*SIDEキョーコ*
「敦賀さん、起きて下さい!朝です、お仕事に遅れちゃいますよ!」
1月の朝、時刻は7時。
キョーコは蓮の寝室に乗り込み、閉められたカーテンを大きく開けてそう声を掛けた。
ベッドの中の蓮はそんな窓から差し込む朝日を受けて、寝返りを返すと顔を枕に埋めてしまう。
「ん…まだ、大丈夫…もう少し…」
「そんなダメですって、規則正しい生活こそが健康の元なんですから。ほらほら敦賀さん、起きて下さい、お仕事の時間ですよ」
「…あと5分…」
「もー敦賀さんたら、朝寝は堕落の第一歩ですよーっ」
羽毛布団に包まったまま返事をする蓮は、まだまだ夢の中にいるようだ。
キョーコはそんな蓮を布団の上から揺り起こす。
蓮は昨夜、深夜遅くまで仕事に追われていたのだ。
キョーコは『何時に終わるか分からないから先に寝てて』と蓮に言われ、そんな仕事の現場から早々に帰らされてしまっていた。
彼が自宅に帰って来たのは朝方近かったかと思う。
本当ならばもう少し寝かせておいてあげたいのだが、今日の仕事の時間が迫っているのだ。
心を鬼にしたキョーコは、ベッドに膝を乗せて…
「起きて下さい、敦賀さん!お仕事の時間です、それに、今日はとってもいいお天気なんですよ!お布団を干させて下さい」
布団に包まる蓮の上に跨るようにして顔を覗き込み、耳元でそう声を掛けた。
今日の陽気は、真冬だというのにとても温かい。
風は少し冷たいが、降り注ぐ日差しは穏やかだった。
絶好の、洗濯日和だ。
今日のキョーコの優先事項は、蓮を仕事に送り出すことの次に、あらゆる洗濯物を天日に干すことが続いていた。
乾燥機も便利だけれど、やっぱりお日様の光には敵わない。
「ねえ、敦賀さんたら、おーきーてー!」
そうして、何度か蓮を揺さ振っていたら。
覗き込んでいた蓮の寝顔が僅かに顰められ、頬に影を落とす長い睫毛が小さく震え、ぼんやりと開かれた切れ長の瞳が焦点を結んで…
そして、大きく見開かれた。
「…もっ、最上さん…!!?」
「きゃっ、わわ…っ!」
蓮がいきなり飛び起きて、その上に乗り掛かっていたキョーコはバランスを崩し、背後にころんと転がってしまいそうになる。
それを更に驚いた顔をした蓮が慌てて支えて事なきを得たが…
キョーコを膝の上に乗せ、向き合った体勢で腰を抱え込むような状態になってしまって。
「…ッ…!!」
更に更に瞳を見開いた蓮は、ぱっと手を離して両手を顔の両側に掲げるようにする。
蓮の膝の上でバランスを取ったキョーコは、パジャマ姿の彼の膝に手を付いて、
「おはようございます、敦賀さん!」
顔を覗き込んで、そう挨拶をした。
すると途端に蓮の顔が一気に赤くなって…
キョーコはそんな顔をきょとんと見つめてしまう。
「敦賀さん、どうしました?」
「…最上さん…!!どうしたじゃないだろう、寝室には立ち入り禁止って、いつもあれだけ言ってるだろう…!?」
「ええっ、だって敦賀さん、ドアをノックしても起きてくれないんですもの!」
「それでも入っちゃダメ!それに、俺の上に乗るのも禁止!」
そう言った蓮はキョーコの手を自分の上からどかすと、軽々とベッド脇にキョーコの身を降ろしてしまう。