「はい。大丈夫です」
「良かった。じゃ、今日はもう遅いから…おやすみなさい」
おやすみなさい。
そう言って電話を切った。
頭の中に浮かんできたのは、乗馬デートのAさんのことだ。
「次はきららさんから連絡してね」
別れ際、彼はそう言った。
そして今朝までは、すぐにでも連絡するつもりだった。でも今は…
Wさんのこともあるし、もう少ししてから連絡しようかな
だって、Aさんのことを考える暇を与えないほどに、Wさんのアプローチは積極的なのである。
出会った次の日の夜も、その次の日の夜も、その次の日の夜も
一日も置かずにWさんは電話をくれた。
しかも次第に、彼の声は熱を帯びていく。
もはや、私を「気に入っている」という域を超え、「嫁にしたい」というニュアンスのことを繰り返し口にするようになっていた。
私を褒めちぎる。褒めちぎる。褒めちぎる。
よくわからないが、彼にとって私はまさに理想の女性だった…らしい。
仕事で疲れた心に褒め言葉はよく効く。次第に彼の電話を心待ちにするようになっていた。
その他の会話の内容は、彼の仕事に関することが大半であった。
私はもっぱら聞き役。
たまに私が口を開いても、彼はいつの間にか自分の話題へと持って行ってしまう。
きっと、この人はずっと誰かに話を聞いてほしいと思っていたんだな。
孤独なんだな、きっと…。
彼は私を必要としている。そう感じた。
そして、久しく味わっていなかったその感覚が、嬉しくもあった。
でも、このまま彼との関係を深めていっていいのだろうか。
これまでの会話の中で彼が家庭的な人を求めていることは明らかであり、私はいま現在、お世辞にも家庭的とは言い難い人間である。
ある夜の電話で、私は言った。
「Wさん、私を気に入ってくれてありがとうございます。でも、私は料理もヘタだし、Wさんが思っているような奥さんになれる気がしないんです」
「大丈夫。料理なんて、やる気になれば誰でもできるから」
……。
そうかなぁ…。
確かに、やればできるかも知れないけど
問題は「やる気になれるか」なんだよなぁ…。
好きな人のためならできるかも知れないけど、いま、私がWさんを観察する目はすごく冷静で…
褒めてくれるのは嬉しいけど、
まだ、Wさんを好きじゃない。
きらいじゃないけど、これから、愛せるかもわからない。
でも、彼は私を必要としている。
結婚って、お互いがすごく好きじゃなくてもできるってよく聞くけど、
こんな気持ちのまま、結婚する気満々のWさんとの付き合いを続けてしまってもいいのだろうか。
お互いに、時間の無駄になりはしないだろうか。
そんな思いを抱えながら1週間が経った夜。
Wさんから電話がかかって来た。
「きらら……」
あれっ、呼び捨て?
「何してんのぉ~いま~
(≧▽≦)」
…はっ?
なんだ??
酔っぱらってる?
「Wさん?どうしたんですか?なんか声が変ですけど」
「はぁ~?変じゃないでしょ~フツ~でしょ~ヒャハハハ」
普通ではない。
確実にロレツが回っていないし、会話の内容も支離滅裂なのであった。
そして、
その理由は、酒ではなかったのである。
――――――――
読んでくださってありがとうございました。
「婚活珍道中」 続々更新中です♪