「サーフィン・バード」と山田邦子の共通点とは | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

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先日のエントリで「アメリカン・ポップス業界のこういういい加減なとこけっこう好きだったりします。」と書いたのですが、その後でトラッシュメンのこと調べているといろいろと面白いことが分かってきましたので、徒然なるがままに書いてみたいと思います。

先日ご紹介したサーフィン・バンドである彼らの名前を一躍有名にしたのは全米4位という大ヒットとなった「サーフィン・バード」です。ちなみにトラッシュメンの出身地は先頃亡くなったプリンスと同じミネアポリス。ということで海のない土地の「まがい物」サーフィン・バンドです(笑)。

The Trashmen/Surfin' Bird


写真をアップしたベスト・アルバムでこの曲の作家クレジットを見るとFrazier-White-Wilson-Russellとなっています。

これは前回書いた「サーフィン・バード」の元ネタであるリヴィングトンズの「パパ・ウム・モウ・モウ」のクレジットCarl White, Al Frazier, Sonny Harris, Turner Wilson Jr.に準じたものとなっています。当り前ですねどう聞いても同じ曲ですから。連名のうちSonny Harrisの名前が消えて「サーフィン・バード」ではRussellという名前が登場しているのはHarrisとRussellが作詞担当だったからと思われます。曲は同じだけど歌詞、といえるかどうかは置いといて、は違ってますからね。

RIVINGTONS - PAPA OOM MOW MOW


すこし本題からそれちゃいますが。62年にリバティ・レコードから発売された、この「パパ・ウム・モウ・モウ」は48位の小ヒットとなりますが、それに気をよくしたのか2匹目のドジョウを狙ってリヴィングトンズは「ママ・ウム・モウ・モウMAMA OOM MOW MOW 」という曲をシングルで発表しています。

RIVINGTONS - MAMA OOM MOW MOW


こちらもクレジットはCarl White-Al Frazier-Sonny Harris-Turner Wilson Jr.というリヴィングトンズのメンバー4人。ヒットが出た後は同じ路線でというのはよくあるのですが、ほとんど替え歌ですからね。

ところでこの「パパ・ウム・モウ・モウ」という変なタイトルはどういう意味なのか?歌詞の中ではこの「パパ・ウム・モウ・モウ」のことを”これまで聞いた中で最もへんな響き(Funniest sound I ever heard)”で全く理解できないが”今や国中にこれが広まってる(And now it's spreadin' all over the land)”と歌われていて、どうやら意味のない言葉のようにも感じます。

The Bird Is The Word by the Rivingtons 1963


ただ、前回も書きましたがリヴィングトンズはこの曲の後で、トラッシュメンの「サーフィン・バード」というタイトルに直截的つながるであろう、これまた替え歌的な「バーズ・ザ・ワードBird's The Word」(前回はBird's The Worldと書いたのですがWordが正しいみたいです)という曲を発表し、「パパ・ウム・モウ・モウ」「ママ・ウム・モウ・モウ」そして「バーズ・ザ・ワード」の3曲を収録したアルバム『ドゥーイン・ザ・バードDoin' The Bird』を発表しています。




”鳥をやろうぜ”っていうタイトルなるかと思うのですが、どういうこと?

ここで思いだしたのが映画「ブルース・ブラザース」に出てきたレイ・チャールズ御大が歌う「シェイク・ア・テイル・フェザーShake A Tail Feather」のこと。




元々は63年のファイヴ・デュ‐トーンズThe Five Du-Tonesのダンス・ナンバーのカバーなのですが、映画の群舞シーンのために加えられた歌詞ではかって流行したダンス・スタイルが読み込まれています。

Do the twist
Do the fly
Do the swim
And do the bird
Well do the duck
Do the monkey
Watootsie 


タイトルも「尾羽を振れ」、そうです当時「バード」というダンス・スタイルがアメリカで流行っていてそのために作られたのが「シェイク・ア・テイル・フェザー」であり、リヴィングトンズのアルバムもタイトルにしてもデザインにしても「バード」を踊るためのダンス・ナンバー・アルバムとして制作されたと考えられます。

それを証明するかのようにシングル「バーズ・ザ・ワード」のピクチャースリーヴの裏面には「バード」の踊り方らしきものが写真入りで説明されています。



で、あらためてアルバムのジャケを見返すと、ヒット・ナンバーとして他の収録曲よりフォントも大きくかつ白抜きの文字でフェーチャーされている「パパ・ウム・モウ・モウ」と「ママ・ウム・モウ・モウ」の上にはシルクハットを被った雄鶏と髪飾りをつけた雌鶏のイラストが配されています。このことから考えると、この2曲ももともとは「バード」ダンスのために作られていたであろうことが想像できます。

では「パパ・ウム・モウ・モウ」というタイトルと「バード」ダンスには何か関係があるのかとという本題に戻ります?ですが、ここからは完全に推測となります。R&Rエラの前から現在にいたるまで西欧にはチキン・ダンスというダンスが広まっているようです。それはこんなものみたいです。




大の大人たちが子供みたいにはしゃぎまくっていますね。この「チキン・ダンス」がどれほど西欧社会で浸透しているかは検索中に偶然見つけた下のビヨンセのコンサートの動画を見ればおわかりいただけるのではと思います。



しっとりと歌っていたのにいきなりチキン・ダンス、このパフォーマンスを日本でやったとしたら「何?ビヨンセおかしくなっちゃったんじゃないの」となることは間違いなく、笑いを取るどころか思いっきり引かれてしまうでしょうね。

「チキン・ダンス」についてウィキには次のように記述されています。

The "Chicken Dance," also known as the Birdie Song or the Chicken Song, is an oom-pah song and its associated fad dance is now a contemporary dance throughout the Western world. The song was composed by accordion (Handharmonika) player Werner Thomas from Davos, Switzerland, in the 1950s.


「バーディー・ソングもしくはチキン・ソングとしても知られているチキン・ダンスは、ウム・パー・ソング(oom-pah song)です」という一文にひっかかってしまいました。「ウム・パー・ソング」って何だ、これまたウィキではこう書かれていました。

Oom-pah, Oompah or Umpapa is the rhythmical sound of a deep brass instrument in a band, a form of background ostinato.

どうやらブラス・バンドによるリズミカルはナンバーのことのようです。具体的にどんなの?ってYOUTUBEで探してみるとAnsambel Slovenski Zvoki というウム・パーの代表的なバンドの演奏がみつかりました。

Ansambel Slovenski zvoki - Venček Avsenikovih


なんかゴンチチの「世界の快適音楽」みたいないなってきましたが、実はOom-pahで検索するといちばん最初にヒットするのはこの動画です。




68年のミュージカル映画「オリバー」の中のワン・シーンです。映画「オリバー」はもともとはディケンズの小説「オリバー・ツイスト」を原作にして60年にイギリスで上演された大ヒット・ミュージカル「オリバー」が元になっていて、この「オリバー」の中の楽曲は日本でも親しまれていたようで、こんな動画も見つかりました。

ウンパッパ/杉並児童合唱団


今日は、話がどんどんそれていって申し訳ないのですが、この杉並児童合唱団が歌うのを聴いていて連想したのは邦ちゃんのひょうきん絵描き歌です。というか絵描き歌ってだいたいウンパッパーウンパッパーですよね。ルーツはこんなとこにあったんですね。

オレたちひょうきん族 ひょうきん絵描き歌1



すみません、話を戻すとこのウンパッパー先のウィキの引用でみると「Oom-pah, Oompah or Umpapa」という風に同じような音でいろいろな表記があるようです。うん、まてよこのOom-pahやUmpapaとPapa Oomってなんか似てる気がしませんか?ちょっと無理矢理のこじつけかもしれませんが「Papa Oom Mow Mow」っていうタイトルは「Oom-Pah」をもじって作られたものではないか、そう妄想していまいました。

「サーフィン・バード」と「ひょうきん絵描き歌」はルーツを辿ると同じ歌だったということになるんじゃないかと(笑)。って今回書きたかったのはそんなことじゃなくって・・・。

「サーフィン・バード」の作者クレジットは「パパ・ウム・モウ・モウ」と同じと最初に書きましたが、実は発売された当初のクレジットは違ったものでした。



ちょっと見辛いかもしれませんがスティーヴ・ワーラー(Steve Wharer)というトラッシュメンのリード・ボーカルの名前が作者としてクレジットされています。これがリヴィングトンズの関係者のめにとまり、どう聞いても同じだろということでリヴィングトンズから訴えられて、クレジットを変えさせられたということがあったようです。

と、まぁここで終わっていれば、しょうがねぇ奴らだなトラッシュメンくらいで終わるとこなのですが、さらなるエピソードがあるのはここからです。(やっとホントの本題です)。

トラッシュメンは「サーフィン・バード」の大ヒットの2匹目のどじょうを狙って同じくバードものの新曲「バード・ダンス・ビート」を発表します。

Bird Dance Beat - The Trashmen


「サーフィン・バード」が全米4位という特大ヒットでしたので、そこには到底及びませんがそれでも30位に上るスマッシュ・ヒットになっています。この曲だけを聴けば「パパ・ウム・モウ・モウ」と似てるかなくらいかも知れませんが、間に「バーズ・ザ・ワード」と「サーフィン・バード」をかませばほとんど同じ歌と思えてしまいます。ですから作者クレジットはリヴィングトンズのメンバーの名前になるかと思いきやクレジットがG.ギャレット(G.Garret)となっているのです。この名前もちろんリヴィングトンズのメンバーではなくトラッシュメンの発売元であるギャレット・レコードを主宰しプロデューサー、エンジニアでもあるジョージ・ギャレットのことと思われます。

ジョージ・ギャレットが「サーフィン・バード」のクレジットでもめて結果として印税をごっそりもっていかれた苦い経験をしながら、ふたたび「パパ・ウム・モウ・モウ」を下敷きにしたような「バード・ダンス・ビート」を発表したのは、元々48位どまりだった「パパ・ウム・モウ・モウ」のメロディをヒットさせたのはトラッシュメンによる激しいアレンジが故だという自負があり、あえてパクリと言われないぎりぎりのところまで似せたということではないのか。

いずれにせよギャレットというクレジットだとトラッシュメンには印税が入らないわけで、結局トラッシュメンはバードならぬトンビに油揚げをさらわれちゃったことになるような気がしてクズ拾いすらできなかったんじゃないかと心配になるのでした。

PS.途中「ひょうきん絵描き歌」が出てきたついでに最後に書いておきますが、日本にも「パパ・ウム・モウ・モウ」の替え歌(?)を作ってしまった奇特なお方がいらっしゃいます。もちろん大瀧詠一大先生ですね。

うなずきトリオ/うなずきマーチ