最近、日本のNGO界隈では確実にベビーブームが起こっている。

数えてみたら、親しい知り合いだけで 11人 の新米ママがいた。



この突然のベビーブームについて、


「今年が旧暦では300年に一度といわれる 『幸福のイノシシ年 / Golden Pig Year』 だからだ」

と言う人もいるし、


「ブルーベリーは、異常気象なんかで森が壊滅する前の年に実をたくさんつけるんだ。

 来年、日本や地球にもなにか壊滅的な変化があるのかもしれない」

と恐ろしいことを言う人もいるし、


新聞は好景気と少子化ストップの関係性を書きたてているし、

あとは単に、私がそういう年になっただけ、という話もある。




とにかく、新しい命が生まれるのはメデタイことだ。


スタッフ数が160人くらいのピースボートの中だけ見ても、

今年に入ってから赤ちゃんを迎えるカップルが4組いるんだから、本当にメデタイ。


先週、その中の1人、ソフィアちゃんが生まれた。

友達の新米ママ・レイチェルが70時間の陣痛に耐えた末に出会えた、愛しいいのち。


春日和の桜に祝福されるようにして、目白にある聖母病院で生まれたソフィア。

ギリシャ語で 「wisdom」、「本当に大切な智恵」という意味の、きれいな名前の女の子だ。


優しくてかわいいイギリス人のお母さんと、つねに海外を飛びまわる豪快な日本人のお父さんに愛されて、

これからどんな子になるのかな。




sophia03   sophia02



ソフィアのお父さんは、国際会議や海外での交渉が主な仕事。

普段はほとんど日本にいないのに、最近は海外出張が少しずつ減っていた。


ソフィアが元気に生まれてくるように、レイチェルと一緒に散歩したりするためだ。 エライ!



先週、月曜日の朝にそんなレイチェルの陣痛がはじまってから、みんなでソワソワして続報を待っていた。


火曜日になっても進展がなく、水曜日の昼になってようやく 「女の子が生まれた!」 のニュースが届いた。


合計、70時間以上の陣痛だった。私の11人の妊婦友達の中では、ダントツに史上最長だ。


その間、パパはずっとレイチェルのそばにいた。




レイチェルは日本語がペラペラだけど、それでも、異国での出産はたいへんだ。


陣痛の真っ最中に「はい、そこで一呼吸おいてから腰を軽く右にひねってください」

…とか日本語で言われても、スッと頭に入ってくるわけがない。


その上、気がはっているから、微妙なニュアンスを聞き逃しただけでも、

自分はすごく重要な指示を聞き逃したんじゃないかと不安になる。


パパは、「俺の英語だって、そんなん訳しきれんけど」と言いながら、ずっとそれをサポートしていた。 エライ!!


その間、いろいろ思うところがあったみたい。


「70時間もあったから、その間、担当の助産婦さんが5回交代したんやで。考えられるか?


 長い陣痛の間、ことばの壁もあるけど少しずつ話をしていって、

 ようやく信頼関係ができはじめたところで 『勤務時間終了なので』 って言って交代。

 また次の人がきて、ゼロから信頼関係作るやろ。


 助産婦さんはな、いい人ばっかりやねんで。5人とも、ほんまに良くしてくれて。

 だけど、病院システムのほうに問題があるんやな。


 何で時間かかったかって、要するに、ソフィアのアゴが、ほんの少し上向きだったから、

 それがひっかかってなかなか出てこれなかったらしい。


 でもそんなん、愛の逆子なおしの話 聞いてたら、病院の医者にちょっと赤ちゃんを触る技術があれば

 もっと楽にしてやれたんじゃないかって思ってしまった。


 病院はそんなことなにもせんと、なにかというと陣痛促進剤使おうとしたり、

 帝王切開の可能性を言うたりするやろ。レイチェルは自然に産みたいて言うてんねんのに、

 あの状況の中で産むの、しんどかったと思うわー。


 だからな、これは、ほんま日本の医療のシステムをなんとかせなあかん問題だと思う。」


「昔は、産婆さんも、近所のおせっかいおばさんも、生まれてくる赤ちゃんの兄弟姉妹も、

 みんなお産に立ち会ってたやろ。


 最初から最後まで妊婦さんと一緒にいることで、

 みんなが生まれてくる赤ちゃんの命の大切さみたいなもんを自然と体に刻み込んでたんやろ、きっと。


 その共同体的なつながりが絶たれて、お母さん自身の陣痛の時間も薬で短くなるようになって、

 そういうところから、命を大切にできない世の中のひずみみたいなもんが生まれてきたのかもしれん。


 俺も、70時間、ほんまいろいろ考えさせられたわー」



命のメカニズムって本当に不思議で、フツウの科学じゃ説明できないようなことがたくさんある。


お腹の赤ちゃんは、4ヶ月頃から外の光を感じられるようになって、

6ヶ月頃から外の音が聴こえるようになって、8ヶ月頃からお母さんの感情がわかるようになるという。


もう9ヶ月目に入った私のお腹の赤ちゃん。


他の赤ちゃんを抱いたり、ご飯を食べる前の時間になったり、

特定の音楽を聴いたりすると (うちの場合は沖縄の音楽と、なぜかお寺の「お経」が好きみたい)、

お腹の中でお祭りがはじまったんじゃないかと思うくらいに、大騒ぎする。


これだけ科学が進んでいても、なんでそうなるのか、たぶん誰もちゃんと説明できないと思う。


確かに、西洋医療の進歩が進んで、

陣痛促進剤でひどい副作用が出た話も、帝王切開が失敗した例も、あまり聞かなくなった。

医療介入をしながらのお産のほうが、自然分娩よりも安全なケースもたくさんあると思う。

今、日本で病院ではなく助産院を選んで「自然分娩」する人は、妊婦人口の5%しかいないという。



だけど、私はどうしても自然に出産したいと思った。




最初、病院ではなく助産院を選んだときは

「なんとなくそのほうが落ち着くから」くらいのノリで、まったくの無自覚だった。


でも、逆子ちゃんが治らなかったときくらいから、

どうして自分がそんなに自然分娩にこだわるのかいろいろ考えるようになった。


たぶん、ソフィアのパパの言う、昔の日本には確実にあった 「つながり」や、

自然な陣痛のあいだに体で感じるようなことを大切にしたいと思ったんだ。 無意識だったけど。



sophia01




「俺な、今から考えてしまうねん。


 ソフィアが大人になって彼氏連れてきて、結婚させてくれとか言われるとするやろ。

 そしたら、ひとつだけ言わな気が済まないことがある。

 

 ソフィアの陣痛がはじまってから赤ん坊の生まれるまで、

 何があっても、ほんまどんな大切な仕事があっても、

 絶対にずっと、ソフィアと一緒にいてくれるか?


 って、それだけ、絶対確認しよと思った。」



出産2日後、レイチェルを訪ねて病院に行くと、

デレデレの顔でソフィアを抱き、レイチェルに優しいことばをかけるパパがいた。


もちろんソフィアもかわいいんだけど、

新米パパってすごくかわいいものなんだねえと、みんなで笑った。





戦後ながらく、日本では男性の立会いのないお産が普通だったけど、

出産は、きっと男性にとっても本当に大切な経験なんだと思った。


あたりまえのようでいて、忘れられていることが、世の中にはたくさんある。






私は、昨日から正式に産休に入った。

お腹の赤ちゃんは、明日で36週目をむかえる。

予定日は5月3日だけど、37週目からは、一応もういつ生まれてもおかしくない 「正期産」 の時期。


自然出産のために体づくりをするお母さんの多くは、

かなり頑張って玄米菜食にしたり、甘いものをひかえたりしているものだ。

NGO界隈にいる11人の妊婦友達の多くも、みんな頑張って、かっこよく自然のお産をこなしている。


私は、最後の最後までフツウに夜まで仕事しっぱなしだったし、

甘いものやフルーツもそんなには気にせず食べてしまうライフスタイルだった。

助産院に行くと、だいたいいつも怒られる。



これ、レイチェルも似たような感じだった。 



もしかして私も、自然出産しようと思ったら70時間の陣痛に耐えなくちゃいけないのかと思うと、今から心配。

自分の体ももちろんだけど、それに付き添わなくちゃいけない大悟が心配。

長い時間がんばらなくちゃいけない赤ちゃんも心配。



新米パパのためにも、新しい命のためにも、

ちゃんといいお産をして、いいお母さんになれますように。



今晩は、玄米を炊くことにしよう。