もう1曲バンドにリクエストしたのはクラプトンの「Wonderfull Tonight」
この曲を知ったのは実はごくごく最近で、2006年。

今回辞めた会社が創立10周年をむかえた当時、創立記念のパーティーが会社で企画されました。
実行メンバーのひとりだったわたしは、そのパーティーでサプライズで放映する
10周年記念ビデオの制作担当になりました。

ビデオには社史と共に創立当初からこれまでお世話になった方々や関係各位から
お祝いのメッセージも頂戴し、入れることになったのです。

俳優の中村トオルさんもそのひとりでした。

発足当時の小さな会社は現在とまったく異なる業態だったため、
会社というよりは社長個人が仕事でお付き合いがあったという経緯からでした。
ビデオ出演はかないませんでしたが、代わりにお手紙を頂戴しました。


トオルさんがまだご結婚をされる前、仕事で社長と共にヒマラヤ登頂に挑戦されました。
「大丈夫、大丈夫。ゆっくり登れば楽ですよ」と半分社長にそそのかされて
パキスタンの旅に出たそうです。
実際には楽なわけはなく、約1ヶ月間寝食を共にし、
苦しく厳しい時間を共有した旅だったそうです。


登頂途中のとある日の夜、キャンプを張り外で食事をしていると
トオルさんのカセットテープからクラプトンの「Wonderfull Tonight」が流れてきたそうです。

あまりの厳しい日々に既に疲れ果てていたトオルさんの口から出るのは
弱音と愚痴ばかり。

「何がワンダフル・トゥナイトだよっ」とすねて呟いたトオルさんに、
「ワンダフルトゥナイトじゃないか!」と力んだ社長は
気持ち悪いほどの星たちが輝く夜空を指差したそうです。

今なら素直に言える。
「ワンダフル・トゥナイトでした」


お手紙ではそんなエピソードを披露して下さいました。


散々弱音を吐き、文句を言いながら山道を歩いたあの日々は、その後の基準値となり、
肉体的にも精神的にもキツイことがあってもヒマラヤ登頂に比べれば大したことない。

かつて三蔵法師が約束のために越えたと伝え聞く、
アフガニスタンとの国境近くの4500mの峠は今でも僕にとって生涯、
もっとも大空と太陽に近い場所です。

「自分はそれくらいは越えられる」

そんな、ささやかな自信のみなもとです。

僕の人生でもっとも重要な経験の一つといえる経験をさせてもらい感謝している



・・・という内容でした。


いい話でしょーー?
ざっくり概要を書いただけですが、実際のお手紙は文才を感じるもっともっと素敵な内容で
心から感動したのを覚えています。


ヒマラヤのそんな夜にこの曲が偶然流れてくるなんてね・・・。
現実はドラマよりもドラマティックなり。

その心揺さぶられる感動的なお手紙の朗読のバックミュージックで
この曲を流しました。
曲の雰囲気とあまりにマッチしたこのエピソードがきっかけで好きになったのでした。
*「Wonderfull Tonight」の実際の歌詞はこの話とはかすりもしない内容なんだけどね。