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★★★★

スティーグ・ラーソンの世界的ベストセラーを映画化したスウェーデン映画「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(2009)を、「セブン」「ソーシャル・ネットワーク」のデビッド・フィンチャー監督がハリウッドリメイクしたミステリーサスペンス。経済誌「ミレニアム」の発行責任者で経済ジャーナリストのミカエルは、資産家のヘンリック・バンゲルから40年前に起こった少女ハリエットの失踪事件の真相追究を依頼される。ミカエルは、背中にドラゴンのタトゥをした天才ハッカーのリスベットとともに捜査を進めていくが、その中でバンゲル家に隠された闇に迫っていく。主演はダニエル・クレイグと「ソーシャル・ネットワーク」のルーニー・マーラ。(http://eiga.com/movie/56065/より)

デビッド・フィンチャーの凄いところは、彼の監督作品だと知らずに単純に作品単体で「面白そう!!」だと感じさせるところにあるな、とにわかファンながら思う。
『セブン』や『ファイトクラブ』等は高校時代に彼の監督作品だと知らずに観ていて好きだったし、周りの友人もフィンチャーの作品だと知らなくても『ソーシャルネットワーク』や『ベンジャミンバトン』は知っていると言う人が多い(因みにイーストウッドやコーエン兄弟、タランティーノ辺りは作品名を挙げても分からないと思う。映画に興味のない大概の大学生はそんなものだ)。
そんなわけで本作もフィンチャーは知らなくとも「観たい!」と思っている人は結構多く、作品単体で日本で勝負できる海外の監督だなぁと思わせられる。やはり異常にカッコ良いオープニングのお陰だろうか。(煽りの文字はダサいけども)

本国の映画版はあまり良い印象を持たなかったが、フィンチャーはさすがハリウッドの一流監督なだけあって原作のメッセージを上手くスポイルして、2時間半の時間に収めるべく分厚い原作の中身を丁寧に取捨選択していった印象がある。そして何より素晴らしいのがリスベットを演じるルーニー・マーラ!!ありきたりな表現で申し訳ないがホントに本から飛び出してきたのではないかと思えるほどに、ハマりすぎてる。

当然ながら映画は小説と違い「地の文」が無い。だから小説ではリスベットがひたすら無愛想に振る舞っていても、その時の心理描写が地の文で説明されるので彼女がどういう心理でその行動を起こしたかが手に取るように分かる(勿論要所要所で巧みに省略されている部分もあるが)。それが映画となるとまさか心理状態をいちいちナレーションするわけにもいかないので(なんと日本映画ではそれをやってのけるトンデモ作品があるらしいが)、表情の変化やシーンである程度表すしかない。
原作とフィンチャー版のリスベットを客観的に観ると、少しフィンチャー版の方は感情が豊か過ぎるかもしれない。しかしこれくらいやった方が原作未読の人にはリスベットと言うキャラを見ただけで理解できるだろうし、原作ファンはリスベットと言うキャラをはじめから知っている分サービスと割り切って楽しめる。

逆にミレニアムシリーズのもう一人の主人公でもあるミカエルのキャラがイマイチ今作だけだと分かりづらい印象がある。
と言うのも、原作だとミカエルはかなりのプレイボーイで、シリーズ毎に様々な女性と肉体関係を持つ、裁判で負けて貯金が底をついたくせにリア充っぷりが半端ないジャーナリストなのだが(これはミカエル同様ジャーナリストであった原作者の欲望が大いに詰め込まれていると思う)、フィンチャー版のダニエル・クレイグ演じるミカエルはただのくたびれたおっさんのイメージが強い。
実は原作だとミカエルはセシリアと親しくなり、肉体関係を持つのだが(映画ではヴァンゲル家の説明が目まぐるしくて原作未読だと「誰?」と思われるだろうが)それを映画だと排除してしまっているのと、狙撃され脅えてしまっているミカエルを慰めるような展開でリスベット主導で関係を持ったりしている部分が、あまり彼を「色男」と言う印象を抱かせないためだ。
実はミカエルのこのセックスに対する価値観が、原作だと大いに彼の考えの根幹を成すものでもあるのであまり損なって欲しくなかったなと思った。

しかし映画ならではの面白さも当然ある。真犯人がミカエルを捕えてからエンヤを流し始めるシーンはあまりの狂気とそのベタベタさが相まって最高の珍シーンになってたし、原作通りのラストシーンは映像で見るとより切なさが増す。スウェーデン版ではカットしていたのが驚きなくらい良いシーンだ。

スウェーデン版と違い本作は3部作を前提として作られているわけではなく、例えばハリエットのオチの省略の仕方やリスベットの後見人であったパルムグレンの脳卒中後も大分踏み込んだ解釈で作られているが是非ともシリーズ化してもらいたい。
「ドラゴンタトゥーの女」はこのシリーズの世界観を知る踏み台でしかないと言いきってもいいくらい、「火と戯れる女」と「眠れる女と狂卓の騎士」の面白さは凄まじいからだ。(その分未完の4部が惜しい)

序盤では最低のクソ野郎でしかないビュルマン弁護士も、シリーズを重ねて行く毎に酷い扱いを受けるある種のマスコットキャラみたいになっていくのも裏の見所。彼は出てくる登場人物全員に軽蔑されていて、最早憐れみすら覚えてしまう。

しかしここまで書いておいてなんだが、ミレニアムシリーズはやはり小説で読んでこそだと思う。
原作は章の前に必ずスウェーデンで如何に女性が虐げられているかが説明される(「スウェーデンでは女性の18パーセントが男に脅迫された経験を持つ」、「スウェーデンでは女性の46パーセントが男性に暴力をふるわれた経験を持つ」といった風に)。
こうした「物語の外」から告発される残酷な事実が、物語の中の女性たちに密接にリンクしている事に気付く。
そしてその悲劇を乗り越えて行くリスベットをはじめとする作中の女性たちが(そしてそれをサポートする男達が)読む人を勇気付けるのだ。エンタメ作品は時代に則したメッセージを取り込むべきだと考える人間にはうってつけの小説だ。

だから話の区切り区切りで原作にもあった文章を挟んでもらえたらより原作の持っているメッセージが強く伝わったのでないかなと素人ながら思うのだ。

【補足】
映画.com→来日中のD・フィンチャー「ドラゴン・タトゥーの女」シリーズ化を示唆 リンク
「残る2作の映画化に期待が寄せられるなか、フィンチャー監督は『まずは本作を多くの、とにかく多くの皆さんに見てもらわないと、2作、3作と続いていかないよ』とシリーズ化の可能性を否定しなかった。」
と言うわけで皆さん劇場に足を運びましょう!!


ハリウッドでの映画化も決まった、書店で大展開されてるスウェーデン産ミステリですが、◯◯になぞらえて人を殺すとかって、欧州では手垢の付いた話じゃ無いのか…と思いながらも800ページある本は一日で読み終える位の読み易さ。

設定よりもキャラが物珍しいのかな。
性豪の経済ジャーナリストと、ツンデレも搭載した綾波レイみたいな女の人のダブル主人公が良い味だしてるのかも。(二人が出会うまで上巻丸々使って引き伸ばしているのも上手いと思った)

後、スウェーデンが根本的に抱えてると思われる社会的問題(女性/人種差別)も、強烈な脇役を使って抉り出していて、非常に考えさせられる。これを自国では三人に一人が読んでるんだもんね。

取り敢えず次作も楽しみ。