「臨床医からの質問 ⑤」  の続き



11) 双極性障害に対する加齢の影響についていかがでしょうか。



神田橋  これがね、私も関心持ってるんですが、よくなっていく人もいるけど、70歳、80歳になっても波のある人が普通です。


中にね、加齢とともに痴呆のようになる双極性障害がありますでしょ。あれが何なのかわからない。薬をずっと飲んでいるせいなのか。きれいな躁うつで、いいときはずっと社会的な仕事をしていた人が、痴呆のような状態で沈殿してるんですよね。うちの病院にも一人か二人、入院しています。あれは何だろうって思ってわかんないんです。薬によって起こってるのかな。


一般論として、だんだん波が伸びるとか、短くなるとか、頻度が変わるかいうことはないと思います。I病院に来て20年近くになりますので、長く診ている患者さんもいますが、あまり変化がないですし、薬の量が少なくなるという感じも持ちません。抗精神病薬は当然、年をとってきますから、少なくなりますけど、気分安定化薬の量が変わっていくような印象は持っていません。これで終わりますか。


K氏(MC)  先生、どうもありがとうございました(拍手)。 せっかくの機会ですからフロアからご質問を受けたいと思います。


質問者  K大病院精神科のMと申します。双極性障害に関して、ほんとうに丁寧な臨床のエッセンスをありがとうございました。ひとつだけちょっと場違いですけれど、お聞きします。今、先生がおっしゃった双極性障害に使われる薬というのはバルプロ酸とかリボトリールとかは、てんかんの薬ですよね。おそらく今度出てくるラモトリジン、ご存じと思いますが、ラモトリジンという薬もそうですね。


神田橋  いや知りません。


質問者  すべて向こうで出ている薬というのは抗てんかん薬でありながら、同時に気分安定化薬なんですね。つまりエピレプシーとバイポーラーはどう違うのかという話も含めて、なんであるのかなあということについて、先生の発想というかご意見をお聞きしたい。私自身、興味があってですね。


神田橋  それは私も、なんでだろうと思ってます。それで、てんかんの薬は効きゃせんかなと思って、どうしても波が収まらない人にエクセグランがいいんじゃないかなと思って出してみたら、全然効きませんでした。だけど、かたっぱしからてんかんの薬ですよね。


質問者  今後出るのはほとんど全部、そうですね。なんでだろうなと思って。


神田橋  なんででしょうね。これはなんでだろうと考えるところから。


質問者  おそらくおっしゃるとおりで、発想して、そこからおそらく研究にしても、臨床にしても、プレグナントだと思うんですけど、そういう意味で先生に何か発想でもアイデアでもありましたら。


神田橋  私はてんかんのことを知らんから。


質問者  チャンネルの問題とかですね。おそらくリチウムはそういう意味ではあまり関係ないわけでして、だからそのそういうことも含めて、発想があってそのアイデアからおそらく臨床の研究も進みますので、何か教えていただけたら。


神田橋  けいれん発作を誘発するような薬を使ってみるというのは、人間ではできませんね。動物の研究のときにね、ひょっとしたら、何かできるかも。


質問者  スキゾフレニアの場合にECTをすることで効く場合もあるのかもしれませんし、バイポーラーもそうでしょうけど、たとえばけいれんも、あれはけいれんが起きたことによって治るみたいな話になっているので、なんか逆かなという気もしますし、例えばですね、それをすごく知りたいなと思いまして


神田橋  それはほんとに、何だろうねといつも思うんです。次の薬もそうらしいという噂は聞いてますのでね。


質問者  はい、ほとんどそうです。


神田橋  面白いですね。誰か研究してください。どういうふうにして研究したらいいですかね。


質問者  多分、トランスミッターのレベルとか、そういうレベルではないのじゃないかなと。抗うつ薬だってそういうレベルでは、もはや研究はされ尽くされて、違うところでやってますよね。多分、まったく違う発想でやるしかないし、まったく違う発想が生まれるとしたら、それはおそらく普段の臨床でしかないわけで。


神田橋  そうですね。もうずっと考えてて、わからんのでもう考えんことにしてましたけれど、またしょうがないから考えてみます。


質問者  また教えてください。ありがとうございました。



K氏(MC)  ありがとうございました。他にはいかがでしょうか。


神田橋  私がやっている‘気’で薬を決めるのを、誰か物好きに練習してくれる人がおらんかなと思うんですけどね。でないと、もう私もそう長く生きないから、技術も消えてしまうかな、悲しいなあと思って、まあしょうがないかな。芸は一代と言うから。


K氏(MC)  どうもありがとうございました。双極性障害が同調性の病であるということ、また社会の中でその同調性をどう育てていくか、それが治療の目標であるというエッセンスだったと思いますし、先生の語られた臨床の一駒一駒は、私たち振り返ってみれば、みんな同じような場面を経験していると思うんですけど、どうも先生のように場面を読み取れていない。先生のように臨床が発見に満ちていると、本当にやってて楽しいだろうなぁと、そういう中で患者さんもよくなっていくんだろうなぁという気がしました。本当に臨床の魅力あふれる大変楽しいひとときを過ごさせていただきました。どうもありがとうございました(拍手)。


(後ひとつあります)








◎ この一連の記事はすべて神田橋先生の了承を得て載せています。