「出ようか」
食事が終わると早々に店を出た。
このあたりに1軒しかないレストラン。職員やその家族が訪れたら気まずいのだと言っていた。
車は走り出した。沈黙が続く。
その沈黙に耐えられなくなった私が口を開いた。
「そういえば、この間、私の大学時代の友達が結婚したんです」
「そう」
彼は短く答えた。
「彼女は旦那さんと共働きを始めたんです。忙しいけど、充実してるって言ってました」
Wさんはハンドルを握り、進行方向を見つめたまま言った。
「あ~…甲斐性のない男と結婚すると大変だね。結婚してまで外で働かないといけないなんて」
その声には、軽蔑の色が込められていた。
わたしは ムカムカムカ… と腹立たしさが湧きあがってくるのを抑えられなかった。
この言葉を聞いてわかった。
いや、最初からわかっていたことだが
私とWさんの価値観は180度違う。
そして、はっきりした。
私は、結婚しても外で働きたいのだと。だって、働くことが好きなんだもの。
その時である。車が止まった。
目の前には海が広がっている。美しい風景の中
彼が私の顔に、自分の顔を近づけてきた。
キスされる!?
(((゜д゜;)))
私はとっさに ブン!! と顔を下に向けた。
行き場を失った彼の唇が、私の前髪にあたる。
…うわ~~、きまずーーーい………
( ̄_ ̄ i)
私は、下を向いたままで言った。
「Wさん、すみません。どこにもよらずに駅に向かってください。私、今日はもう帰ります」
駅に着くと、Wさんは東京までの切符を買ってくれた。
飲み物と、お弁当と、家族へのお土産まで買ってくれた。
動き出した電車に、彼はホームから手を振った。
姿が見えなくなるまで、ずっと、手を振っていた。
いい人なんだ。それはわかってる。
ただ、私とは合わなかった。それだけのこと。
――――――――
読んでくださってありがとうございました。
「婚活珍道中」 続々更新中です♪