$雑食食堂

★★★★☆

ベストセラー作家・高村薫が1990年に発表し、第3回日本推理サスペンス大賞を受賞したクライム小説を井筒和幸監督、妻夫木聡主演で映画化。過激派や犯罪者相手に調達屋をしてきた幸田は、大学時代からの友人・北川から銀行地下にある15億円の金塊強奪計画を持ちかけられる。幸田と北川は、銀行のシステムエンジニア・野田、自称留学生のスパイ・モモ、北川の弟・春樹、元エレベーター技師の爺ちゃんを仲間に加え、大胆不敵な作戦を決行する。共演は浅野忠信、桐谷健太、溝端淳平、チャンミン(東方神起)、西田敏行。

井筒監督が雑誌連載当初から映像化を熱望していただけあって(王様のブランチのトークの時に20年前の雑誌を持ち込んできた監督の入れ込みっぷりにスタジオが若干引いてたのが面白かった)、物凄い力の入った作品になっていた。傑作。

オリジナルの脚本で挑んだ前作『ヒーローショー』の、途中でダレた展開になる感じがあまり好きではなかったが、本作は読書好きなら誰もが一度は読んで挫折した事のある高村薫が原作。完璧とも言える物語なので(とは言いつつ高村作品は『マークスの山』しか読んだことがないです…)後は二転三転する展開にハラハラしっぱなしの2時間だった。

妻夫木聡が主演という形だが、出てくる6人の男が正に適材適所といった感じで役になりきっている。原作を読んでいたらまた印象は変わっていたかもしれないが見事にハマっていて良かった。

特に左翼活動家とのしがらみが断ち切れない妻夫木と、北のスパイを裏切った過去を持つチャンミン(この役はSMとしてはにいいのか?!)を中心に描かれるが二人とも「影を持った顔」になっていて、演技が素晴らしい。

胡散臭さMAXの浅野忠信やおちゃらけた桐谷健太、メンヘラ気質の溝端淳平も水を得た魚のようにスクリーンに出てくる。男まみれのホモソーシャルな空間で繰り広げられる犯罪劇はいわゆる腐女子にも大ウケだと思う。

20年以上も前の原作に加え、昭和っぽい画づくりが好きな井筒監督なので物語は現代風にアレンジされているが、どことなく古臭い感じなのが人によってはマイナスか。
強奪作戦自体物凄いアナログな手法だし。


大筋の金塊奪還にいたるまで、メンバーの抱える様々なトラブルに巻き込まれる一行だが、そこここかしこに伏線が張られているので、本当に飽きない。
中でも震えたのが「おたふく風邪」にまつわる浅野と妻夫木の雑談。物語の本筋とは関係ないのだが、ゾッとさせられた(ある意味本筋以上に気になった)。

安易なドラマの映画ばっか流行る絶望的な状況だが、今年の邦画は結構骨太な作品が多いので結構嬉しい。特に本作は、韓国映画とも真正面からはり合えるのではないだろうか。