Forgiveness Rock Record/Broken Social Scene | Surf’s-Up

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 Broken Social Scene、5年ぶりの新作。活動休止状態が長く続いていたが、今回9人のメンバーで再始動した。多くのメンバーで流動的に構成されているプロジェクトに近いバンドだし、ソロでも十分活躍できるような人たちの集まりであるため、活動自体が行き詰まることもあったそうだが、9人という彼らにしては少なめの構成で復活を果たした。ちなみに9人の中には、あのジョン・マッケンタイアの名前も含まれている。


 ジョン・マッケンタイアの名前から、もっと凝りまくった一音一音の緊張感でテンションを張っていくサウンドを作り上げるかと思ったのだが、新作は彼らのアルバムの中で最もわかりやすくポップなものに仕上がっている。力強いビートとシンプルなギターリフが絡み合いながら大陸的な歌が展開していく、壮大なオープニングWorld Sickから圧巻。ガッツポーズしたくなるような高揚感、ライブでとてつもなく盛り上がりそうな曲だ。


 全体的な特徴として、意外なほどメロディーが中心に据えられた曲が多いような気がする。ストリングス、管楽器、エレクトリックなど雑多な音楽性がどんなケミストリーを引き起こすのか、そんな「実験室」から生まれたようなサウンドが特徴だったと思うのだが、今作は実験性と言うよりも各々の経験やキャリアを集結させて、頭の中にある設計図を元に作ったような安定感を感じるのだ。


 それ故、これだけ多岐にわたる音楽性を持っていながら、決してとっちらかった感じがしない。統一感さえ感じるほど、BSSならではのカラーが光を放っている。個人的にはForced To Loveのあっけらかんとしたドライブ感、BSS版フィメール・ポップであるAll To All、ビッグ・バンド風のArt House Director、撚れ方が味わいを生んでいるフォーキーなHighway Slipper Jamときて、ジャムテイストの壮大なインストナンバーMeet Me in the Basementへと傾れ込んでいく中盤の流れが好きである。


 アルバムのテーマ自体は重い。アルバムタイトルも直訳すれば「許しのロックレコード」となる。このどん詰まりの世界の中で死ぬのを待っているんじゃなくて行動を起こそうという意志を彼らは持っているわけだけど、そのキーワードの一つが「許す」という事なんだと思う。許すという基本的な感情行為が、まずは現状打破の第一歩なんじゃないか。お金も何もいらない簡単なこと、自分が出来ることから始める。その積み重ねがやがて、大きなものへと結実していく。それって、BSSの作り出す秀逸な作品たちにも共通したことが言えるだろう。


ずいぶんと長く待たされたような気がするが、それに見合うだけの素晴らしいアルバム。


 おすすめ度★★★★☆(19/06/10)