紅花紅子のブログ-sniper3
狙撃されたChris Kyle

ご存知の方もあるだろうが、
2013年2月2日土曜日のテキサスにて
元アメリカ海軍特殊部隊の狙撃兵として名を馳せた
クリス・カイルが殺された。

容疑者は除隊後のPTSDに悩まされていた男で、
クリスは男の治療の助けになろうとしていたという。
米国最強のスナイパーとして怖れられて男の最期は、
実にあっけなかった。

クリスが有名になったのは2009年の除隊後に
NYタイムズで連載を開始した”American Sniper"による。
9・11以降、テロとの戦いを進めたアメリカ軍内部のありようが
描かれた内容は迫真に満ち、連載当時から大人気となった。

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昨年2012年に満を辞して米国で発売されるやいなや
大ベストセラーになり、日本でも4月に翻訳本が発売されたので、
既に読まれた方もいるのではないだろうか。

特殊部隊がどのような働きをするのか、
また、イラク戦での活動や訓練など
全く知らなかった世界が臨場感あふれる文章で書かれている。
専門用語やよくわからない用語が出てくるが、
そこはまあ・・・仕方ないかな。

正直、『狙撃兵』という職業にはある種の違和感が伴うが
それにしても驚くのは彼の狙撃能力だ。
イラク戦で、はるか彼方にロケット弾を手にした敵兵が
味方の軍用車両を狙うのを認めたクリスは、躊躇なく
マグナム製ライフル銃を放ち、射殺したが、
その距離なんと2100ヤード、
キロにして1・9km!どやさ!

もちろんクリス自身も危険な目に相当遭遇し、
二度撃たれ、負傷している。
全てが真実とは言わないまでも
やはり内部にいた人間でないと書けない緊張感は、
自分もその場にいるような気にさせてくれる。
興味はなくても一度は手にとってもらいたい。

紅花紅子のブログ-sniper2
昨年4月発売された日本版
タイトルが恥ずかしい・・・。

クリスの名はイラクでも怖れられ、
ついには『ラマディの悪魔』と称され、
その首に懸賞金までついたというから、
彼の人生そのままが映画のようだ。

最初は2万ドルだったのが、
最終的には8万ドルにまで増額された。
ドルに直すと、少ないようだがイラクの人間にとっては
遊んで暮らせる金額なのだ。

ところで、こういった軍の特殊部隊等にいた人間の再就職先といえば、
大抵は国内のセキュリティ会社の経営となる。
当然、数々の軍功と勲章を授与されたクリスほどの者なら、
顧客も当然超一流、頼まなくても先方から
警護を依頼に来るほどだった。

日本はそうでもないが、やはり欧米、南米、アラブ地域となると
なにより要人の護衛や警護は欠かせない。
従って、軍で活躍した経験者が引き手あまたであることは
想像できるだろう。

クリスは除隊後精神を患った元兵士たちの社会復帰にも
力を入れていたが、その結果、自分が命を
落とすことになろうとは思いもよらなかったろう。
皮肉なことに彼の死によって、
本はさらに売れるのだろう。
ご冥福を祈ります。


紅花紅子のブログ-ab1
今、話題の黒田夏子氏の『abさんご』

横書き、ほぼ平仮名、説明・背景描写の一切の省略という
ある意味、小説の大前提を取っ払った異例の作品だ。
思うに、この作品を見せ付けられて、
悔しがっている人たちの顔が眼に浮かぶ。

円城塔氏もその一人だろう。
彼は、常に誰もまだ創りだせていない小説を
書こうと模索しているからだが、
おそらく、・・・やられた!という念を強くしていると思う。

面白いのはこの作品に対する書評だ。
これがまた興味深い。

最近の芥川賞は沈滞化していて、
作品そのものよりも著者の年齢・性別・出自などの
話題性で授与していた感が強く、
とても買ってまで読みたいものではなかった。

それに選考の過程がある程度読めるのも情けない話。
選考委員の名前を見るだけである程度想像できるのだ。

というわけで今回の『abさんご』の完成された特異なスタイルは
既に、周囲の評価などに微塵も揺らぎはしない。
誰もがある前提に則って創りだすものと
信じ込んでいるその大前提すら取っ払ったスタイルは
やはり絶賛に値するだろう。

従って、この作品にネガティブな評価をすることなど考えられないのだが、
早稲田大学教授の石原千秋氏の書評には大爆笑した。

彼は言う、
『この小説は祝福されて当然だ。
そう頭ではわかっていても、この読みにくさは僕に楽しみを
与えてくれなかったと、正直に告白しておこう。・・・』

これがこの作品を読了(大抵は途中で止める)した者たちの
嘘偽らざる本音だと思う。
この人は正直なのだ。

『abさんご』は小説の前提を取っ払ったものなので、
通常の味わい方で挑んでも、美味しかろうはずはない。
したがって、面白くないのは当たり前なのだ。
まずは、頭を切り替え、
新しい食材をジューサーでドロドロにして
点滴で流し込むとかの別の味わい方をしないと
きっと味はわからないと思う。

では、この完成されたスタイルに追随する者がいるか
と問えば、いないと答える他はない。l
唯一にして無比。
それが黒田夏子氏のスタイルなのだろう。

ところが、多くの知識階級は『わからない』なんて
とても言えないというわけで、無難な評論をするが、
石原千秋氏はこうも言う。
『芥川賞の最大の勝利者は、いまだに衰えぬ
威光を見せつけた蓮實重彦だったことになる。・・・』

そうか、あの蓮實重彦氏が絶賛したものを
落とすわけにはいかないよな。
バカに見えないよう努力する選者たちの心理も
垣間見える気がする。

それにしても石原千秋氏だが、
歯に衣せぬ物言い、いや書きっぷりに
時々、冷や冷やさせられる。
これだけ書くから、嫌う人もいるだろうなとか、
相当、悪口書かれているだろうなあとかね。

とはいえ、普通の読み手の感想を
書いてくれるので、人気もある。
実際、この人が書く文芸論は面白い。
共感することも多いが、たまには言い過ぎだろう!と
反発することもあるが、最近では珍しい戦う文芸論者という感じだ。

夏目漱石にいたっては、
『・・・同工異曲の家族小説しか
書けなかった苦労を思うからだ。・・・』という

漱石が家族小説って・・・。
それはないでしょう。
漱石が描きたかったのはやはり人間の心理であって、
家族小説と一括りにされる類いではないのだが、
そう書いちゃう?

この後、きっとツイッターや某サイトで
ケチョンケチョンに書かれたのだろうな~と
少し気の毒になった。

彼の良いところは直情型で潔いところなので、
皆さん、許してあげてちょうだいね。