「あ…っ!お、おおお、おはよう、キョーコちゃん!!」
背後から若い男のそんな声がして。
頭上では、「あら、石橋さんの奥様、おはようございます」とジュリエナ母さんが華やかな声を上げる。
そっと顔を顰めた俺を他所に、キョーコちゃんはそんな挨拶に愛想よく返事を返す。
「おはようございます、ヒカルさん、ユウセイさん、シンイチさん!」
「おはよう、キョーコちゃん~ええ天気やな」
「おはよ、毎日あったこうて眠たくなる陽気やんな~」
やって来たのは3人の真っ黒なトイプードルの青年達。
彼らはなんと、キョーコちゃんと同じブリーダーの家から貰われて来た、彼女の以前からの知り合いなのだと言う。
「おはようございます、ヤシロさん、クオンさん」
礼儀正しくて好印象な彼らは、爽やかな笑顔で俺達にもきっちりとした挨拶を全員でしてくれる。
3人とも好青年だと俺も思う。
…けれど。
「キョ、キョーコちゃん、今日も可愛いね!リボンが、すごくよく似合ってるよ!」
「ありがとうございます、ヒカルさん。ふふ、お世辞でも嬉しいです」
「え!?いやいや、お世辞なんかじゃなくてね!?」
3人のリーダー格にあたるヒカルくんが赤い顔をしてキョーコちゃんに懸命に話しかけている。
問題は、この彼だ。
素晴らしく鈍感なキョーコちゃんは全く気付いていないけれど、明らかに、彼女に気がある様子なのだ。
キョーコちゃんは俺の奥さんなのに。
彼だってそれは分かっているはずなのだが、どうにも気持ちが抑えられないらしい。
その気持ちはよく分かる。
こんな可愛い女の子に恋をして、それを諦めようとしなくてはならないなんて、そんなことすぐには無理な話だと思う。
分かるけれど…
それとこれとは、話が別で。
「やあ。おはよう、石橋くん達。いつも俺の妻のキョーコを、気にかけてくれていてありがとう。これからもお友達として、キョーコと仲良くしてあげてね?」
キョーコちゃんを何気ない様子で引き寄せて、俺は満面の笑顔でそう言った。
隣でヤシロさんが「あ~あ」と天を仰ぎ、キョーコちゃんは「お、俺の妻って…」と嬉しそうに頬を染めて。
「あっいえ、その……こちらこそ……」
明らかな敬遠に途端にしょぼんとなった彼は、挨拶を終えた飼い主が散歩に向かうのに連れられて歩み去って行く。
「だからもう諦めろってゆうてるやん、いくら可愛くたってもー人妻なんやねんから」
「旦那はんがいてる女の子にコナかけるなんて明らかな間男やで、リーダー。ま、間にも入り込めてへんけどな」
「そっ、そんなの分かってるよ…っ!!」
そんな声が、立ち去る彼等から聞こえて来て。
2人に挟まれたヒカルくんは尻尾を下げて、いかにも寂しげな様子だ。
やりすぎたかなとも思うけど、こういうことはしっかりと釘を刺しておかなければ。
彼を見送る俺の隣でヤシロさんがやれやれと息を吐き、こちらを見てくる。
「気持ちは分かるけど…可哀想だぞ、彼。お前、露骨過ぎ」
「横恋慕なんてものを笑って見過ごせるほど俺は大人じゃないんですよ、ヤシロさん」
「? 何のお話ですか?クオンさん、ヤシロさん?」
「ん、何でもないよ?それよりもうすぐ家だね。冷たいミルクが待ってるよ、キョーコちゃん」
その言葉にころりと気を逸らされ、きゃーミルク!と瞳を輝かせるキョーコちゃんに、俺の頬は緩んでしまう。
ああ、俺の奥さんはなんて純真なんだろうか。
可愛くて、愛しくて。
叶うことなら今すぐ食べてしまいたい。
思わず本音が零れた俺は、慌てて気を引き締める。
危ない危ない。
散歩に纏わる本当の危険は、これからなのだ。
キョーコちゃんの可愛らしさに顔を緩めている場合じゃない。
石橋ヒカルくんは少々厄介な存在だけれど…彼は、俺の恋敵にはなり得ない。
キョーコちゃんの心はしっかり掴んでいるつもりだ。
申し訳ないけれど、彼ごときでは彼女の気持ちは一向に俺から離れないのだ。
俺の、最大の恋敵は。
背後から若い男のそんな声がして。
頭上では、「あら、石橋さんの奥様、おはようございます」とジュリエナ母さんが華やかな声を上げる。
そっと顔を顰めた俺を他所に、キョーコちゃんはそんな挨拶に愛想よく返事を返す。
「おはようございます、ヒカルさん、ユウセイさん、シンイチさん!」
「おはよう、キョーコちゃん~ええ天気やな」
「おはよ、毎日あったこうて眠たくなる陽気やんな~」
やって来たのは3人の真っ黒なトイプードルの青年達。
彼らはなんと、キョーコちゃんと同じブリーダーの家から貰われて来た、彼女の以前からの知り合いなのだと言う。
「おはようございます、ヤシロさん、クオンさん」
礼儀正しくて好印象な彼らは、爽やかな笑顔で俺達にもきっちりとした挨拶を全員でしてくれる。
3人とも好青年だと俺も思う。
…けれど。
「キョ、キョーコちゃん、今日も可愛いね!リボンが、すごくよく似合ってるよ!」
「ありがとうございます、ヒカルさん。ふふ、お世辞でも嬉しいです」
「え!?いやいや、お世辞なんかじゃなくてね!?」
3人のリーダー格にあたるヒカルくんが赤い顔をしてキョーコちゃんに懸命に話しかけている。
問題は、この彼だ。
素晴らしく鈍感なキョーコちゃんは全く気付いていないけれど、明らかに、彼女に気がある様子なのだ。
キョーコちゃんは俺の奥さんなのに。
彼だってそれは分かっているはずなのだが、どうにも気持ちが抑えられないらしい。
その気持ちはよく分かる。
こんな可愛い女の子に恋をして、それを諦めようとしなくてはならないなんて、そんなことすぐには無理な話だと思う。
分かるけれど…
それとこれとは、話が別で。
「やあ。おはよう、石橋くん達。いつも俺の妻のキョーコを、気にかけてくれていてありがとう。これからもお友達として、キョーコと仲良くしてあげてね?」
キョーコちゃんを何気ない様子で引き寄せて、俺は満面の笑顔でそう言った。
隣でヤシロさんが「あ~あ」と天を仰ぎ、キョーコちゃんは「お、俺の妻って…」と嬉しそうに頬を染めて。
「あっいえ、その……こちらこそ……」
明らかな敬遠に途端にしょぼんとなった彼は、挨拶を終えた飼い主が散歩に向かうのに連れられて歩み去って行く。
「だからもう諦めろってゆうてるやん、いくら可愛くたってもー人妻なんやねんから」
「旦那はんがいてる女の子にコナかけるなんて明らかな間男やで、リーダー。ま、間にも入り込めてへんけどな」
「そっ、そんなの分かってるよ…っ!!」
そんな声が、立ち去る彼等から聞こえて来て。
2人に挟まれたヒカルくんは尻尾を下げて、いかにも寂しげな様子だ。
やりすぎたかなとも思うけど、こういうことはしっかりと釘を刺しておかなければ。
彼を見送る俺の隣でヤシロさんがやれやれと息を吐き、こちらを見てくる。
「気持ちは分かるけど…可哀想だぞ、彼。お前、露骨過ぎ」
「横恋慕なんてものを笑って見過ごせるほど俺は大人じゃないんですよ、ヤシロさん」
「? 何のお話ですか?クオンさん、ヤシロさん?」
「ん、何でもないよ?それよりもうすぐ家だね。冷たいミルクが待ってるよ、キョーコちゃん」
その言葉にころりと気を逸らされ、きゃーミルク!と瞳を輝かせるキョーコちゃんに、俺の頬は緩んでしまう。
ああ、俺の奥さんはなんて純真なんだろうか。
可愛くて、愛しくて。
叶うことなら今すぐ食べてしまいたい。
思わず本音が零れた俺は、慌てて気を引き締める。
危ない危ない。
散歩に纏わる本当の危険は、これからなのだ。
キョーコちゃんの可愛らしさに顔を緩めている場合じゃない。
石橋ヒカルくんは少々厄介な存在だけれど…彼は、俺の恋敵にはなり得ない。
キョーコちゃんの心はしっかり掴んでいるつもりだ。
申し訳ないけれど、彼ごときでは彼女の気持ちは一向に俺から離れないのだ。
俺の、最大の恋敵は。