くなってきた気がするわ。

寝返りを打つのも大変だなんて、こういう身体になってみなくては分からないことだったわね。

そんな私の顔を、遊びに来てくれたモー子さんが繁々と覗き込む。
11月の冬の日差しがモー子さんの滑らかなブルーグレ-の被毛に降り注いで、とっても温かそう。

「ついこの間まで自分の家の庭で迷子になってべそをかいてた子が、もうお母さんだなんて…凄く不思議な話だわ」
「それも言っちゃイヤよ、モー子さん…生まれて来る赤ちゃんには、内緒にしてね」
「それはどうしようかしらね?そう言えば予定日はいつだった?もうそろそろよね、このお腹の調子じゃ」

くすりと笑うモー子さんに「モー子さんの意地悪…」と拗ねた顔を見せてから、私は幸せな気持ちにとらわれ堪らず笑みを零した。

「予定日は、もうすぐなの。初産だから少し遅れるかもってお医者様が仰ってたけど、一週間後の今頃には、赤ちゃんの顔を見られているはずだわ。物凄く待ち遠しいの!モー子さんも、赤ちゃん達に会いに来てあげてね!」
「はいはい。子供があんたを真似て、私を変なあだ名で呼ぶようにならないことを願うわ。何人生まれる予定なの?」
「3人ですって。クーパパとクオンさんは名前を考えるのに忙しいし、ジュリエナママは赤ちゃん達のお洋服選びに大忙しなのよ」

まだ男の子と女の子がそれぞれ何人生まれるか分からない状況なのに、我が家は赤ちゃんが生まれる前からそれはもう大騒ぎなの。

生まれてくる赤ちゃん用の品々が毎日のように家へと運び込まれていて、もう家中が、彼らか彼女達を待ちわびて大変だった。

「あら、そう言えばクオンさんは?いつもあんたにべったりなのに」
「ふふ、今日は運動不足になっちゃいけないって、クーパパに無理矢理お散歩に連れて行かれちゃったの。私も行きたかったんだけど、お腹が重くて。出産が終わったらまた一緒に行くことにするわ」

妊婦にも適度な運動は必要だと言われたので大好きなお散歩はこれまで通り続けるつもりだったのだけど、心配性の旦那様とご主人様達に止められてしまって、仕方なく私はお庭の中をのんびり歩くことを運動に変えていたの。

勿論クオンさんは傍にいてくれるし、モー子さんも朝から塀を越えて遊びに来てくれて、私は大好きな2人に囲まれてとっても幸せな時間を過ごせていたわ。

それにヤシロさんや、エリさんにイツミさん、チオリさんにヒカルさん達も度々遊びに来てくれるので、寂しい思いをすることもなかった。

「3人、ねえ。どっちに似た子が生まれるのかしら。焦げ茶色の子?薄茶色の子?」
「そう、それで最近、クオンさんと私はちょっと揉めてるのよ…!」

モー子さんの呟きに私はぐぐっと眉間に皺を寄せる。
そんな私にモー子さんは瞳を瞬かせて。

「何よ、あんた達が喧嘩なんて珍しいじゃない。寄ると触ると、常にどこでもいちゃいちゃしてる夫婦の癖に」
「そ、そんなこと、してないもん」
「してるわよ。で、何が原因?子供の色について?」
「それもあるけど、どっちに顔が似るかについてが一番問題なの…!私は女の子でも男の子でも、クオンさんに似た子が生まれるといいのにって言うのに、クオンさんたら、絶対に私に似た子がいいって譲らないのよ…っクオンさん似の子供を生むのは、妻の私の最優先の義務だって思うのに!」

あの美しさを後世に残さないのは間違いなく世の損失だと思うのに、クオンさんたら「キョーコに似た子の方が絶対に可愛い」なんて真顔で言い張るの。

どっちも意見を譲らないから、話は平行線を辿ってしまっていて。

「…意外と頑固なんだから、クオンさんたら…」

本人にそう言うと、「キョーコこそ、意外と頑固者だと思うよ」と返されてしまうのだけど。

そう、私がぶつぶつと文句を言っていると。