猫の子みたいに持ち上げられたキョーコは、蓮へと不満げに頬を膨らませる。


「でも、お仕事に遅れたら大変でしょう?それに今日はいつもより特別なんです、外はとってもいい天気なんですよ。冬場の暖かい時間は限られているんです、お布団が干せる時間は短いんですから。敦賀さんも、せっかくのいいお天気なんですから温かいお布団で眠りたいでしょう?」
「問題はそこじゃないから。論点が激しくずれてるよ」
「論点?温かいお布団より大事なことって、ありますか?」
「それはもう、いろいろとあるよね?」
「ありません、私の一番は敦賀さんとお布団ですもん」


すると、愕然としたような顔をした蓮が、いきなりがくりと布団の上に手を付いてしまって…


「………最上さん、君って子は………」


そしてそう言うなり、そのまま黙り込んでしまった。   


「?」


どうしたのかしら?
病気とかじゃないわよね、さっきまであんなに元気だったもの。


キョーコは少々心配に思ったけれど、これを幸いにと、蓮の布団を剥ぎにかかる。


「ほらほら、敦賀さん!起きたんならベッドから降りて下さい、お布団干させて下さい!」


朝からフル回転のキョーコにとうとうベッドから追い立てられた蓮は、暖房の効いた寝室でやれやれと肩を竦め、広いベッドの上で特注サイズの布団と格闘しているキョーコを手伝ってくれつつ、困り気味に言葉を漏らす。


「…最上さん…若い女の子が男の寝室に朝から押しかけて起こしにくるって言うのは、本当にどうかと思うよ…」


そんな台詞にキョーコは首を傾ける。


「でも、いつものことですよね?」
「だからこそ、もっとどうかと思うんだよ」


複雑な顔をしている蓮にそのまま布団をテラスに運んで貰い、


「それより敦賀さん。シャワーを浴びて来て下さい、その間に朝ごはんのご用意しておきますから。今日は卵、どうします?」
「ああ…じゃ、オムレツで」
「分かりました!ほら敦賀さん、難しい顔してないで、お風呂お風呂。気分をすっきりさせて、今日こそ素敵な女性か願い事を見つけましょうね!運命のお相手に会えるかも知れませんよっ」
「…だから、そんな女性も願い事も、もう探さなくていいんだって…」
「いいえ、探しますよ!こういうのは敦賀さんのお気持ち次第なんです。何事も前向きに考えなくちゃ、見つかるものも見つかりませんよっ」


何故か深い溜息を漏らす彼に発破をかけて浴室に送り出し、キョーコは朝ごはんを手早く準備する。


今朝の朝食はローストビーフのサンドイッチにじゃがいものポタージュスープ、卵料理に温野菜のサラダ、ヨーグルトのブルーベリーソースがけだ。


あまり食の旺盛な質ではない蓮に合わせて、量は少なめ、種類は大目を心掛けた朝食だ。


朝食は1日を始める大切な活力源だし、美味しいものを美味しいと思える機会をたくさん作って、蓮にはちゃんと、味覚を正常値に戻して貰わなければならない。


キョーコの『敦賀蓮食育計画』は、今も静かに続行中だ。