今更ですが、サイトのほうで11/11~12/25までフリーで配布していた、クリスマス話をこちらでもUPしてみます。


アメブロユーザーの皆様に、美花って人、どんな話を書くのかな?という疑問のサンプルになればいいですし、詰め込み癖のある私の、やりすぎ具合のいい説明になるかと思います(苦笑)


何だかもう、蓮キョに対する美花の夢と希望がぎゅぎゅっと詰まってます。


今読み返すと、もっとシンプルな方がいいと思うよ、私…?と思います。
ここが私の来年に向けての反省点です。


反省の意味も込めて、晒してみちゃったり…Mだわ、このひと…!

とにかく長い話なので、お暇な時にでも読んでやって下さいませv


どうぞ♪

*Christmas×Christmas*



…キョーコは、広いベッドの上で不意にぽかりと目が覚めた。


朝方の、まだまだ夜に近い時間の寝室は、静かな沈黙に包まれていた。
間接照明の淡い光に照らし出された広々としたその部屋は、夜の雰囲気を未だ色濃く残している。


目に映るのは高い天井、落ち着いた色調で整えられた高価そうな家具、部屋を柔らかく照らすベッドサイドのランプシェード。


そして、何より一番に飛び込んでくるのは隣で眠る愛しい恋人だ。


キョーコは瞳をそっと細めて、静かな寝息をたてるその人を見つめる。


綺麗に筋肉の乗ったしなやかな腕が、毛布ごと、キョーコを守るように抱きかかえていて。

そんな彼のその裸の肩が、羽毛布団から露になっているのに気が付き、慌てたキョーコは布団をそっと引き上げた。


忙しいこの人に、万が一でも風邪をひかせたりしては大変だ。


彼には年明けからの3ヶ月間、新しい映画の仕事が入っているのだ。
未だに自分の体調よりも仕事を最優先にする彼には、万全な体勢で新しい仕事に望んで貰いたい。


暖房でほどよく暖められた室内は寒さを感じることはない。

けれど、万全を期すには念には念を入れても、やりすぎるということはないはずだ。


布団を肩まで上げて、キョーコはそのまま、シーツに流れる彼の艶々の黒髪を指先でそっと梳く。


柔らかで指通りのいいその髪には中毒性が潜んでいると、キョーコは常々思っていた。
一度触れると、一度だけでは足りなくて、二度三度とそれを重ねてしまうのだ。


そんな髪を梳く行為を何度繰り返しても、深い眠りに就いた彼は一向に目覚める気配がない。


人の気配に敏い彼が、キョーコの気配に気付いて起きないのはとても珍しい。

それだけ、彼は疲れているのだ。


「もう…本当に無茶するんだから…敦賀さんたら」


彼の、やや疲れの滲んだ白皙の美貌を指先で辿って、キョーコは少し呆れ気味に吐息を漏らす。



今はクリスマス・イブの夜を超えた真冬の朝方。
キョーコの、20回目の誕生日の朝だ。



キョーコの隣で眠るのは、超人気俳優の敦賀蓮。

類まれな美貌と確かな演技力が売りの彼は、今や、日本を代表する俳優で海外の映画祭でも常連となっている。



そして…



キョーコの、大事で大切な、唯一の人。



紆余曲折を経て、この夏から真剣なお付き合いをしている恋人なのだ。



昨夜、社長の自宅でのマリアの誕生日兼グレイトフルパーティへの出席を終えた後、蓮と共に彼の自室に戻り、ささやかな…と言うには、随分と豪華過ぎる演出が施された誕生パーティーを2人でしたのだ。


そしてそのまま寝室に連れ込まれて…

今に、至っている。



…今夜のベッドでの蓮は、普段以上に情熱的で…



本当に無茶をしてくれると、キョーコは赤くなる頬を掌で押さえ、ベッドで1人恥ずかしい思いを噛みころす。


今日、25日は蓮もキョーコもお休みを貰っていた。


今年の春漸く高校を卒業し仕事に専念し始めたキョーコも、このお休みを取るために、それなりにスケジュール調整が大変だったけれど、それは、蓮の比ではなかった。


マネージャーの社が分単位でスケジュールを組み立て、蓮が1度のミスも犯さずそれをこなす。

彼はこの日の休みを捻出する為に、半年ほど前から仕事を詰め始め、ここ2ヶ月ほどは寝る間も惜しんで殺人的なスケジュールをこなしていたのだ。


無茶を通す蓮に付き合い社も早朝から深夜まで働き通しで、申し訳ない気持ちでいっぱいになったキョーコは、何度となく無理をしないで欲しいと訴えたのだが、


「2人の幸せのためにはお兄さん頑張っちゃうよ」


と、気のいい社は優しく笑ってくれるだけだった。


そして本人も、


「キョーコと付き合い出して初めての誕生日なんだ、気合いを入れなくちゃね」


端正な顔を弛めて、そんなことを言う。


『敦賀蓮』は、常に1年以上先まで仕事が入っている超多忙な人気俳優だ。


本当だったら3ヶ月に1度、半日の休みを捻出するのにも敏腕の社が頭を悩せているほどなのだ。
それを丸1日なんて…社が苦笑気味に「もっと早くから申請してくれ」と訴える気持ちが、よく分かる。


けれど、彼のスケジュールの大枠が組まれる1年以上前のあの頃は、蓮がキョーコの誕生日に合わせて休みを取るなんて、誰も想像すらしていなかったのだ。


もしかして今蓮が起きていたら、「俺はずっとそうしたい気持ちでいっぱいだったけど?」と涼しい顔で言いそうだけれど。


そんなことを想像したキョーコは、照れ臭さに頬を染める。

蓮は、もうかれこれ4年近く前からキョーコを好きだったなんてことを、いつも真顔で言うのだ。


あの蓮が、である。


初めてそんなことを彼から告白されたのは、今から1年前の25日、やはりグレイトフルパーティーの後、キョーコが19歳の誕生日を迎えた数秒後のことだった。




キョーコは去年のクリスマスを…
自分の誕生日の騒動を、ベッドに頬杖をつきながら思い出していた。









あの日、19歳の誕生日おめでとうと、誰よりも先に誕生日のお祝いの言葉をくれた蓮は、


「実は、君にお願いがあるんだけど」


キョーコの顔を覗き込んで、黒い瞳を悪戯っぽく輝かせながらそんなことを言い出したのだ。


その日の彼は、会場で顔を合わせた時から、いつも以上にキラキラと輝いていた。


自身が専属モデルをしているアルマンディの新作のスーツを身に纏った彼は神々しいばかりで、会場中の女優やアイドル達の目線を1人で集め、注目の的だったのだ。


そんな蓮の前に立ちながら、キョーコはぎりぎりの時間で正装に着替えていてよかったわと、溜息混じりに考えていた。


マリアに感謝しなくてはいけない。


『お姉様!誕生日を迎えるパーティの席で、コックコートのままなんていけないわ!控え室にお姉様用のドレスを用意しているの。着替えに行きましょう!』


そんな風にマリアに言われ、淡いピンクのドレスに着替えていたのだ。


ワンショルダーのそのドレスは、肩から胸元にかけて大小の花が何個も散りばめられ、形も歩く度に裾がひらひらと揺れる綺麗なマーメイドラインで、華やかで可愛らしい中にも大人の雰囲気を醸し出した上品なものだった。


サイズもまるでキョーコに合わせてあつらえたみたいにぴったりで、身体のラインを綺麗に見せてくれていて。


髪やメイクも専属のメイクさんに綺麗に仕上げて貰えて、普段の自分よりもずっと大人っぽいキョーコが、鏡の中からこちらを見返していた。


蓮の前では大変な艶消しだろうけど、今のキョーコの精一杯だ。

それでもコックコートよりはまだよかったと思う。


考えてみれば去年も一昨年もコックコートのままだったけれど、今年はどうにも、その姿で蓮の前に立つことが妙に居たたまれなく感じていたのだ。


眩い美貌に内心でどぎまぎしながらも、キョーコは蓮の不意の話に小首を傾げる。


「お願い、ですか?勿論、私に出来ることでしたら」
「うん。君にしか出来ないことなんだ」
「私にしか、ですか?」


そんなキョーコの不思議そうな顔に、蓮は唇をふわりと綻ばせると…

「最上さん、ずっと前から君のことが好きだったんだ。俺と、結婚を前提としたお付き合いをして下さい」


大輪の薔薇の花束をキョーコに差し出し、衆人環視の中、そんな衝撃的な告白をキョーコにしたのだ。


その場に居合わせた周囲の人々はそんな突然の告白に目も口も大きく開けてぽかんとしていたが、一番間抜けな顔をして呆然としたのは他でもない、キョーコ本人だった。


フォーマルな装いで薔薇の花束を抱えた蓮は、まるでドラマか映画の中から抜け出して来たような美々しい姿

で…


そんな彼に豪華な花束を手渡されうっかりそれを受け取ってしまったキョーコは、呆然と甘い香りの漂う薔薇の花束を見て、それからもう一度、ギクシャクとした動きで蓮を見た。


穏やかな笑みを浮かべた彼は、キョーコを優しい瞳でじっと見つめている。


黒い瞳が艶々と輝き、形のいい眉が優美なカーブを描いている。

綺麗に引き締まった滑らかな頬、細い鼻梁に男らしくセクシーな唇。

端正なその美貌は、まるで彫刻のように見事で、華やかで。



『敦賀蓮』は年々、歳を追うごとに美しさに磨きが掛けられているような気がする。

それはもう今や神懸り的な美貌で、後輩として見慣れてきたはずのキョーコすら、魂が抜かれたようになってしまう程だった。


思わずふらふらと吸い寄せられてしまいそうになり…


土壇場で意識を取り戻したキョーコは慌ててふるふると首を振る。



ダッ、ダメよキョーコ、ちゃんと現実を見るのよ、現実を!!

敦賀さんが私を…なんて、世界がひっくり返っても有り得ないことだわ、これには何かあるのよ!
甘い話には絶対に裏があるんだから、気をつけて!
それが詐欺師の手口だって、知っているでしょ!?



幸か不幸か、過去の教訓からいろいろと学習しているキョーコには、蓮の言葉をまともに受け取ることが出来なかった。


だから。


「もう、敦賀さんたら!人が悪いにもほどがあります。私をからかうにしたって、誕生日に一番乗りでなんて酷過ぎますよ。私だってもう子供じゃないんです、そんな新手の悪戯にも、簡単に引っ掛ったりなんてしないんですからね?」


盛大に顔を顰め、頬を膨らませて見せた。



なんてあくどいことをする人なんだろう、この人は。

知り合って3年近くがたって、最近ではこっちが驚くくらいに優しくしてくれることだってあるようになったのに。
こういうことって、親しくなったからこそされる敦賀さん流の悪巧みなのかしら。

きっとこの後、「残念、ひっかかってくれなかったか」とか、意地悪な顔をして続けるつもりなんだわ。



そんな風に、考えていたのに。


「…まあ、そんな反応も予想の範囲内、かな。にべもなく嫌だと言われなかっただけ、今回はよしとしよう。こういう場で言えたことは、いい害虫駆除にもなったしね」


やれやれと言うように溜息を吐いた蓮は、ゆっくりと周囲を眺めて満足そうに1つ頷き、


「最上さん、俺は本気だから。君を逃がすつもりも、他の誰かに渡すつもりも一切ない。覚悟して?」


そしてそう言ったかと思うと、やけに楽しげに唇の端を引き上げて。


何気ない仕草で身を屈めて、何かしらと不思議に思うキョーコの顔を間近の距離で覗き込むと…



ちゅっと音を立てて、唇ギリギリのところへとくちづけを落としたのだ。



「…!?…!!…ッ!!?」



柔らかな唇の触れたところを反射的に押さえて絶句するキョーコの背後で、会場を揺るがす女性の悲鳴が上がり、男性の低いざわめきが起き、そして、青白いフラッシュの明かりが盛大に瞬いた。


「え…や、やだっ!嘘…ッ!?」


いつから撮っていたのだろうか、気がついたときにはカメラが集中的に向けられていた。


混乱と衝撃で、キョーコはわけが分からなかった。

はちりと目の合った正面の若い記者も、この出来事に狐に摘まれたような顔をしている。


スキャンダルという言葉が頭に浮かんで、瞬間に蓮の立場を思い、キョーコは完全に顔色を失くす。


グレイトフルパーティーは大手プロダクションLME社長宝田の孫であるマリアとキョーコ主催の個人的なパーティなのだが、年末のこの時期、芸能人がこれだけ集まる行事をマスコミが放って置くはずがない。

そんな彼らにも感謝をと言うことで、社長の配慮からTV局や雑誌社のカメラやリポーター、記者達が何社か会場への立ち入りを許されていたのだ。


呆然と目線を交わすキョーコと名前も知らない記者との間に、間髪いれず、艶やかな声が飛んで来る。


「こら、お嬢さん。告白したての男を放って他の男と見つめ合うなんて、早速俺に、やきもちを焼かせようとしてるのかな?」


それと共に大きな掌がキョーコを引き寄せ、抱え込んだ。


途端に周囲からざわめきが上がる。
いつの間にか蓮とキョーコを中心に輪が出来てしまっていたのだ。


あわあわと見上げるとそこには似非紳士の笑顔を浮かべた蓮がいて、キョーコは声にならない悲鳴を喉の奥で上げた。


口調はからかう調子だったけれど、目が全く笑っていなかった。

キョーコのアンテナがブラックな感情を受信してざわざわと騒ぎ出す。


「つつつつ、敦賀さん…ッ!!!何で、どうして、嫌がらせにしても度が」
「だから嫌がらせじゃないって。君はどうしてそう俺に関しては疑い深いのかな?他の人間の言葉はすぐ信じるのに」
「ひっ人聞きの悪いこと言わないで下さい!どうして私が大先輩の敦賀さんを疑うんですか!?それはまあ時々変な意地悪をされるから警戒はしてますけど…ってそんなことじゃなくて!!は、離れて下さい、しゃ、写真に撮られちゃってます!!!」

「まあまあ、このパーティは感謝が目的なんだろう?それなら日頃お世話になっている彼らにもスクープ写真を提供してあげなくちゃ、ね?」
「きっ、気は確かですか、敦賀さん…っ!!」


そんな会話の間にもその周囲から遠慮気味にフラッシュがたかれる。


敦賀蓮の突然の暴挙にキョーコは勿論、周辺も騒然となったのだった。
騒ぎを聞きつけてやって来た社長の出現で、その場はなんとか収まるかのように見えたのだが…


そんな彼らが思わず撮った現場写真をその場で確認した社長が大いにそれを気に入り、握りつぶすどころかむしろ前のめりに写真の流出を後押ししたのだ。


「いやあ、めでたい話じゃないか!!君達この話はどんどん話題に乗せてくれ、うちもちゃんと会見を開くから!」
「しゃっ社長!!何を仰るんです、デマです、誤解です、敦賀さんをちゃんと病院に連れて行ったほうがいいと思います!!きっと頭をどこかでぶつけて来たんだわ、一大事です!」
「随分な物言いだね、最上さん…へえ、一瞬だったけど綺麗に撮れてるんですね。さすがプロの仕事だ」
「おう、蓮に最上君!どうだお前達、記念に一枚貰っておくか!」


そう言って、社長から一眼レフのデジカメの画像を見せられたキョーコは、そのまま倒れるかと思った。

そうならなかったのは、蓮の腕がキョーコの腰にしっかりと回されていたからで…もう、何をどうやって突っ込んでいいやら分からない。



撮られた写真では薔薇を抱え蓮を驚いた顔で見上げるキョーコと、酷く優しい表情の蓮が、完全にキスをしていた。


頬に添えられた蓮の掌が上手い具合に触れている部分を隠していて、そう見えてしまうのだ。



…後から奏江に教えて貰ったところ、角度によっては本当にくちづけを交わしているように他の人にも見えたのだとか…



捏造だと、キョーコは愕然となって。

次いであることを思いつき、慌てて隣の蓮を振り仰ぐ。


「…敦賀さん…もしや、まさか…これも計算づくで…!?」


キスシーンを撮り慣れている彼ならば、どの角度で入ればどのようにカメラに写るかなんて知り尽くしているはずだ。カメラの位置を把握して動けば難しいことじゃない、この会場にいるカメラの数はそう多いものではないのだから…


後から付いて来た事実が想像を後押しし、キョーコの中で疑惑が確信に変わる。


すると彼は、目線の先で見惚れるくらいの綺麗な笑みを、その整った顔へ鮮やかに浮かべて見せて。


「覚悟してって、言っただろう?」


耳元でそう囁いた蓮はそのままキョーコの身体を引き寄せて、そのこめかみに愛しげに唇を押し当てた。



キョーコの盛大な悲鳴がパーティー会場に響き渡ったのは、その数秒後のことだった。