本館で非常にご好評を頂いたため、こちらでも公開させて頂きます♪


昨日こちらで話していた、『離れ離れになった許婚同士の蓮キョ』話です。

でも…勢いで書いたお話だったので、思わぬご好評に嬉しい反面、正直とても驚いております…


*はじめに*


突然思い立ったパラレルなアラビアンナイト的な話です。勿論なんちゃってですよ!

物語風にしてみたのですが…どうでしょう。

ちょっと特殊系。そして読む方を選ぶような…

私からのお約束としては、

*うちのサイトで、キョコちゃんが精神的・肉体的に辛い思いは絶対しませんよ!

と言うことです。

なんせ今回のキョコ、職業が○隷ですから…「ええっ何それ、許せない!」という方も、いるかなあと。
大丈夫ですよ!キョコはしっかりピュアピュアですよ!(そこか?)

私の書くキョコのお相手は敦賀さんだけです。と言うか書けない…^^;


ではでは、美花のぬるさを信じてる!と言う素敵な方は、どうぞv


*くらやみのなかで*前編


「お前の名前は今日から『セツ』だ、迷惑を掛けないようにおしよ」

そう年嵩の女の人に言われたキョーコは、ぽかんをそんな女の人の顔を眺めてしまいました。

「あの…私の名前は」
「『キョーコ』はこの国では尊いお名前なんだ、お前みたいな奴隷が名乗っていい名前じゃないんだよ。お前には『セツ』がお似合いだ、まあ、そんな言葉の意味も、お前にはひとつも分からないんだろうけどね」

そう言って笑った女の人は、キョーコの前に山積みの麻をどんと置きました。

「あんたはここで籠を編みな。昼の間は絶対にこの部屋から出ないこと。いいね?ここは王宮なんだ、本当だったらお前みたいな醜い娘が入り込めるような場所じゃないんだよ。分かったね!?」
「は、はい…」

女性の勢いに驚いたキョーコがこくりと頷くと、顔を顰めた女性は鼻を鳴らし「全く…ヤシロ様も何を考えているんだか…」そう言って室内から外へ出て行きました。


『ヤシロ様』

女の人が呟いた、そんな名前にキョーコは反応します。

そう呼ばれていた男の人が、闇商人に売られようとしていた奴隷のキョーコを助けてくれたのです。



ここは、熱砂の砂漠に囲まれた場所にある、大きな大きな国でした。
点在する大小のオアシスを統括する王様が治めるこの国は隆盛を誇り、近隣一の大国なのだそうです。


キョーコはそんな華やぎを見せる国の片隅で、物心ついた頃から奴隷としてご主人様に仕えていました。

仕えていたと言っても、キョーコはそうご主人様に認識されるような存在ではありません。
気がついたらそこにいて、追い出すのも面倒だから置いて貰えている程度の、塵のような存在でした。

誰も彼も、キョーコを見ると顔を顰めます。
何故かと言えばキョーコは物覚えがとても悪く、そして、人から気味悪がられるほどに醜いからだそうです。

両親も身寄りもなく、記憶がある頃からずっとひとりだったキョーコは、奴隷として下働きの仕事に毎日毎晩追われる身の上なので、いちいち自分の容姿に気を払っていられる時間などありません。

なのでキョーコは、皆が口を揃えて言う『醜い娘』と言う言葉をすんなり受け入れ、出来るだけ周りの人に不快感を与えないようにと黒くて濃い色のベールを頭からすっぽり被り、人の目線を避けるようにして17の歳まで生きて来ました。

そんな、働き通しだけど同じことが繰り返される安穏な生活は、ある日突然終わりを告げました。

キョーコの仕えるご主人様が破産したのです。

事業で失敗をしたと言うご主人様は夜逃げ同然に屋敷から逃げ出し、奴隷達は借金のかたに売り払われました。

けれど、ぼんやりとしている上とても醜いキョーコには、奴隷としての価値がありません。
頭の回転がよくて小回りが利くような出来た奴隷ではないし、美しい容姿と身体を武器に出来るような、艶かしい奴隷でもないのです。

あっという間に場末の奴隷市場に回されてしまったキョーコは、そこでも買い手がなく、危うく闇商人の手に渡ることになるところだったのですが…

そこに『ヤシロ様』が現れたのです。

『ヤシロ様』は王宮で高い地位を持つ方で、王様の命により、不法な奴隷取引を行なっている市場の偵察に回っていたそうでした。

狙い通り不法取引を行なっていたこの奴隷市場は閉鎖となり、売られていた奴隷は正規の市場に回されました。

そして、市場の片隅で震えていたキョーコを『ヤシロ様』は見つけたのです。

「怖がることはないよ。君、名前は?」
「…キョ、キョーコ、です…」

膝を付き、黒いベールを被っていたキョーコの顔を覗き込んだ『ヤシロ様』は、キョーコの返事に途端に瞳を瞠りました。

「…『キョーコ』…!?」
「は、はいっ」
「ちょ、ちょっと失礼!」

言うなり慌てた様子の『ヤシロ様』は、キョーコのベールを剥ぎ、その顔を確認して…
すぐさま、深い深い溜息を漏らしました。

「…ごめん、もしかして君が、我々が長いこと探している『キョーコ様』かと思ったんだが…申し訳ないことをしたね…」

キョーコの醜い顔を晒したことに対する謝りの言葉を口にした『ヤシロ様』は、剥いだベールを丁寧な仕草で直してくれて。

…そして、暫くの逡巡の後…

「同じ『キョーコ』と言う名前の娘を、奴隷としてこのままにするのは忍びない。この娘は私が引き取ろう」

そう言って、『ヤシロ様』はキョーコのことを買い上げて下さったのです。
『ヤシロ様』の神様みたいな行いに目を白黒している間にも、キョーコは馬に乗せられ大きな門をいくつも潜り、あっという間にこの場所に連れてこられてしまいました。

ここは王宮の内部なのだそう。

白亜の塔がいくつも建ち、長い回廊、豪奢なお部屋がたくさん連なっていました。
広いお庭には立派な噴水があり、こんこんと水を湧き上がらせております。

そして広大な敷地には緑の木々がうっそうと茂り、小鳥が羽を休めています。
砂漠の真ん中にあるこの国で、それは何よりも贅沢なことでした。

「私は王様の側近なんだ。以前は王都に屋敷を持っていたのだけど、うちの王様は大変に仕事熱心な方で、放っておくと寝る間を惜しんで仕事をしているような方なんだ。だから見張りの意味もあって、王宮内に屋敷を賜ったんだよ」

生まれて初めて目にする煌びやかな王宮内をきょろきょろと見回すキョーコに笑ったヤシロ様は、そう説明をしてくれたのだけど、キョーコにはあんまり意味がよく分かりません。

王様は王様なのに、見張られなくちゃならないのかしら…?
なんだかまるで、私達奴隷とあまり変わらないみたいだわ…

そう首を傾げていたキョーコは、『ヤシロ様』からそのまま最前の女性の手に引き渡されて、今に至っていたのです。

ぼんやりとそんなことを思い返していたキョーコは、そこではっとなります。

いけないいけない、またぼんやりしてしまったわ。
私は昔からそういうところがあるんだから、困ったものだわ…

そしてひとつのことを集中して考えようとすると、すぐに頭に紗がかかったようになってしまう。

だからこそ、身の上とか自分の両親のこととかを深く考えられず、思い出すことができないのよ。

…まあ、今更思い出しても仕方のないことでしょうけど…

両親はきっともうこの世にはいないはず。
だからこそ、私はたったひとりで奴隷として生きているのだと思う。

ああ、そんなことより今は、言われた通りに籠を編まなくちゃね!


そう思ったキョーコは、目の前の麻の山に手を伸ばしたのでした。


***


そうして王宮内の『ヤシロ様』のお屋敷で下働きを始めたキョーコは、『キョーコ』と言う名前に纏わる事情がだんだんと分かるようになってきました。

ここに来て始めに会った女の人が、何も知らないキョーコに呆れ、溜息混じりに教えてくれたのです。
なんだかんだと辛辣な言葉を投げつつも、親切な人なのだわとキョーコは思いました。

この国の今の王様は『レン様』という男の方。
21歳ととってもお若い王様は、民を常に思い遣り、その生活をより良いものにするよう善政を敷いて下さっている、とても素晴らしい王様なのだそうです。

そんな王様が唯一臣下に心配をされていること、それは、王妃様を持とうとしないことなのだとか。

王宮内にあるハレムには国中から集められた美姫が何十人・何百人と住まい、王様の訪れを今日か明日かと待ち焦がれていると言うのに、王様は一度たりともその塔に足を踏み入れることはないと言うのです。

理由は何故かと言えば、王様は1人の女性を唯一のお相手と想い決め、その方のみを王妃様にと望んでいるからなのだそうです。

その女性が『キョーコ様』で、その方は大きなオアシスを統治していた部族のお姫様であり、王様の幼い頃からの許婚だったのです。

…「だった」と言うのは…

今から10年前にその部族内で争いが起こり、それを聞きつけた前の王様が駆けつけた時には、部族長の家族は全員皆殺しに合い、住居に火をかけられた後だったそうなのです。

争いは前の王様の手により治まりましたが、『キョーコ様』は亡くなったものとされました。

けれど、ただ1人、異論を唱える者がおりました。

今の王様の『レン様』です。

焼かれた住居跡を調べても、『キョーコ様』の遺体だけが見つからなかったのです。

そして、それから10年。
王様になった『レン様』は、そのことだけを心の支えに、いなくなってしまった『キョーコ様』をずっとずっと探し続けているのです。

王宮に仕える呪い師が水晶玉を覗いても何の痕跡も追えないのだから、もう諦めたほうがいいと何度重臣が提言しても、王様のお気持ちを変えることはできませんでした。

そのお話は物語となり、王様の際立つ美貌と合いまって、切ない『悲恋』として国中に広がっているのだとか。

噂に聞く王様は、それはそれは、綺麗なお顔をした方なのだそうです。
煌びやかなその美貌は、噂を聞きつけた遠い異国のお姫様が、その顔見たさに来訪するほどのものなのだとか。

そんなお話をキョーコはこれまで知る機会がありませんでした。

『キョーコ』と言う名前が特別なものなんて、これまで人前で名乗る機会のなかったキョーコには、知り得ることではなかったのです。

…そうそう、名前と言えば。
あの女性が名付けてくれた『セツ』と言う名前は、古い言葉で『少し足りない』とか『不足している』と言う意味があるのだとか。

間違っていない、そう感じたキョーコはすんなりと『セツ』の名前を受け入れていたのです。

日々のキョーコの仕事は、以前の仕事と比べればのんびりとしたものでした。

仕事場兼住居代わりにと与えられた室内で籠を編んだりその修繕をしたりと、室内でできるようなことばかりを仕事として与えられていました。

とにかく、明るいうちに外へ出てはいけないというのが、キョーコが何より守るべきことだったのです。

それは、仕方のないことでした。
ここへ来た時ちらりと見た王宮内は、どこも目を瞠るほど白く美しいキラキラとした建物ばかりだったし、時折目にする侍女らしき女の人達は皆美しく着飾り、そして見目麗しい人々ばかりだったのだから。

私みたいな醜いものが明るいうちから出歩いては、ここに住まう方々に迷惑が掛かるわね。

そう思ったキョーコは昼間は室内に篭り、食事の準備をしたり身を清めたりするのに外に出るのは、夜の間のみと決めていました。

それもこっそりひっそり、誰にも見つからないように。
人目に触れないように行動することは、これまでの生活の中でも続けていたことだったので何の苦にもなりません。


その日の夜も、キョーコは身を清めるためにそっと外へと出ました。

キョーコが与えられた住居から少し歩いたところにある森の端に、綺麗な水の湧き出る泉があるのです。
忘れ去られたようなその泉は、淡い月の光に照らし出されるとキラキラとその水面に光を映し、とても美しい光景をキョーコに見せてくれました。

そんな光景を見つめることが、今のキョーコの唯一の楽しみだったのです。

月の光は泉の周りの色とりどりの花や木にも降り注ぎ、青白い光の中それらが、熱帯の暑い風に揺らぐ姿もとても幻想的なものでした。

草を踏み、さくさくと密やかな足音を立てて泉に向かったキョーコは、辿り着いた泉の淵で手早く身に纏っていた衣服を脱ぎます。
ここに通うようになって暫くが経ちますが、この時間に自分以外の人間とお目に掛かったことは一度だってありません。

そんな経験がキョーコの動きを大胆にさせます。

全ての衣類を脱ぎ去り、常に隠していた顔と裸の肌を月の光に晒したキョーコは、泉の淵に腰を下ろし足を泉の水に浸すと、手足に水をかけて綺麗に清め、腰まで伸びた栗色の髪を水に濡らしました。

泉のひんやりとした水は汗ばんだ肌に酷く心地が良くて、キョーコは長い吐息を漏らします。

濡らした髪をひとつに纏めながら、足をくるくると動かすと泉の水が渦を描きます。
1人遊びを何気なく続け、そんな行為に口元に笑みを浮かべていたのですが…

「…誰か、そこにいるのか…?」

不意に声が…
しかも、男の方の声が背後から掛かり、驚いたキョーコは慌てて泉に身を沈めます。

どぷんと言う水の音が静寂に包まれた森に響き、自分の立てた音の思いの他の大きさに、水の中のキョーコは身体を竦めてしまいます。

なんてこと!
誰にも見られないことが、ここでの生活のルールだったのに…!

こんな姿を見られたら、間違いなく私はここを追い出されてしまう。
ここを追い出されたら、もう、生きていく術がなくなってしまうと言うのに。

顔色を失くしたキョーコは泉の中で1人、恐ろしさにかたかたと震えていたのですか…

「も、申し訳ない…!こんな夜中に女性がいるなんて思わなくて…私は後ろを向いているから、その間に君は、服を着て」

やって来た男の方も声の調子からして、キョーコと違わず随分と驚いているようでした。

恐々と泉から目元までを出すと、僅かな先には長身の男の方の背中が見えました。

彼は言葉通り、後ろを向いてくれている様子です。
心を決めたキョーコはちゃぽんと小さな音を立てて素早く泉から身を引き上げると、衣服を纏いきっちりとベールで身を隠しました。

そして、

「あ、あの!ご迷惑をお掛けしまして申し訳ありません…!もう、大丈夫です…」

恐る恐る、男の方の背中に声を掛けました。

慌てていた今までは気がつきませんでしたが、男の方は、とても身分のある方のように見えました。
目に入るのは後姿だけですが、纏う純白の長衣には一面に細やかな金の刺繍が刺してあり、袖から微かに見える手には、黄金の腕輪や指輪が月の光を受けて煌いていたのです。

そんな男の方が振り返ります。

その瞬間…

煌々とあたりを照らしていた月に雲がかかり、周囲は暗闇に包まれました。

誰もいない泉に灯りがあるわけがありません。
近くにいてもその顔立ちが分からないほど、泉の周りは真っ暗になりました。

けれど、キョーコの瞳は振り返った男性の顔立ちを、月の光が翳る一瞬に目にしていました。

キョーコは目にした彼のお顔に、ぽかんとなってしまいます。

振り返った男の方のお顔は、目を瞠るほどの美しさだったのです。

けぶるような長い睫毛に縁取られた切れ長の黒い瞳は、黒曜石のような光を秘め、黒い髪は艶やかで、まるで高価な絹糸のよう。

そして高くて細い鼻梁、艶やかな唇と白皙の面の中で相まって、うっとりするような美貌を作り上げていたのです。

呆然となって蹲るキョーコの傍に、彼は歩み寄って…

「驚かせてすまない。私はレン。ここの敷地に住まうヤシロの元に用事があって来たのだが…君の名前は?女性がこんな夜中に出歩いては、いけないよ。そんなところに座り込んでないで…こちらにおいで。屋敷まで送っていこう」

そう言って、キョーコへと手を差し伸べてきたのでした。


≪後編へ続きます≫

真打登場で次回へ…(ここでかよ!て感じですね^^)

美花、本当に王様とか王宮とか好きみたいです。
そして最近気が付いたんですが、どうも衣装萌えらしい…ドレスとか民族衣装とか、大好きです。

後編では、キョコは本当に醜いの?王様敦賀さんとはどうなるの?を書いていこうと思います。


ではでは♪