「キョーコちゃんは私の手料理は初めてね?まだまだたくさんあるから、ゆっくり食べてちょうだい。今もキッチンで焼いてるの。キョーコちゃんの大好物だから、ママたくさん焼いたのよ?」

きゃーっ!!!

ど、どうしたらいいの?
これ以上クオンさんに無理はさせられないわ、こうなったら、私が責任を持って全部食べなくちゃ…!!

そう、思い決めた時。

「ジュリ!!この甘い匂いはどうしたことだ!?」

玄関から、ここ何日かお仕事でお家にいなかったクーパパが強張った顔でリビングに走り込んで来た。

「パっ、パパ…!!」

パパはとっても頼りがいのある人だけど、この時ほど帰って来てくれたことに歓喜したことはなかったかもしれない。

私はお皿の上にある残りのクッキーをクオンさんに食べられないように口に銜えてパパの元に走り寄る。

「ああっ、キョーコ、君は無事か!?クオンは…よかった、元気そうだな!これは、クッキー?」

私と、私を追って来たクオンさんを抱きかかえたクーパパは、私の持ってきたクッキーを一口齧って…うーんと唸る。

「あら、あなたお帰りなさい。聞いて、私、今日はクッキーを焼いたのよ!クオンとキョーコちゃん用だから味はないけど、とっても美味しく出来たわ」

クーパパに歩み寄って頬にちゅっとキスするジュリエナママは、大輪のお花みたいに微笑んで。
こんな、恐ろしいクッキーを焼くようには、とてもじゃないけど見えなかった。

「ママ、美味しいって…食べたのかしら…?」
「母さん、どうも味音痴みたいなんだ」

こそこそと会話をする私とクオンさんを遠ざけるようにソファーに下ろしたクーパパは、ジュリエナママに向き直って。

「ジュリ、君はなんて家庭的で素晴らしい妻なんだろうか!こんな妻を持てたわたしは幸せ者だ、神に感謝をしなくてはね」
「まあ、そんな…あなたったら、それはいくらなんでも、言い過ぎだわ」
「そんなことはない、これくらいの賛辞では君には足りないくらいだよ!だけど、1人で料理をするのは控えて欲しいな。この真っ白な指に万が一にも傷を負ったりしたら、傍にいられず君を守れなかったわたしは後悔してもしたりない。跡など残った日には、世界の損失だよ!わたしを安心させるために、料理はシェフに任せて欲しい。それか、わたしと一緒に。ね?約束しておくれ」

そう言ったパパは、ママの指先を手に取って愛おしむみたいに唇を寄せて、次いで手にしていたお皿をひょいと取り上げる。

「あなた、それはクオンとキョーコちゃんのクッキーよ!どうするの?」
「あの子達はもう十分食べたそうだよ、あとは全部わたしのものだ。愛しい者の手料理をあの子達だけに独り占めにはさせられないからね」
「もう、あなたったら!そういう子供みたいなことを時々するんだから!」

笑顔のママの、ほっそりとしたウエストを抱き締めたパパは、キッチンに去り際、私達に向けてぱちりとウインクをして見せて。

残された私は安堵感からほうっと大きな息を吐いてしまう。

「…パパって、凄いわ…」
「うん、年季が違う」

そんな、感心したように言うクオンさんを見た私は頬を膨らませて。

「でも、あなたがそれを真似するのには反対です!あ、あなたに何かあったら、私、生きていけないわ…!」
「キョーコちゃん…ごめん、軽率だったよ。泣かないで」
「だって」

ほっとしたら涙が浮かんで来てしまった。

ああ、なんてこと。

あんなに綺麗で優しい素敵なママなのに、唯一で最大の弱点が、これほどまでに恐ろしいものだったなんて…!

このままではいけないわ!
今の生活を続けていたら、私の大事な旦那様が確実に病気になってしまう。

あの味を平気で食べられてしまう今だって、十分に問題だわ。

こういうのって何て呼ぶのかしら…

味覚異常…?

考えてみたら、クオンさんてあんまり食べることにも興味がないみたい。
お店の美味しいクッキーでさえ、私の食べる姿が可愛いとか、早く大きくなって貰いたいとか言って、私に分けてくれたりするのよ!

これまでクオンさんに甘えてそのままにしていたけど、これじゃいけないわ。

それに、ママには申し訳ないけれど、もしもまた手料理を出されてしまった時の対策を練らなくては。

パパがいない時、クオンさんを守れるのは、この私だけなのだから。

本当に、今日のパパには感謝をしてもしたりないわ。

…だから。

いつも素敵なパパがキッチンから出てきた後。
背中を丸めてこっそり胃薬を飲んでいたことは、誰にも内緒にしておこうと思うの。

ちょっと…と言うか…かなり…

切ない光景、だったから。



DOG LIFE6≪対決編 または 似たもの親子編≫に続きます。

「パパ、パパ、本当に大丈夫…??」

「大丈夫だよ、キョーコ…ああでも、これはママには内緒だよ…?」


と言う、足元をおろおろと往復するキョコわんと、青い顔をするクーパパを思い浮かべて書いていたことを思い返しました♪


ジュリママの料理の威力が原作で発揮されるのが、怖いような楽しみなような…どちらにしても、ドキドキしてしまいますね…^^

敦賀さんはよくもまあ、何の問題もなくあそこまで大きくなれましたね~

クーパパの助けがあったお陰でしょうか。


次回は月曜公開です。


天使でも出ていた『名前のないあの彼』がまたも登場です★

なんだかんだと、彼にはいつもお世話になっておりますね、うちのお話は。


ではでは、また!