「…も、最上さん…詳しく説明して貰いたいんだけど、とにかく、その、ど、どうして急に…?」


堪らず動揺を言葉に表す蓮に、エプロン姿のキョーコはにっこりと微笑む。


「結婚の話は以前からあったんです。前にお話しましたよね?私、両親の知人の家でお世話になっていたってこと」
「ああ、それは聞いていたけど…」


彼女には、天界に家族と言える身寄りが1人もいないのだという。
その為、キューピッドになり自活するようになるまで、キョーコは引き取ってくれた養い親の元で成長したのだそうだ。


そんな人々に感謝をしていることや大好きな親友が天界にいること、そして天使課での仕事内容などを、蓮はキョーコからこの生活の中で、いろいろと聞かされて来ていた。


「そこのご夫婦には私と同い年の息子がいるんですけど、お2人からずっと『息子の嫁に』って言われていたんです。最初は乗り気じゃなかったんですけど、ここに来て気持ちが変わりました。誰かを想って、その誰かと一緒にいられる幸せは素晴らしいものだなって。だからです」
「だからですって…その、結婚相手は?その相手のことを、君は、好きなの…?その理由じゃ、一番大事な気持ちが蔑ろにされている気がするけど…?」


どうにか思い留まらせたい。


そう考えた蓮は、そんな問題点を縋るような気持ちで問い掛けたのだけど…


「や、やだ、敦賀さんたら!勿論、気持ちがあるからこそ結婚しようって思ったんですよ!?お相手の方は、とってもかっこいいんです!小さい頃から一緒だからお互いのことはよく分かってますし、絶対に幸せになれます!!」


キョーコはダイニングテーブルの対面から身を乗り出すようにして力説してきた。


満面の笑顔で、拳を力を込めるようにして握り締めて。


「だから敦賀さんも、気合を入れて3つ目の願い事を探しましょうね!最後こそ、ご自分の為に願い事を使うんですよっそれで、2人とも幸せになりましょう!」


『2人とも幸せになる』


その言葉は『2人とも、それぞれで、幸せになる』と言う意味だ。
決して…『2人一緒に幸せになる』意思は、含まれていない。


…キョーコは本気で結婚しようと考え、その相手のことを好きだと思っている。


強い衝撃を持ったキョーコの言葉に固まってしまった蓮は、何も言えずにただ彼女の顔を呆然と眺めていることしかできなかった。


そしてそのタイミングで洗濯機のアラーム音が響き、弾かれたように立ち上がったキョーコが「ちょっとお洗濯物干してきますねっ」と席を外していく。


見たこともないキョーコの『結婚相手』に強い敗北感を覚えた蓮は、そのことにばかり意識を奪われてしまって…


テラスに出たキョーコが洗濯を干すにしては長い時間自分の元に帰ってこなかったことに、気付くことができなかった。



≪38へ続きます≫


斜めの方向に突き進む天使キョコと、それに振り回されて大変な敦賀さん。


この本館での毎日更新のシリーズには、毎回名前の出てこないあの人が登場してきます^^

うん、彼は嫌いじゃないけど、名前を出してキャラとして動かすほどでもないんですよねえ…残念ながら。

でもいいポジションにいるので存在だけお借りします♪


敦賀さんは自分のペースを取り戻して、攻めの姿勢になれるのか?

キョコの真意は?


続きは明日です。

お付き合い下さいませ!


ではでは。