Strawberry Cake 9-2
「・・・・俺、毛利の事好きだ。」
「・・・・・え?」
驚いた蘭の表情を確認した赤羽は掴んでいた手をゆっくりと離した。
「まだ、告うつもりはなかったんだけど・・・・いつか伝えるなら今の方がいいと思って。」
思いもしない彼の発言に蘭の鼓動は速くなる。
「初めて隣の席になって毛利の事知っていくうちにどんどん惹かれていったんだ。」
真っすぐ見つめられて。
「話しやすい奴だなって最初はそれだけだった、でもだんだん毛利の色んなところが見えてきて、いつも笑ってるなとか、いつも一生懸命だなとか、いつも誰かの事考えてやってんだなとか、親友の事大切にしてるんだなとか、真面目なとことか、たまに頑固なとことか・・・・・いつのまにか毛利から目が離せなくなってた。」
一つ一つ、大切に。
蘭はそんな赤羽から目が離せない。
「・・・・・・・。」
「部活の時とか登下校の時とか毛利見つけるとなんとなく気になって・・・・笑ったり、怒ってたり、色んな顔見てるうちに可愛いなとか頑張りすぎていっぱいいっぱいになった毛利とか見ると守ってやりたいって思うようになって・・・・」
少しだけ赤羽の視線が俯く。
トクン、トクン。
誰の音か。
「そんな毛利の事、一人占めしたくなったんだ。」
再び視線が混ざり合う。
「なぁ、毛利の隣にいるの・・・俺じゃだめかな?」
「・・・・・あ・・・かばねくん・・・・。」
鞄を持つ手に力がこもる。
「・・・・・・・・返事はすぐじゃなくてもいいから。」
「あの・・・・・・わたしー・・・・・・。」
:::
「・・・・なんかあった?」
探偵事務所に着き、自転車から降りようとした蘭に手を差し出しながら新一が蘭に問いかけた。
「え?あっ・・・きゃ!」
まさかの新一からの質問に蘭は動揺を隠せずバランスを崩す。
「ー・・・・っと!」
咄嗟に新一が抱きとめる。
「ごっごめんなさい!」
蘭はその密着に驚いて離れる。
あれから赤羽との話を終えて新一の元へ辿り着いた蘭はその後新一とどんな会話をしてここまで返ってきたのか記憶になかった。
あまりにも衝撃的な出来事で何も考えられなかったのだ。
そんな次から次へと起こる事にただ慌てる蘭を見て新一ははぁっとため息をつく。
今朝の話の続きをしようにもどこか上の空で、話しかけても確かな答えは返ってこなかった。
「・・・・・・・蘭はわかりやすいんだよ、何かあった時は顔に何かあったって書いてある。」
「嘘!?」
蘭はまた驚いて自分の顔に触れる。
「バーロ、本当に書いてあってたまるかよ、・・・・・んで?やっぱ何かあったんだ?」
「な・・・・何もないよ。」
「・・・・・・・・・・・・。」
目を泳がせながら告げられた言葉を誰が信じるだろうか。
新一は黙ったまま蘭の首筋へと手を伸ばした。
「え!?・・・・ちょ、何?」
「知ってるか?人間って嘘つくと脈や呼吸が乱れるんだよ。」
だからこうすればわかる、と言って新一は蘭の首筋に通る脈に触れ、顔を近づけて蘭の瞳を見つめる。
「・・・・・・・・しっ・・・・新一く・・・・・。」
きゅっと目をつむる。
ドクドクと脈打つ自分の脈拍に静まるよう全神経を集中させようとしたけれど、ただ悪化するだけだった。
新一の顔があまりにも近くて、その距離に耐えられなくて、蘭はついに口にしてしまった。
「・・・・・わかった・・・・話す・・・話すから・・・はっ離して?」
その言葉を聞くとそっと首筋から新一の手が離れる。
それに安堵しながら、小さく先程の出来ごとを口にした。
「・・・・・・・・告白・・・・されたの。」
「・・・・・誰に?」
「あっ・・・赤羽君。」
「・・・・返事は?」
「そっ・・・・・・それは・・・・・・。」
蘭は先程の出来ごとを思い出し、身体中が熱くなる。
「そんな事・・・・言えないよ・・・・。」
頬を赤く染め困ったような表情を浮かべる蘭を見て新一は表情がなくなる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そう。」
そしてそのまま蘭に背を向け自転車を片づけ始めた。
そんな新一にどこか違和感を感じたが蘭にはどうしたのか聞く勇気はなかった。
:::
その日の夜。
寝静まった蘭の部屋のドアはまた開いた。
その侵入者は昨夜と同一人物。
「・・・・・・・・・っ。」
昨日とは打って変わって強引に、何の余韻もなく蘭の唇に自分のソレを重ねた。
「・・・・・・・ふ。」
角度を変えて何度も何度も繰り返されるその行為に次第に蘭の意識が現実に戻ってくる。
「・・・・・・・っん。」
うっすらと視界に入ったその姿に一気に目が覚める。
「しっ・・・・新一くー・・・・っ!」
その人物との距離と行為に気付いた蘭は驚いて名前を呼ぶが、再び強引に塞がれた。
唇に感じる湿った柔らかい感触。
口内に何かが押し入ってきて蘭はその突然の感覚に不快感を感じる。
「・・・・・・なっ・・・・やっ・・・・やだ、やめ・・・・・・やめて!」
ドンッと精一杯の力で新一を押しのける。
「なんで?・・・・・どうしてこんな事・・・・。」
「・・・・・・・・・・・他のものになる蘭なんて・・・・みたくねーんだよ。」
「え?」
「・・・・・・っ何、赤くなってんだよ。」
「しんいちくー・・・・・・。」
「俺以外の誰かのものになる位ならいっそ無理矢理にでも奪いたい。」
それはどういう事なのか。
しかし、ただ今起きている状況におびえる事しか出来ない。
こんな新一は自分の知っている新一ではない。
自分を庇って抱き寄せてくれた腕はもっと優しかった。
身体中が震える。
ガタガタ揺れて抑えられない。
涙があふれる。
新一の手が再び伸びてきた時、蘭はその恐怖感に強く怯えた反応をしめした。
「ー・・・・・っ。」
そんな蘭の姿を見た新一は伸ばした手をひっこめ、そのまま何も言わずに部屋から飛び出した。
遠くからバタンと扉が閉まる音がした。
自分の部屋に戻ったのだろうか。
「ー・・・・・っ。」
蘭はそのまま気を失うかのように眠りについた。
:::
翌朝、目を覚ました蘭は昨夜の出来ごとを思い出す。
どうして、あんな事になったのだろう。
そしてこの数分後、家の中のどこにも彼がいない事に気付くー・・・・
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「私・・・・・好きな人がいるの。」
「だから・・・・ごめんなさい。」
「そっか・・・・それって・・・・・・・・・いや、やっぱやめとく・・・・・はっきり言ってもらえて良かった。」
「・・・・ごめんなさい。」
「いいよ、そんな謝るなって、
・・・・・でも当分毛利の片想い応援する気にはなれないから・・・・俺もごめんな。」
「・・・・・・・・・。」
この気持ちに嘘はないのに。
なのにどうしてこんなにも複雑になってしまったんだろう。
恋ってこんなに難しい事なの?
ケーキと同じだ。
クリームと、苺と、スポンジと。
全てがぐじゃぐじゃに混じり合う。
崩れてしまったケーキを元の形に戻すのは難しいように。
私達の関係を元に戻すのもそう容易い事じゃない。
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あとがき:::
おおおおおおお待たせしました。
もー何もコメントできません。
話とびすぎ、はしょりすぎ・・・・。
スンマセン。
でもようやく書きたかった所までこれました。
ラストスパート・・・。頑張ります。
読む人も、私自身もパニック状態展開ですが・・・・。
もう少しだけお付き合い下さいませ。
9話は文字数が多くなってしまい、携帯からの閲覧では表示しきれない事があるようなので、9話だけ二つに分けさせて頂きました。
お手数ですが続きは「9-2」からご覧下さい。
ご迷惑お掛け致します。
2012.05.19 kako