そう考えた蓮はそこで、ああ、そうなのか…と不意に思い至る。



自分は、キョーコが好きなのだ。



そんなシンプルな自覚がすとんと心に落ちてきて。
そのままそこに居場所を見つけ、蓮の中で当然のことのように綺麗に納まった。


心に積もる温かな感情と、掌の中にある柔らかで確かな存在感に。

蓮は、自分の感情を無理矢理にも自覚させられてしまったのだ。


キョーコは人懐こい無邪気な猫のようで、可愛い妹のようでもあるけれど、もう、それだけの存在ではなくなっていた。


彼女は日々の生活の中で、徐々に蓮の意識を大きく占めていくようになって…

いつの間にか、蓮にとって大事で大切な、特別な存在となっていたのだ。



この手を離したくない。


彼女を、自分の傍から放したくない。



…自覚した途端、火がついたように熱い感情が心に浮かび、胸をじりじりと焦がしていった。


キョーコが探している『他の誰か』なんて、初めから探す必要なんてなかったのだ。

人生を共に過ごしたいのも、抱き締めたいと思うのも、そして、くちづけを送りたいと思うのも。


隣にいる、彼女本人以外いないのだから。


無意識のうちにキョーコの掌をぎゅっと握り締めると、漸く自分の行為に気がついたのか、キョーコはぱあっと頬を染めて蓮の腕に縋るようにしていた片手を慌てた様子で離してしまう。


手を繋いでいなければそのままどこかに飛んでいきそうな勢いだったが、自分の気持ちに気付いてしまった蓮は、もうその手を離すことができない。


キョーコはそんな手を見つめて、次いで蓮の顔を仰ぎ見て。


「えっと…嬉しくって、思わずしがみ付いちゃいました…敦賀さんの手って、おっきくて温かいですね」


そう言って、ふにゃりと表情を崩すと、照れ臭そうに身を竦めて見せた。


そしてそのまま…
蓮の掌をきゅっと握り返してきて。


キョーコは完全に無自覚のまま、自身の持つ金の矢ではなく目に見えない恋の矢で、蓮の心の真ん中を正確な精度で射抜いてくる。

その抜群の威力にやられた蓮は、眩暈を覚えて、思わずと言うように額を押さえてしまう。


「蓮?どうした?」
「いえ…先のことを考えて、目の前が真っ暗になっただけです」
「? スケジュールのことなら心配するな、俺が上手く組み立ててやるから、な!」


社に不思議そうに言われて、苦笑を漏らす。


そして蓮は…
浮かべた苦笑に、自嘲気味な色を滲ませる。


…この恋には先がない。


キョーコは天使で…蓮を、そういう対象とは全く見ていない。

好意はあっても、それは単なる隣人愛だ。


何より彼女は、人間との恋愛を都市伝説のように、有り得ないものと捉えているのだ。



キョーコの掌を握り締めたまま雪を眺めながら、蓮はその場で1人…


闇を歩くような自身の恋心を思い、途方にくれていたのだった。





≪22に続きます≫



敦賀さん、自覚編でした!

そして自覚するなりへこむ展開に…ごめんなさい、敦賀さん(笑)←酷い。


そんな中、無自覚なキョコたんが敦賀さんに追い込みを…!このあたりから彼女の暴走が始まる予感。


明日からはキョコ編です。お付き合い下さいませね☆


ではでは。