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長らく仏BD(バンドデシネ)界で君臨し続け、
メビウスと共に人気を分かち合っていたブノワ・ペータース(原作)フランソワ・スクイテン(画)の
今尚、新作が出されている『闇の国々』が昨年両氏の来日と共に
待望の邦訳本が刊行された。
しかも二冊。
読みやすいのは『闇の国々Ⅱ』かもしれない。

コミック界においては、
日本の漫画
仏のBDバンドデシネ
アメリカのコミックとそれぞれの特色を出しているが、
それにしても『闇の国々』の邦訳は嬉しい。

その上、文化庁メディア芸術祭で初の漫画部門大賞に輝いたのが
この『闇の国々』なのだから、二重の喜びだ。
優秀賞には同じく仏BD界からもう一人
『ムチャチョ ある少年の革命』エマニュエル・ルパージュ作も選ばれた。
仏BDの質の高さを思わせる受賞だったと思う。

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左が原作者のブノワ・ペータース
右が作画のフランソワ・スクイテン

両氏ともに1956年生まれの同級生で、
このコンビは学生の頃から。
面白いのは、二人の経歴がそのまま作品に表れていることだ。
ブノワは哲学科を卒業しただけあって、
彼の代表作といわれる『闇の国々』にはその影響が濃い。
フランソワは両親共に建築家とあって、
彼の画は、非常に建築的で、人物はともすれば
狂言回しでしかなく、お世辞でも魅力があるとはいえない。

そう、彼らの作品の主役は都市であり、
塔であり、
磁力であり、
主役は決して人間ではない。

メビウスにもあてはまるが、
彼らの作品がSFの範疇にありながら、
思索的なのは、仏独特の教育カリキュラムが反映されているように思う。
というのも仏の学習プログラムには必ず『哲学』が
組み込まれているからだ
大学に入る前のバカロレア(試験)にも哲学は必修で、
時として、試験時間は4時間にも及ぶ。

こういった背景から、BDも非常に思索的で、哲学的だ。
したがって、日本の漫画に慣れた目には、奇異に映るかもしれないし、
内容も非常にわかりづらいと感じる方もいるだろう。
事実、最後まで読めなかったという人たちも少なくない。

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BDには優れた作品が多いが、
いかんせん仏語とあって、英語に比べ、格段に読める人が少ない!
従って、原書を購入できる人が少なく、
勢い、邦訳を待たざるを得ない状況だが、
価格が高いのが最大の難点なのだ。
この辺りをクリアしてもらえれば、ファンとしては大変嬉しいのだが…。

さて、『闇の国々Ⅰ』に収録されているのは、三篇。
『狂騒のユカルビカンド』
『塔』
『傾いた少女』

『狂騒・・・』は、
突如あらわれた古代の立方体が突然、とめどもなく成長をはじめ、
河によって分断されていた都市ユカルビカンドを
統一したかと思うと、立方体はまた新たに成長を始め、
人々は翻弄されるというお話。

『塔』は、
ブリューゲルの『バベルの塔』の絵に触発された物語で、
ファンの中では最も評価が高かった作品。
主役の顔がO・ウェルズ似なのは、
実際に取材を依頼して、スケッチしたからだという。

『傾いた少女』は、
冒険小説の先駆者ジュール・ヴェルヌへのオマージュというが、
個人的にはこのストーリーが最も気に入っている。
3つの独立した話がやがて一つにまとまる過程に
鳥肌が立った。

また、写真漫画という独自のスタイルも
編み出しているが、線画との違和感がないのは
やはりスクイテン氏の画力の高さだろう。

それぞれ全てが独自性を保ちつつ、
内容の高さに目を見張る。

ちなみに『闇の国々Ⅱ』は、難解なⅠに比べ、
とっつきやすいので、価格も比較的安価なⅡがお奨めかもしれない。


絵の好き嫌い、内容の難解さ、
そのうえ、大型美術本に近い価格(4000円前後)ではあるが
機会があれば、是非一度手にとって
BDの質の高さを実感してもらいたいと切望するばかり。
ある種のカルチャーショックを受けること間違いなし。

個人的には今年の抱負は
BDが読めるくらい仏語を極めたいと思うのだが、
Je suis Japonese.
程度ではいかんのよ!

ところで、BSの夜中に昨年から
70年代洋楽やら80年代洋楽やらを放映していたのですが、
ご存知ですか?

年が明けてからは60年代洋楽ですが、
セレクションしている方がロック畑
(ひょっとして渋谷陽一だったりして・・・)の人なので、
もっぱらロックの人が多いのだけど、
たまにアレサ・フランクリンだとか、オーティス・レディングやらが
出てくるので、気が抜けないのですよ。