唇の薄い皮膚が伝える柔らかで温かな感触がくすぐったいのか、キョーコはくちづけを交わしながら小さく肩を竦めて見せる。

そして、蓮の瞳を覗き込みながらふふっと笑ったキョーコは、

「…もっと、キスして下さい、敦賀さん…さっきは、ほんの少し、だけだったから…」

その唇をちゅっ…と可愛く吸い上げ、そう囁いてきた。

室内から漏れた明かりに照らし出されたキョーコは、白い頬を薔薇色に染めていて酷く艶めかしい。

その色っぽさも、可愛いお強請りも、蓮をあっという間にキョーコへと夢中にさせてくれて…

「うん、最上さん…いくらでも」

互いの唇に吐息がかかる近い距離で囁き合った2人は、更に顔を寄せ合い、どんどんくちづけを深めていった。

擦り寄るように抱き付いてくるキョーコが愛しくて堪らない。
そして、知ってしまったキョーコの柔らかな唇は、蓮に次を次をと求めさせた。

けれど、そのまま唇を吸い合い、互いの舌を探って絡め合う段階になって…

「…あっ、いけない…!」

不意に小さく声を上げたキョーコは、目を丸くして身を離してしまう。
同時に唇も一緒に離れて行ってしまい、それが不満だった蓮はキョーコを下から覗き込む。

「…何?キスは、もうお終い…?」

たった今始まったばかりだ、それは勘弁して頂きたい。

そう思い、更に追い掛けその唇に誘うようなくちづけを繰り返すと、頬を真っ赤にしたキョーコが身体をもじもじとさせて。

「…えっと、でも、その…上に乗ったらダメだって…この間敦賀さん、言いましたよね…?」

いきなりそう言われ、蓮は漸く、今のキョーコが自分の膝の上に座り込んでいるような状態になっていたことに気が付いた。

そう言えば、そんなことを言った記憶が確かにある。

けれどそれは、自分の気持ちが叶うものではないと思っていた時の話だ。
2人の関係が動いた今、その台詞はもう完全に無効のものだった。

それなのに。

「やっぱり、こういう体勢って、いけないことなんですよね?本当は…もうちょっと、こうしてくっついていたいんですけど」

…そんなことをおずおずと赤い顔で言ってくるキョーコに、蓮は表情を更に大きく緩めてしまう。

この子は、俺をどれだけ嬉しくさせたら気が済むのだろうか?
これ以上、無意識に可愛いことばかりを言われては、もう堪らえられそうにない。

苦笑気味にそう思った蓮は、そっと瞳を細める。


そして、今にも膝から降りようとするキョーコの腰を抱え込む。

「最上さん…その約束は、もう忘れていいよ。その代わり、新しい約束をして?」
「新しい約束…?」

また近くなった距離に頬を染めるキョーコを抱き締め、その耳元に唇を寄せる。

「今夜から、俺の寝室で一緒に眠ろう?ゲストルームには、もう帰さないよ」

そう囁くように言って瞳を覗き込むと、目を丸くしたキョーコは、その意味をちゃんと察したのか更に頬を赤く染め…

そのまま一気にその表情を綻ばせて。

「…はい…っ!よろしくお願いします、敦賀さん…!」

蓮の首筋に飛びつくみたいに抱き付いてきて、そんな返事を返してくれた。

もうちょっと色っぽい雰囲気があってもいいんじゃないかと思うところもあるけれど…

こんな反応こそ、いかにもキョーコらしくて可愛らしい。

相変わらずの変に生真面目な性格も、予想の裏を行く思考回路も、そして、愛すべきその無邪気な様子も。


全てが蓮の心に、幸福感を伴う愛おしさを込み上げさせた。

そんな彼女が傍にいる日々が、これからずっと、毎日続いていくのだ。

想像もつかないその幸せな様子に、蓮はキョーコに負けないくらいに表情を綻ばせると、

「こちらこそよろしく、最上さん…」

その艶々の頬を両手で抱えて引き寄せて、もう一度その唇にくちづけた。


そして、額にも頬にも唇を押し当てながらその細い身体を抱え上げると、蓮の寝室の奥へと、2人一緒に消えていった。



幸運にも手に入れられた、最大級の幸せをゆっくりと噛み締めながら…