『DEBUT AGAIN』〜大滝詠一ベストセレクション考 | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

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10位 A面で恋をして/ナイアガラ・トライアングル2 (81年 松本隆/大瀧詠一)
09位 冬のリヴィエラ/森進一 (82年 松本隆/大瀧詠一)
08位 DAWN TOWN/シュガーベイブ (74年 伊藤銀二/山下達郎)
07位 さらばシベリア鉄道/大滝詠一 (81年 松本隆/大瀧詠一)
06位 快盗ルビイ/小泉今日子 (88年 和田誠/大瀧詠一)
05位 熱き心に/小林旭 (85年 阿久悠/大瀧詠一)
04位 風立ちぬ/松田聖子 (81年 松本隆/大瀧詠一)
03位 君は天然色/大滝詠一 (81年 松本隆/大瀧詠一)
02位 しあわせな結末/大滝詠一 (97年 多幸福 /大瀧詠一)
01位 恋するカレン/大滝詠一 (81年 松本隆/大瀧詠一)


15日から19日の5日間、ニッポン放送で大滝詠一師匠のアルバム『DEBUT AGAIN』が3/21(サンニーイチ)に発売されることを記念して特別番組「『DEBUT AGAIN』~大滝詠一ベストセレクション」がオンエアされました。放送がニッポン放送という大瀧さんの版権を管理しているフジパシフィック出版社の親会社という強みを活かしてか、『DEBUT AGAIN』の音源を世界初(笑)、独占オンエアというのも魅力だったのですが、18日19日には番組へのリクエストによる大瀧詠一作品ベスト10の発表があるということで、どんな10曲になるのかというのが非常に興味がありました。ちなみに「大滝詠一」作品ではなく「大瀧詠一」作品、つまり大瀧さんが楽曲提供した作品やプロデュースした作品も含まれるということです。

で、発表されたベスト10が上の10曲なのですが、感想としては「やっぱりね」というものです。

何がやっぱりなのかといえば、みなさんお気づきになるでしょうがほとんどの作品がアルバム『A LONG VACATION』以降の大瀧作品だということ。1曲だけ75年のシュガーベイブのデビュー・シングル「ダウンタウン」が入っていますが、これは大瀧さんのプロデュース云々というよりは山下達郎の人気によって世間に広がったものということで、これを除いちゃうと全てがアフター『ロンバケ』作品、大瀧さん的に言えば第二期ナイアガラ作品ばかりということになります。



はっぴいえんど後の大瀧詠一は自らのレーベル「ナイアガラ・レコード」を設立しソロ作、プロデュース作を発表していきますが、ナイアガラ作品については発売元によって大きく2つに分けることができます。75年のプロデュース作であるシュガーベイブの『ソングス』およびソロ作『ナイアガラ・ムーン』(当初はエレック発売)から始まりロックと音頭の融合という78年実験作(!?)『レッツ・オンド・アゲン』までのコロムビア時代、81年の『ロング・バケーション』から始まるソニー時代の二つで前者を「第一期ナイアガラ」後者を「第二期ナイアガラ」と呼びます。

この二つは発売元の違いだけでなく音楽面でも大きな違いがあります。第一期はノベルティ・タイプの楽曲(日本的にはコミック・ソングと呼ぶ)がメインで第二期はメロディ・タイプの曲がメインの曲が多い。ぶっちゃけていえば、第一期が三枚目路線で第二期が二枚目路線であり第一期がロック的であり第二期がポップス的であるといえ、その要因として第一期の歌詞は大瀧自身によるものが多く、第二期は松本隆による歌詞が多いという違いもあります。





ノベルティとメロディという二面性は大瀧詠一という音楽家のいちばん大きな魅力であったと考えます。はっぴいえんど時代の72年に発表したソロ・アルバム『大瀧詠一』では松本作詞と大瀧作詞のバランスもあってか一枚のなかに二面性がうまく収まっており歌手大滝詠一だけでなくプロデューサー大瀧詠一の魅力を知るには最良の一枚といえます。1stアルバムにはそのすべてが含まれているという言葉を思い起こさせる名盤です。セルフ・タイトルのアルバムなのですが表記が通例の「大滝詠一」ではなく『大瀧詠一』なのもこのアルバムの性格をものがったっているように思います。


(髪へのこだわりがBウィルソンの「キャロライン・ノー」を思わせるメロディ・タイプの初期代表曲。髪へのこだわりは25年後の「しあわせな結末」へつながる。前者は松本、後者は多幸福と作詞家が違うということは「髪」にこだわったのは大瀧さんということなんだろうな。)


(サウンド、歌唱がエルヴィス・プレスリーへのオマージュというのは過去にもありましたが、歌詞がすべてエルヴィス・プレスリーの楽曲名で作られているというのは世界を探してもこの一曲だけ。そこまでやるかというのが大瀧作品の魅力。)

本来であれば2枚目以降のアルバムもこの二面性のバランスをとりながら作成されるというのが常道なのですが、大瀧さんはナイアガラ・レコードのプロデューサーとして、レーベル全体の作品によってこのニ面性のバランスをとろうと考えます。ここが面白いというかヘンなところで、所属アーチストは所属アーチスト、ソロはソロと普通は考えるのですが大瀧以上のポップ・マエストロともいえる山下達郎率いるシュガーベイブのアルバムをプロデュースしながら、この素晴らしいメロディが詰まったアルバムとバランスをとるためには自分のソロはノベルティー・タイプで行くしかないと考え(っていうかマイ・ブームだったんでしょうけど)からニュー・オリンズのリズムを大胆に取り入れた傑作アルバム『ナイアガラ・ムーン』を作ったりします。


(言わずと知れたシュガーベイブのデビュー曲。高1の夏初めてこの曲を聴いた時にはそのウキウキするリズムとおしゃれなメロディーに、それまで聴いていた日本のロックや歌謡曲とは全く違うものを感じた。今思うと「新しさ」だったのかな。)


(アルバムを最初聴いた時にはコミック・ソングばっかと思ったけど妙に頭に残る歌ばっかりで繰り返し聴くことに。後になって思えば大瀧さんの歌詞はコースターズやなんかのロックン・ロールの歌詞の見事な翻訳といえるようなもので、メロディもリズムも歌詞も見事にロックン・ロールしていたんだと納得。日本のポップス史上最高のロックンロール・アルバムだと今は思う)

山下達郎、伊藤銀二と組んだナイアガラ・トライアングルでもメロディ・タイプは二人に任せ、自分はここでも盟友布谷文夫を歌い手に招き「ナイアガラ音頭」という珍曲(笑)を最後に収録してバランスをはかろうとしているのが泣けてくる。


(81MIXしか見つかりませんでした、すみません。とにかく最初に聴いた時は「・・・・」。でもそこは日本人の性というか気が付くと♪かったいこといわずに踊りやんせぇ♪と脳内リフレインしていた。「ナイアガラ音頭」は大瀧さんの異形、いや違う偉業のひとつと思う。


そしてこの音頭路線を拡大解釈しながら辿り着いたのが第一期ナイアガラの最終作にして日本のポップス史に残る最高の問題作『レッツ・オンド・アゲン』でした。



ということでノベルティ・タイプの名曲・迷曲を作り続けた大瀧さんですが、悲しいかなレコードはほとんど売れませんでした。唯一売れたのは大瀧さんの主な現金収入の手段でもあったCMソングを集めた企画盤『CMスペシャル』のみで他の作品はおおむね数千枚程度の売り上げだったといわれています。そんな状態でありながらこれだけの「売れない」作品(=趣味趣味音楽)を作り続けられたのはナイアガラ・レコードが自主レーベルであり自宅を改造した福生45スタジオで家内制手工業的に制作を行っていたからです。

ただ、そんな食えない趣味趣味音楽を作り続けることにも限界があり、音楽業界からの引退も考えた大瀧さんは最後に一枚だけ禁じ手としていたメロディ・タイプのアルバムを制作するためフジパシフィック社長の朝妻一郎の下に赴き、当時ヒットしていたJDサウザーの『ユア・オンリー・ロンリー』のようなアルバムを作りたいと相談します。大瀧詠一の才能のよき理解者であった朝妻は自分の関連会社であるポニーキャニオンではなくCBSソニーと契約を結ばせます。「ユア・オンリー・ロンリー」という曲はロイ・オービソンへのオマージュで哀愁のオービソン・サウンドをコンテンポラリーなサウンドで再現したものですから、そのアルバムを見せられたときに大瀧詠一がどのようなサウンドのアルバムを作ろうとしているのかを瞬間的に理解したのだと思われます。



朝妻の後ろ盾で潤沢な資金を用意した大瀧さんはパートナーとしてはっぴいえんど以来となる松本隆を迎え、最新の録音機材が設置されたSONYの信濃町スタジオに日本最高のセッション・ミュージシャンを何十人も集めニュー・アルバムの録音を開始します。ニュー・アルバムとはもちろん『ロング・バーケーション』なのは言うまでもありません。

第一期ナイアガラと第二期ナイアガラの違いは発売元と音楽性の違いと書きましたが他にもスタジオの違い、資金の違い、そして売れたか売れなかったかという違いもあったのです。




長々とビフォー・ロンバケ=第一期ナイアガラについて書いてきました。アフター・ロンバケ=第二期以降については、多くの方がご存知の活躍ぶりですからここでは書きません。

そうなんです『ロンバケ』『トライアングル2』『イーチ・タイム』というアルバムは数十万枚という単位で売れているし、大瀧さんが提供した楽曲、「風立ちぬ」や「熱き心に」なんていう曲何百万という人がカラオケで歌ったことがあるでしょう。それに比べると第一期ナイアガラの時代はレコードも数千枚しか売れておらずラジオから流れてきたとしても「あっ、大瀧詠一」って思う人は数万人もいなかったんじゃないかと思われます。ロンバケ後に第一期のアルバムもLPやCDで何度も再発されているので、持っているという人は今では数万単位でいらっしゃるのかもしれませんが、それでもアフター・ロンバケに比べるとまだまだ一般的じゃないのかなぁと。それが如実に表れたリクエスト・ランキングだと思います。

20位、30位とランキングを広げれば少しは第一期ナイアガラの作品も入ってくるのではと思われますが(少なくとも「夢で逢えたら」は20位までに入っているのではといいながらもそれもアフター・ロンバケのラッツ&スターのカバーによるという気もしますが)、とにもかくにも世間一般では大瀧詠一=アフター・ロンバケということなのですね。当り前か。

でも長々と書いたように大瀧詠一という人の大瀧詠一ならではの魅力というのはメロディ・タイプとノベルティ・タイプの楽曲が一人の音楽家の中に共存していて、共存しているからこそ余計にメロディ・タイプの曲は二枚目として響くし、ノベルティ・タイプの曲はより三枚目に響く、深いのである。

なので、いつの日かベスト10にバランスよくメロディ・タイプとノベルティ・タイプの曲が並ぶ日=大瀧さんの音楽が本当に理解される日がくるよう祈り、鳥肌音楽選曲の10曲を並べておしまいとしたいと思います。

01 ナイアガラ音頭/布谷文夫 (76年 大瀧詠一/大瀧詠一)
02 君は天然色/大滝詠一 (81年 松本隆/大瀧詠一)
03 論寒牛男/大滝詠一 (75年 大瀧詠一/大瀧詠一)
04 指切り/大滝詠一 (72年 松本隆/大瀧詠一)
05 クリスマス音頭/大滝詠一 (77年 大瀧詠一/大瀧詠一)
06 空色のくれよん/はっぴいえんど (71年 松本隆/大瀧詠一)
07 びんぼう/大瀧詠一 (72年 大瀧詠一/大瀧詠一)
08 恋するカレン/大滝詠一 (81年 松本隆/大瀧詠一)
09 たのしい夜更かし/大滝詠一 (75年 大瀧詠一/大瀧詠一)
10 Tシャツに口紅/大瀧詠一 (16年 松本隆/大瀧詠一)