「おめでとうございます、おめでたですね。この分だと、あと2ヶ月弱で赤ちゃんが生まれてきますよ。そちらのお宅も、騒がしくなりますね」

今丁度その時期なんですよ、と何でもないことのように言った獣医を、クー父さんもジュリエナ母さんもぽかんと見つめて。

それを聞いた俺は弾かれたように顔を上げ、キョーコちゃんのいる診察台に慌てて飛び乗った。

そこでは、キョーコちゃんも呆然とした顔をしていて。

「キョーコちゃん!」
「クオンさん…わ、私、病気じゃなくて…赤ちゃんが…!?」
「そうだ、俺達の子供だよ!凄い、なんてことだ、ありがとうキョーコちゃん!」

今までの悲嘆が嘘のように弾けて、俺は歓喜の気持ちに身を振るわせた。

愛しい彼女をぎゅうっと抱き締めると、大人になって綺麗になっても変わらない、相変わらず大きくて愛らしい瞳から涙がぽろりと零れた。

「私に、あなたの赤ちゃんがいるなんて…どうしよう、凄く嬉しい…っ」
「愛してるよ、キョーコちゃん…!困ったな、幸せ過ぎてうまく言葉に出来ないよ…!」

頬に、瞼に唇を寄せ、零れた涙を舐め取ると、気持ちが弛んだのかキョーコちゃんの顔が大きく歪んで。

「よ、よかった…わ、私、病気で死んじゃうんじゃないかと思ったの…あなたと、離れることになるんだって…それが、一番怖くて…」

よかったと言って、キョーコちゃんはそのまま子供みたいに泣きじゃくり始めた。

俺もキョーコちゃんも子供が出来る経験なんて初めてで、病気だと思って、すっかり気が動転してしまっていた。

俺が感じてた不安を、キョーコちゃんも感じていたのだ。

そんな彼女が愛しくて、俺はもう、どうしようもなくて。

「キョーコ…ずっと傍にいるよ。離れたりしない、ずっとずっと、一緒だよ。愛してる、愛してるよ…」
「はい、私も…私も、あなたを愛してます。ずっと、離さないで…大好きなの」

そして、引き合うように唇を重ね、額を合わせたまま目線を交わして微笑み合って。

「相変わらず泣き虫だね、君は」
「だって…本当に怖かったの…」
「うん、分かってる」

俺はキョーコの瞳から零れ落ちる涙を舐め取りながら、彼女を抱えるようにして診察台に座り込む。

今日からは、彼女だけでなくお腹の赤ちゃんも守って行かなくては。

そう思い決めた俺の前で、飼い主の2人は今だ混乱気味だった。

「ほ、本当に!?でも、まだ、この子はこんなに小さくて…赤ちゃんなんて!」
「赤ちゃんて、本当なんですか先生!妊娠のように見える怖い病気じゃないんですね!?」

詰め寄る2人に驚いた顔をした獣医は、

「確かにこのお母さんは小さいですけど、もう立派な成犬ですよ。ペアで一緒に飼っていて、ちゃんと盛りもきてたでしょう?妊娠に、間違いないですよ」

目を瞬かせながら、太鼓判を押してくれた。

お互いを見詰め合った2人は、次いで俺を見て。

「クオン…」
「…あなた、いつの間に…」

驚いた顔で見つめられて、俺は少し照れ臭い思いを味わった。