騒ぎに戸惑うお見合い相手の飼い主に、
「あら…残念ですわね。お宅のわんちゃんとこちらのお嬢さん、相性があんまり良くないみたい。飼い主の立場からすると、やっぱり、お嫁さんは本人の気に入った子を貰いたいですわよね?」
気遣わしげな表情でそう言って近付き、いつの間にか飼い主に「そうよね、あの子が今追いかけてる子を頂けるか聞いてみようかしら…」とその気にさせ、
「先住のわんちゃんと娶わせる場合はお見合いが必須なんです、それにこの子は人気のカラーだから、急にすぐと言うわけには」
と言うブリーダーさんの家で働く従業員に、
「死んだ娘にそっくりなの、きっとこの子はあの子の生まれ変わりだわ…!これは、神様が泣き暮らしている私に与えて下さった奇跡よ。この子を今連れて帰らなくてはもう二度と会うことが出来ないわ…ああ、私はまた娘と別れる苦しみを味合わなくてはいけないの…?」
と泣き崩れて従業員の貰い泣きまで誘い、そのままブリーダーさん本人を交渉の場にまで引き込んで。
最後は、華やかな満面の笑顔で男性のブリーダーさんを虜にしてしまったのだ。
女神の言いなりになった彼は私の売買契約書をふらふらとした足取りで持って来て、ジュリエナママのサインを受け付けてしまった。
勿論、死んだ娘なんていないそうだ。
ジュリエナママは女優さんなんだそう。
女優さんて凄いのねと、私はそんな彼女の変わり身を見せられ呆然としてしまった。
「本当は、クオンのお嫁さんを探す下見のつもりで来たのだけど…あなたに一目惚れしてしまったの。クオンもきっとあなたの可愛らしさに夢中になるわ」
ジュリエナママは予言のようにそんなことを言う。
本当かしらと、私は思わず不安になってしまう。
お見合い相手に見向きもされなかった私が奥さんなんて、クオンさんは本当にいいのかしら…?
そんな、一抹の不安を抱えながら…私はヒズリ家へ引き取られることとなったのだ。
そして。
2人のお家に連れ帰られた私は、そこで運命の出会いをしたのだった。
「俺はクオン。こちらこそよろしくね、キョーコちゃん。大事に、大切にするよ…俺の奥さん」
噂のクオンさんは、時折煌びやかな金色にも見える薄茶の毛並みを持った、美貌の男の人だった。
そんな風に言った彼は、私の頬をぺろりと舐めて、ふわりと優しく微笑んだのだ。
艶々の真っ黒な瞳が私を真っ直ぐに見つめていて。
…おっ、男の人に初めてちゅーされてしまったわ…っ!!
驚いた私は瞳をまん丸くして、そのまま顔を真っ赤にしてしまう。
ああ、でも私はクオンさんの奥さんになるんだから、こういうことは普通のことよね!?
お、落ち着くのよ、私…っ!!
そう思うのに、クオンさんは今度は私の鼻先に、するりと自分の鼻先を擦り寄せて。
きゃーっ!!お、お顔が近いわ…っ
私は恥ずかくて照れ臭くて、思わず身を竦めたけど…
その感触は酷く優しいもので。
「ふふ、くすぐったいです」
とても大事にされていることが分かる仕草に、私は嬉しくて、思わずそう言って笑みを溢してしまった。
私からも何かお返しがしたかった。
そう思ったけれど、言葉になんてとても出来ないから…
せめて行動で示したくて、私はお返しのようにクオンさんの鼻先にちょこんと鼻先をくっつけた。
こんなことを男の人に私からするなんて破廉恥かしら…?
おずおずと見上げると、クオンさんは見蕩れるくらいに華やかな笑顔を私に浮かべて見せて。
それは、私の心を鷲掴みにする止めの笑顔だった。
胸がきゅうっと甘い痛みを覚えて、驚いた私は瞳を瞬かせる。
何、これ…
これが、話に聞く恋と言うものなのかしら…?
子供の私には、それがまだよく分からない。
けれど、胸が勝手にドキドキと高鳴って。
傍に寄り添ってくれた彼にまで、それを聞かれてしまいそうでとても怖かった。
凛々しい瞳も、穏やかな声も、緊張気味の私を気遣ってくれる優しいところも。
みんなみんな素敵で、格好よくて…
まるで、童話の中の王子様みたい。
彼は私を『奥さん』なんて呼んでくれたけど…
私みたいな子供、彼にちゃんと見合うのかしら?
そんな不安を覚えるほど、彼は眩いくらいに美しい人だった。
こうして、私の新しい生活は、優しいパパとママ、そして緊張するほど素敵な旦那様に囲まれて始まった。
そこで私は、幸せ過ぎて困ると言う経験を生まれて初めてしたのだった。
DOG LIFE3≪結婚式編≫へ続きます。
ママ大活躍の回。
うちに出てくるジュリエナママは、なんでか毎回キョコを名前の出てこない誰かから奪還している気がします…何故だろう?
ジュリエナママはまだ登場前ですが、実際はどんな方なんでしょうね?愛情深い、素敵なママだといいなあと期待しつつ書いていました。
パパママ大好きなんですが、2人が出てくると途端に敦賀さんが形勢不利になるので抑え気味にしています^^
スキビは年長世代が全員パワフルですねえ。
ではでは、また★